第16話 予選第二回戦【CHOICE2・タウン】
正直村につくと、龍之介たちはその景色に圧倒された。小人たちが所狭しと動き回っている。
「なんだかお祭りみたいね」
「そうみたいだな。風船とか、のぼりとかあるし」
ひなたがきょろきょろと辺りを見渡している。切り株の上には色とりどりのフルーツが並び、あちこちに風船でできたクマやウサギの作品が置かれている。
「あ、旅人さんだ!」
「うわ!?」
急に手を引かれ、龍之介はその場にすっ転んだ。地面に叩きつけられたと思ったら、小人たちに取り囲まれる。絵本の中に飛び込んだようだった。
「手伝ってほしいの!」
「は?」
「今日ね、小人の村のお祭りなんだけど」
「うん」
「みんなあきたって」
「?」
集まってきたのは5人。よくよく見てみると、遊び出している。風船でバレーをしている小人、噴水で水遊びをしている小人、われ先にとケーキをほおばる小人。
「あきたって言って、みんな遊び出しちゃった」
「たしかにこんなにたくさんの飾り付けしてたらあきるよね」
紙ふぶきが降り注いでいる中、尚也が腕を組んで頷いている。紙ふぶきが本当の吹雪のようになってきた。
「こら! そこ! 紙ふぶきはいったん中止!」
ひなたに指をさされ、紙ふぶきを振らせていた小人たちがきゃぁ! と叫んで手を止めた。
(これ本当に【CHOICE】なのか?)
いままでの【CHOICE】はただひたすらに問題を解いていくだけなのに。そもそも物語がついているルールなんて初めて見た。
「これ、何かの罠なんじゃ?」
「ぼくもそう思う。ストーリーがある【CHOICE】なんておかしいよ」
寝ころんだ龍之介の手を引っ張って二人が言う。そうだ。ここがゲームの中という事を忘れちゃいけない。
(これは何かの足止めのトラップで、どこかに出口があるはず)
まだサモンバディーズに慣れていないおととしの龍之介だったら、足止めに気づかずずっといるだろう。その証拠に、耳には明るく楽しげで、心が弾むような音楽が聞こえてくる。
(そんなこどもだましに引っかかるかよ!)
幸いこの村は規模が小さい。全力で走ればそれほど時間ロスにはならない。【CHOICE】にはマップが無い。だから、自分達で歩いて行かなきゃ。小人たちはぽかんとした表情でこっちを見ている。小人たちの大きさは龍之介たちの腰ぐらいの大きさで、足もそんなに速くないだろう。
「龍も立ったし、早く走り抜けよう」
「そうね、先に進みましょ!」
走り出した二人の後追っていく。これでいいんだ。ゴールはないけれど、問題がこんなところに転がっているとは思えない。
「お兄ちゃん……」
呼ばれた気がして、龍之介は振り返ってしまった。さっきの五人が身を寄せ合い、じっとこちらを見ている。追いかけもせず、泣きもせず、ただじっとこちらを見ていた。それは、そう。あの時と同じ―――!
