第12話 予選第一回戦【RUN・スプラッシュ】

「みんな元気―!! VR迷宮サモンバディーズ地方大会・関東ブロック開催するよ!!」

 せせらぎランドの屋上で視界のお姉さんが大声で叫ぶ。遊園地のステージには巨大モニターが設置されている。両脇の大きなスピーカーからはサモンバディーズのテーマ曲がガンガンなっている。

「今回はこちら、せせらぎランドからお届けするよ! 出場選手のみんなはVR体験ブースに移っているみたいだね」

 ステージを眺めている観客に手を振りながらしゃべっていく。

「今年で二十六回を数えるサモンバディーズの全国大会。今年はどんなチームが予選を勝ち上がり、そして全国へのチケットを手にするのか、私はとても楽しみです」

 お姉さんは背後のモニターを振り返り、そして手を挙げる。

「この地方大会を勝ち進んだ上位3チームには全国大会へのチケットが渡されます。全国大会の会場は毎年変わっていて、今年はなんと!」

 お姉さんが軽く飛び跳ねると同時に火柱が上がる。モニターに映し出されたのは、星型の森だった。気が星形に並び、その中央には建物が並んでいる。

 社会が得意な龍之介はゴクリとつばを飲み込んだ。

 これは、単なる森でも建物でもない。城だ。かつて日本を二つに分かち、武士による統治が終焉を迎えつつある時代にその産声を上げた、西洋の城を模した城。

「北海道が誇る名城、五稜郭です!!」

 うぉおお! 

 会場の歓声が一気に湧き上がる。サモンバディーズの会場はそれぞれの土地で有名なスポットが当てられる。去年は千葉県の九十九里浜だった。

「さぁ、この素敵な場所にたどり着ける勇気ある人は誰か! 早速だけど、予選第一回戦、その種目を発表するね!」

 ダララララ、とドラムロールが始まる。

「種目は【RUN:スプラッシュ】! 基本ルールは【RUN】だけれど、今回は時間制限があるよ」

 やっぱり、そうきたか。と龍之介は思った。個室に入れられた三人は目配せをして頷いた。と言っても、全員ゴーグルをかけているので視線は分からないけれど。ステージの事はゴーグルに映し出される映像で分かる。

 その端で”第一回戦の準備をしています。しばらくお待ちください”と表示が流れている。大会モードに切り替わっているので、大会が終わるまで通常のサモンバディーズのルームには入れないし、公式トークルームも同様に入れない。

 近所のいくつかチームもサモンバディーズに参加すると言っていた。顔見知りと戦うのはいつもの事だったけれど、今年こそ、全国大会に進みたい。

「それじゃあ! 第一回戦【RUN:スプラッシュ】元気よくスタート!」

 その声と同時に視界が切り替わる。よく見ているレンガ造りの迷宮とは違い、ウォータースライダーのような半透明なチューブが見えた。振り返ると尚也とひなたのアバターがいた。

「三人同時にスタートできてよかったね。ゴールの目星をつけながら行こう」

 龍之介がサーチスキルを切るか尚也に尋ねたが、尚也のナナホシテントウは首を振った。振るというよりふくろうの様にクルリと回った。微妙に怖いので、アイコンで返事をしてもらいたかったなぁ、と龍之介は思った。

「初手でサーチを切りたいところだけれど、ルールの詳細が知らされないうちからスキルポイントを消費するのは避けたいね」

「そうね。スプラッシュ、って事は水に関係するものだと思うけれど」

「っと、これは【RUN】だから走りながら話そうぜ」

 犬の武士が慌てて駆けだす。それに合わせてナナホシテントウと黒猫もついて行く。

 ピコンピコン、と表示された地図に赤や黄色の丸がせわしなく動いている。サーチスキルを切っていないので、道を示す白い線は見られず、丸だけが動いている形になっている。

 今このルームに潜っている挑戦チームは30チーム。この中に瑞貴がいる可能性は捨てきれない。そうなってしまったら、全国大会は望みが薄くなる。

(いいや、全ての競技の総合点で競うんだ。ポイントを稼いで、三位以内に入ればいいんだ)

 障害物を飛び越え、龍之介は走っていく。障害物も浮輪やブイといった海やプールに関係するようなものだった。

「うわぁああ!」

 振り返ると、何人かのプレイヤーが障害物にぶつかって悲鳴を上げている。まだサモンバディーズに登録して日が浅いんだろうなぁ、と龍之介は思った。

(【RUN】は姉ちゃんの得意ルール! 俺は鍛えられたんだ!)

 これくらいの障害物、何の苦にもならない。跳んだり、避けたり、くぐったり、龍之介は二人に声をかけながら進んでいく。

「龍之介!」

「なに!?」

「後ろから大きな音がする!」

 ひなたが背後を指さす。ふと足を止め見上げると、龍之介は目を見開いた。

「なんだ……あれ……!」

 ゴゴゴゴゴ!

 大きな波が後ろから迫ってきている。スプラッシュ、そういう事だったのか! と龍之介はゴクリとつばを飲み込んだ。どこかに逃げる? いや、この先はまだマップが出来上がってない。

 一か八かで逃げ込む?

 いや、時間が無い!

 ならば、できることは一つ。

(ガードスキルを切るしかない!)

「ひなた、尚也! あの波に捕まったらアウトだ!」

「アウトって言っても! 闇雲に逃げたら行き止まりに捕まって終わりよ!」

「こういう時は!」

 二人の腕をつかんで尚也が前に立つ。

「仕方ない……けど、これしかない!」

 尚也が手早く手元の端末を操作してメニューを開く。

「スキル:ガード!」

 ポイントが減るのは仕方ないけれど、ゲームオーバーになるよりましだ。三人を守るように壁が現れた。大波は二手に分かれて流れていく。

「助けて――!」

「飲まれる―!」

 横目で見ると、ガードスキルを切るのが遅れた子ども達が流されていく。

「これが今回のルール! 10分ごとに大波がスタート地点から流れてくるよ! 呑み込まれたらその場でゲームオーバー! 頑張って逃げてね!」

 司会の明るい声が聞こえてくる。あの波がまた襲ってくるまで、あと9分。マップを広げてみると、まだマップが埋めきれていない。

「早く駆け抜けないとだめって事だよな」

「そうだね。あの波だけはくらいたくないよね」

「よし、行くぞ!」

「ゴールの場所を絞ってから行くしかないよね。今僕達がいるのは、この右上のエリア。今、他のプレイヤーは中央に向かっている。僕達もそこに行こう」

 頷きあってコンパスを見る。中央に向かうしかない。

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