第14話 アバターの行方

「午後からの予選第二回は【CHOICE】を行うよ!」

 予選第一回を通り抜けたのは龍之介たちのチームのほかに8チーム。その中に瑞貴は見当たらなかった。よその地区大会に出ているのか、それとも優勝者だからシード権があるのか、よく分からない。

 でも、去年はここまで行けなくて負けたんだった。

「今回の【CHOICE】は知恵比べ! チームのみんなでよーく考えてね!」

「げ」

 龍之介はうめきごえをあげる。だって、苦手も苦手の【CHOICE】それも知恵比べ、という事は今までやってきた問題を解いていくものじゃない。

「知恵比べなら尚也が頼りだぁ……」

「なに他力本願してるのよ。わたしたち三人いなきゃダメじゃない」

「う……」

「休憩をはさんで、午後2時からスタートだよ! それまで参加者のみんなはクイズのセンスを磨いて待っててね!」

 クイズのセンスなんて磨けるものなのだろうか。

「とりあえず、苦手な教科問題じゃないって事が分かっただけでもよかったわ。尚也君、頑張っていきましょ」

「そうだね。龍?」

「知恵比べの自身はないけどな……とりあえず便所!」

 たっと駆けだした龍之介は廊下に出た。同じ小学校の他のチームのほかにも、見覚えのあるチームも見かける。部屋に戻るチームもいれば、荷物を持って外に出て行くチームもいる。

(もし……あの時、スキルポイントが足りなかったら……)

 背筋が凍った気がして、龍之介は首をぶんぶんと振った。結果はともあれ、このまま進めたんだ。結果オーライ。

「龍之介、進めたのか?」

「瑞貴!?」

 トイレに続く廊下の壁にもたれた瑞貴がいた。夏らしい半袖の服になっていて、こちらを見る目は鋭い。

「お前、予選は?」

「シード権を使ったさ。俺は決勝戦から出るつもり」

「あの後、運営から何かあった?」

「…………」

 瑞貴が視線をそらした。やっぱり、解決していなかったんだ。あのリュウグウノツカイはどう見たって通常アバターではなくなっていた。かといって、エネミー登録しているようでもなかった。

「運営からは何も音沙汰はない。けど、これを見てくれ」

 ぽんと手元の端末に瑞貴からのメールが届いた。それを表示させると、あのリュウグウノツカイのほかにも操られているアバターの画像だった。

 人型もあれば獣型もいる。中にはロボットのような形のアバターもあった。

「このアバターはかつての優勝候補者のアバターだったんだ。それのどれもが引退済みのプレイヤーの物だったから、今までそこまで広がっていなかったんだ」

 引退済み。それは、かつてサモンバディーズで遊んでいた子ども達が進学や進級で遊ばなくなったという事だ。

 サモンバディーズは小学生を対象に作られたゲームだから、プレイヤーの年齢が上がれば上がるほどその人口は減っていく。

 中学生になってもする人はいる。龍之介の姉のように。けれど、それもつかの間だ。中学生になれば勉強や部活が始まる。サモンバディーズで出てくる問題が味気なくなってしまう。それに、公式大会には中学生以上の部門は存在しない。公式大会で戦えない、問題はつまらない、これ以上腕試しができないとなれば、自然と離れていくだろう。

「俺は運営からこの問題の解決を任せられたんだ。俺はその代わり、シード権の使用を求めたんだ。俺のほかにもこの問題を調べる人はいるらしい」

「!?」

「この地区は俺が担当で、正確な人数は分からないけれど、この問題は全国に広がっているんだろうな」

「なんで、その話を俺にしたんだよ。俺はただあの場に居合わせただけだろ?」

「分かってる。でも、お前にも協力してほしかったんだ」

「協力?」

 あの瑞貴らしからぬ言葉だ。誰かの協力を良しとしないのはこの間一緒に戦っていてなんとなく分かっていた。

 龍之介の表情を読み取った瑞貴も同じように苦い顔をする。

「あぁ、俺だけじゃ悟られる。優勝者の動きは犯人も分かっているだろう。あのリュウグウノツカイが俺を襲ってきたのは、俺にサモンバディーズの引退を迫るためにしたに違いない」

「それって、どういう意味だよ……」

「アバター……それも初期アバターには思い入れが多いやつは多い。お前だって、その犬の剣士のアバターが使えなくなったら困るだろ」

 あぁ、と龍之介はぎこちなく頷いた。このアバターは何日も悩んで悩んで選んだものだ。武士の装いも何度もゲームをすすめた先にそろえた。

「この地区大会の決勝戦にも表れる可能性がある。もし、お前がこの次の予選を勝ち抜いたら協力してもらうぞ」

「なんで俺が協力する流れになってるんだよ!」

「そう、だよな。悪い、あの時立ち向かってきたお前を見て、もしかして、と思ったけれど。お前にとってあのアバターはただのアバターだもんな」

「卑怯だぞ!」

「龍之介?」

「そんなことを言われたら協力したくなるに決まってるじゃないか!」

 あっけにとられた表情を瑞貴はむけてくる。

「なにが起こっているのか、分かんねぇけど。そんな顔されちゃ、去年ぼこぼこにやられた気持ちが収まらねぇよ」

 こちらなど眼中にないぞ、と言わんばかりに言葉少なに追い抜いて行った黒い剣士を頭に浮かべる。あの時の姿に、一種のあこがれを見た。

「次の戦い、俺が進めてやる。だから、お前は決勝戦で待ってろ」

「そうか。任せたぞ」

 そう言って瑞貴が去っていく。ほっとしたつかの間、龍之介ははと気づいた。

(俺、とんでもないことを約束したんじゃ……)

 去年と言わず、ずっと予選落ちしてきたんだった。それに、次は龍之介の大の苦手とする【CHOICE】だ。

「大丈夫。ひなたも尚也もいるんだ」

 襲ってくる弱気に蓋をして、龍之介は強く拳をつくった。


 暗い部屋にはいくつものモニターが備えられていた。一つ、二つではない。十数個もあるモニターにはサモンバディーズの画像が映し出されている。その中の一つにアイドルのような衣装をまとったウサギ耳の少女が現れる。

 少女はモニターの中をいったり来たりをして部屋の中央に座る人物に話しかける。

『ご主人。この地区の優勝候補はやっぱり瑞貴氏だと思われるデシ』

「うんうん。分かってるよ。でも、瑞貴氏のアバターはすでに獲得済み。となれば、この地区は優秀なアバターはなさそうだ」

『最近運営の監視も強くなってるデシから、御主人はこの地区ではなく別の地区の監視をするべきだと思うデシ』

「でもねェ。この地区からイヤーな予感がするんだよね。だったら、早めにこの地区は潰しておくに限る。分かってるね?」

『分かったデシ。準備を進めるデシ。全てはご主人の夢のために』

「夢? 夢じゃあないよ」

 そうだ。夢ではない。夢というのは叶えられないからそう言ってごまかしているんだ。自分は違う。それに、そんな温かいものじゃない。それを表すようにこの部屋には光は差さない。

「当然の権利を奪い返すだけだよ」

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