第7話 噂のエネミー

「正体不明エネミー難易度★5SLAYERに発見、かぁ」

「こうなるともう早いよね。広まるの」

「どこのトークでも持ち切りだね。誰が一番にあのエネミーを倒すかって」

 龍之介が出会ったあのリュウグウノツカイはあっという間に拡散された。あの後別のプレイヤーが遭遇し、その画像をトークに載せたのだ。トークにはそのルームの番号は載せていないけれど、★5SLAYERの部屋という事は確定したので、みんながこぞってSLAYERに参加している。

 学校の昼休みに龍之介たちはセメント山のトンネルの中に集まって話していた。龍之介の周りのプレイヤーたちはみんな同じ話をしている。


「なぁ、見た?」

「たしかリュウグウノツカイっていうらしいよな、あのエネミー」

「でかい上に早いし、逃げるって噂だぜ」

「俺達じゃ★5SLAYERなんて挑めるわけないしなぁ……」

「お姉ちゃんたちのチームも挑んだんだけれどあっという間に全滅したんだって」

「やっぱり上級生じゃないとだめかなぁ」

「地区大会前の予選をしているって本当?」

「あれが予選だったらいやだなぁ。絶対何かのバグだよ」

「運営から何も連絡が来ないの不気味だよね」

「わかるー」

「私たちはただ普通にサモンバディーズがしたいだけなのに……」


「やっぱりどこのチームも苦戦しているみたいね」

 三人がそれぞれ聞いてきた話をまとめひなたが呟いた。噂のエネミーに関しての情報は今の時点ではこの通り。


・姿はリュウグウノツカイという魚。

・★5SLAYERに出没する。

・出没するルームは非公開。(トークで発信できないため)

・上級生のチームでも全滅させられるほど強い。

・ある程度攻撃したら逃げる。


「こんなのどうやって戦えばいいんだよ」

「そもそも、私たち地区大会に出場するのよね。こんなの無視して別のやればいいじゃん」

「だよなー」

 あの時は興味が勝っていってしまったけれど、あんなのにかないっこない。むしろ貴重なスキルポイントを無駄に使ってしまう可能性だってある。今の目標は地区大会に出場する条件を満たすこと、それ以外ない。

 たしかに倒せばかなりのポイントが見込める。けれど、それだって確証なんてない。単なるバグである可能性だってあるわけだ。

「そういえば、俺瑞貴にあった」

「瑞貴って、あの去年の地区大会優勝者の?」

 尚也がきいてきたので、大きく頷いた。龍之介は二人に例のエネミーと会う前に瑞貴に手伝ってもらったことを話した。

「だからさ、やっぱり地区大会優勝者でも難しいんだってば」

「瑞貴ってプレイヤーはかなり腕が立つし、先延ばしにした方がいいよね」

「……臭うわね」

「は?」

「ひなたー。俺達ちゃんと風呂入ってるってば」

「違うってば。そのエネミーと瑞貴ってプレイヤーだってば」

「?」

 二人が首をかしげるので、ひなたは大きく肩を落とした。

「地区大会優勝者なら、あのスキルは絶対持っているはずよね。倒すつもりなら真っ先に使うはずじゃない、タイムを」

「タイム!?」

「そうか、戦うんだったら真っ先にタイムを使うはずだよね。なんたって、時間を止められるんだから!」

 スキル:タイム。

 ブレイク、ガード、サーチ、コール、そしてタイム。このタイムというスキルはポカのポイントが1消費して使えるのに対して5個も必要になる。このスキルを切ればどんな場合でも30秒時間を止められる。

 それは問題の解答時間であったり、相手との競争であったりするけれど、もちろん戦闘でも使える。

 すぐに逃げられるエネミーを倒すのならタイムは使うはずだ。普通のプレイヤーなら消費するポイント数に引け目を感じるけれど、瑞貴ほどの実力のあるプレイヤーなら1つや2つ持っていてもおかしくない。

「もしかして、瑞貴は知ってて放置してた?」

「龍之介と戦ってくれたのは、単に龍之介が危なかったから助けてくれたんじゃなくて、あのエネミーと自分の関係を知られたく無くてやったのかもね」

「どんな関係だよ、ひなた」

「それが分かったら苦労しないってば。それに、この件は手だししないってことでいいでしょ。はい、分かったらどうやったらスキルポイントを稼げるか会議しましょ。あと残り少ないんだから」

 ひなたがリーダーぶっていう。特に反論することもないので龍之介は黙っておくことにした。

「CHOICEでもいいけれど、今日はRUNにしようかな」

「え、どういう風の吹きまわしだよ、ひなた」

 いつもなら龍之介の好きなRUNは後回しにするはずなのに。目をぱちくりさせていると、ひなたはニヤッと笑った。

「今日はなんとイベントがあるんだよ!」

「イベント?」

「龍之介、お知らせは毎日チェックしなきゃダメだよ。今日はRUNの方でミニ大会があって、スキルポイントが一つ分増えるんだよ」

「つまり、私たちが優勝すれば一気に出場まで必要なポイントがもらえるってわけよ!」

「おおー!」

「普通は分かってていうんだけどな。龍之介らしいや」

「なんだよ! お知らせなんか見なくたって、ログインしたら最初に映るだろ?」

「読み飛ばしていつもすぐ閉じちゃうくせに」

「うぐ」

「なんだっけなー、先週も同じことしたよねー」

「確か、ログインボーナスの体力回復エナジードリンクがもらえるガチャだったねー」

「うぐぐっ」

「そーそー、みんな回していると思ってたのに、一人だけエナジードリンク無しでRUNを走ろうとしてた気がするんだけどなー」

「うぐぐぐぐっ」

「案の定途中で体力がなくなって、一人だけポイント無しでログアウトしちゃったよねー」

「うるさいな!! いいじゃねぇか! あの後すぐCHOICEでポイント回復したんだからさ!」

 顔を真っ赤にして叫ぶ龍之介を二人が笑い飛ばす。狭いトンネルの中で器用に体をねじって笑っている。

「じゃあ、今夜はRUNをするって事でいいよね」

「よっしゃ! 今日もベストスコア目指して頑張るぜ!」

「その前にちゃんとログインボーナスのガチャを回してからくるんだよー」

「分かってる!」

「じゃあ、改めて作戦会議の続きを―――チャイムだ!」

 場っとひなたがトンネルから出たので、あわてて二人も後に続く。チャイムの音に気づいた子ども達が一斉に校舎に戻っていく。ざわざわと音を立てて校舎に吸い込まれていく子ども達がいなくなった校庭はしぃんと静まり返っていた。

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