第15話 予選第二回戦【CHOICE1・ロード】

(アバターの事件に協力してほしい)

 瑞貴の言葉は本気だった。けれど、問題はここから先に進めるか。という事だ。予選で出場チームは10チームほどに絞り込まれる。

 そこに潜り込めるか、それだけが問題だ。弱音を吐いている暇なんてない。瑞貴は自分に何かを感じて協力を持ちかけたんだ。

 ルール【CHOICE】はひたすらに知識と知恵を問われる。知識と知恵は似ていて違うものだと姉は言っていた。

「いい? 知識っていうのは本を読んだり学校に行けば自然と手に入る。けれど、知恵はそれだけじゃいけないの。知恵というのはね――」

 ばくばくと心臓が高鳴っていく。姉はあの時なんて言っただろうか。忘れてしまって思い出せない。

「緊張してる?」

「ば、ばか! そんなんじゃない! これは……そう!」

「武者震いって言いたいんでしょ?」

 ひなたに図星をつかれ、龍之介の顔が真っ赤になる。

「そうだよ! どんな問題が出たって、俺が解決してやる!」

「もう、これだから……」

「龍。それだけじゃない?」

「どういう意味だよ、尚也?」

「本当に、苦手な【CHOICE】に挑むからビビっているだけ?」

 ぎくり。

 こういう時、尚也は本当に鋭い。

(言うべきかな? でも、二人にはあまり知られたくないな。もし、二人にも話す事だったら瑞貴はここに現れるはず)

 それなのに、瑞貴は龍之介だけに話した。その意味が分からないうちは下手に話してはいけない。それに、アバターを奪われるという事件は運営が解決するものだと二人は思っている。

 話したい気持ちをぐっと抑えて、龍之介はうなずいた。

「苦手なルールでも、二人がいれば問題ないって、ひなた言ったじゃないか!」

「まぁ、それはそうだけど……」

「知識はともかく知恵は応用がきかないもんね」

 そうだ。知恵はその場の機転が問われる。だからこそ、プレイヤーのそれぞれの知恵が試される。それぞれが生きてきた時間、経験がすべて問われる。

「進もう」

 ゴーグルをかけて、大会モードになっているか確かめる。チャット欄では互いに拳あう声が流れてくる。けなしたり、馬鹿にしたりする言葉はここには現れない。


「それでは! 【CHOICE】スタートだよ!」

 アナウンスの声とともに目の前に現れたのは森だった。それもリアルではなく、絵本に描かれるような陽だまりのある暖かな場所。下には色とりどりの花が咲き、遠くには鳥の鳴き声が聞こえてくる。

「これが【CHOICE】? いままでのフィールドとは全然違うね」

「いつもだったら昔のテレビ番組みたいな感じなのにな」

 龍之介は背伸びをしてあちこちを見てみる。けれど、どこにも問題が浮かばない。

「とりあえず進んでみましょ。【CHOICE】ならほかのプレイヤーがいないから焦らされることはないし」

「でも、それは逆にどのチームがゴールに近いか分からないってのもある。これまで見たことない形式なら、慎重に進もう」

「尚也の言う通りだ。あれ? あそこに人がいる?」

 森を抜けた先には二股に分かれた道があった。【CHOICE】にはマップは必要ないので、マップには何も表示されていない。

 龍之介が人だと思っていたそれは、絵本に出てくる小人のような人形だった。龍之介たちが近づくと、小人がこちらを見て飛び跳ねた。

 元あった切り株から歩天と転がり落ちてぱたぱたと手足を動かす。

『質問してね』

 そうつぶやいたきり黙ってしまった。かと思えば、しばらくするとまた同じことを喋っては止まっている。

「?」

 龍之介たちは小人を掴んでゆすってみても、ただひたすらに質問してね、というだけだった。

「見て、看板に何か書いてる」


【問題】

 この先には正直村と嘘つき村があります。正直村の小人は正直です。嘘つく村の小人は嘘をつきます。小人はどちらかの村から来ました。小人に一つだけ質問をして、正直村への道をきいてください。


「それで、質問してね。なんだ」

「見て、この小人かわいい~」

 ひなたが言う通り、絵本に出てくるような可愛らしい小人の人形だ。でも、今はそんなことをしている暇はないのだ。

「一つだけ質問しないといけないんだね」

「お前は正直者か、って言えばいいんじゃないか?」

「それじゃあ、どっちも”正直者です”って答えるわよ」

「それに、道をきくための質問が無くなるじゃないか。ちなみに、嘘つきかっていうのも同じく意味がないね」

 ひなたが抱えている人形をじっと見る。ぽかんとしている表情からは正直者か、嘘つきかなんてわからない。分かりやすい目印があってほしかったなぁ、と龍之介は思った。

「一つしか質問できないなら、正直者か嘘つきかでも通じる質問を考えないといけないね」

「ここは素直に、正直村はどっちですか? って聞く?」

 龍之介がおずおずという。真っ先にひなたが口を開いた。

「悪くはないけど……この子がもし嘘つき村の小人さんだったら違う方へ行くわよ」

「そうだね……さて、どうしようか」

 尚也も考え込んでいる。この小人が正直だったらいいのだけれど、問題は嘘つきだった場合だ。嘘つきだったら、間違った方向に導かれる。

(一つしか質問できないから、正直者を訪ねても駄目。単に村をきいても駄目)

 だったら、どうすれば……。小学生に向けて書かれた問題なのだから、答えは分かりやすいはず。でも……。

「あ、わかった!」

 ひなたが小人を抱えて元の場所に置く。

「答えが分かったわ!」

「本当か!?」

「ええ。じゃあ、一つ質問するわ!」


【答え】

「あなたはどちらの村から来ましたか?」


「え?」

 龍之介はきょとんとした。そんな質問だったら、小人自身への質問でも村の場所に対する質問でも何でもない。

 小人はゆっくりと手を挙げた。そしてとことこと右の道を指さして止まった。

「ありがとう! こっちが正直村ね!」

「ええええ!!??」

 走り出したひなたを追って龍之介が走り出す。

「なんだ、そういう事か……」

 走りながらナナホシテントウの尚也が呟いた。

「解説いる?」

「いる。だって、あの小人が嘘つきだったらどうするんだよ」

「うそつきでも問題ないんだよ」

「そうそう!」

 先頭を走りながらひなたが言う。

「あなたはどちらの村から来ましたか? これの答えはただ一つ。”どちらも正直村を指す”だよ!」

「はぁ?」

「この質問正直者なら正直村を、嘘つきなら嘘をついて正直村を指すって事!」

「そっか! だから、あえて村の名前を言わなかったんだな!」

「そうよ! それに、この問題は初歩も初歩だからさっさと切り抜けられてよかったわ!」

 う、と龍之介はうめいた。走っていくうちに村のような物が見えた。村につくとこんな看板が立てかけられていた。


「ようこそ正直村へ。ここの住人はみな正直です」


 その言葉を見て、正解したんだと龍之介は思った。その門をくぐり、次の問題を探すことにした。

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