「龍! 進まなきゃ!」
「そうよ!」
「ごめん……二人とも……俺、やっぱいけない!」
「龍! 何を言ってるんだ!」
「こいつらを放っておけないんだ……」
「罠だって分かってるのに、どうして!?」
二人の進む先にゲートが見えるのは分かっている。そしてそれが閉じかかっているのも分かっている。
でも、だからと言って。目の前に困っている人がいて、黙って進むことはできない。
「俺、こいつら手伝ってくる! 【CHOICE】なら、エリア移動してもポイントはそのままだから!」
ぎゅっと服を掴む。これはバーチャルじゃない、本当の自分の服の感触だ。
「……仕方ない、か」
「これで予選敗退したら全部龍之介のせいだからね!」
「みんな……」
胸の奥にじわっと温かいものが流れてきた。尚也とひなたの方へと走っていく。ゲートはしまってしまうけれど、何かヒントがあるはずだ。
閉ざされたゲートの上からメッセージが浮かび上がる。絵本の上に丸文字が躍り出していく。
小人を手伝う選択をした君達へ
小人たちは村祭りをしたいと言ってるよ。
何とか君たちの知恵を振り絞って村祭りを成功させてほしい。
小人たちにはそれぞれ得意なこと、苦手なことがあるから注意してね。
「得意なこと、苦手な事か……」
「みんなわかる?」
「わかんなぁい?」
小人たちが一斉に首を横に傾ける。それが一ミリもブレが無いので、少しホラーだ。龍之介は”即退場”という最悪だけは避けられたので、ほっとした。
(でも、俺のわがままで二人の意見を曲げたんだ。俺ががんばらなきゃ)
「じゃあ、まずは会場の見取り図を見せてくれない?」
「そうね。あと無駄にごちゃごちゃしているから、片付けも必要よね? ゴミ捨て場とかごみの分別とかある?」
「はぁい! 持って来るよー」
ばたばたと5人の小人たちが走り去っていく。ひやり、と龍之介の背筋につめたいものが流れた。
あれ、これってもしかして……。
「龍はとりあえず力作業な」
「そうそう。あんたは黙って私の指示に従いなさい」
「な、なんだって―――!」
いきなり”戦力外”だなんてあんまりだ! 犬の武士がぴょんぴょんと跳ねて抗議をするのだけれど、二人は構わずに小人たちに話しかけている。
「ほいパス!」
「いてぇ!?」
急に目の前に何かが飛んできた気がしてとっさに叫んでしまった。VRなんだから感覚が無いはずなのに。
「その中に入ってる食材でパーティの食事を作る! 三番ちゃんと一緒にね!」
「は、はぁ?」
「龍之介さん、キッチンはこちらです!」
黄色の服を着た小人が龍之介を引っ張っていく。なんで三番なんだろう、と思ったけれど小人の背中を見てはっとした。背中にゼッケンのように四角い布が張られていて、そこに大きく3の数字が書かれていた。
注意深く見て行くと、小人たちの背中にはそれぞれ数字が書かれていた。
(だから三番ちゃん、なのか)
もうちょっとネーミングセンスを働かせて、ニックネームを考えてはどうだろうか。
三番ちゃん、と呼ばれた小人が連れてきたのは小人の家のキッチンだった。小人の家だからおままごとサイズかと思ったら、龍之介たちが普段目にする人間用のサイズだった。
龍之介はひなたから投げ渡された袋を開ける。意外と量がある。
(そっか、ひなたと尚也のアバターには”手”が無いもんな)
こちらは犬とは言え人のように振る舞うことができる。だから、料理担当、という事なのだろう。
「さてと、食材は……人参と、玉ねぎと、ジャガイモ、後はカレールー?」
「カレールー? 枯れるです?」
「いや、そうじゃなくて。カレーライスっている食べ物に使う食材だよ。よかった……カレーライスなら家庭科の授業で習ったから」
「おいしいです?」
「どうかな。このカレールー、甘口とも辛口とも書いてないし。でも、よっぽどのことが無けりゃ失敗しないよ」
たぶん。
(料理なんて家庭科の授業でしかやったことないぞ)
食べる前の準備をしたことはあるけれど。それと調理は別物だ。
(確か食材を一口大に切るんだっけ)
戸棚を探ると包丁が見つかったので、それで料理をしよう。
「あ、あれぇ?」
三番ちゃんが素っ頓狂な声を上げる。あわあわと震えながら涙目になって言う。
「どうしたの? 三番ちゃん」
「この本に作り方載ってるですが、私間違えたのです」
「?」
載ってるのかよ、レシピ。
「ここには4リットルと6リットルのますしかないです」
「うん?」
「でも、本には5リットルの水を作ってほしいと書いてるです!」
「無理じゃん」
三番ちゃんが取り出してきたますにはメモリが書いていない。普通のビーカーならメモリがついているから測ることはできる。けれど、目の前のそれはそれができない。ますと言っても木でできているわけではなく、ガラスのように透明だ。
「当てずっぽうじゃダメ?」
「駄目です! 村長が許さないです!」
「村長何者だよ。料理人か何か?」
「そういうわけじゃないですが、こういう事はきちっとしたい人なのです!」
いるいる、そういう人。
(そっか、ここは【CHOICE】の中だ)
知識ではなく知恵を問われるルールの中だ。それに、こういう問題は結構解いてきた。
ぺし、と両ほほを軽くたたいて龍之介はふたつのますを見た。
(こういうのは、トライ&エラーだ)
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