第4話 トライアル【SLAYER】 

 サモンバディーズで行われるゲームは全部で五種類。

 全ての基本のRUN、正確さが求められるCHOICE、判断力が問われるFLAG、チームとしての基礎力が磨かれるSURVIVAL。

 そして、それらすべてを総合し、個人としての力量が問われるのがSLAYER。

「ほんとうに、いいの?」

 不安そうに通信越しにひなたが問いかけてくる。SLAYERをしようと思う子ども達は少ない。本当はやりたくないはずだ。それなのに、二人ともついてきてくれる。

「龍之介がSLAYERをやろうっていうのは珍しいよね。まぁ、大会でSLAYERが選ばれることは多いし、今回はトライアルだから大丈夫だよ」

「ありがとう……あのさ」

「なに?」

「噂、聞いたんだ」

 スタートする直前、待機画面を見つめながら龍之介はつぶやいた。SLAYERはいつもなら使える通信機能が使えない。コールスキルも同様に使えない。二人に合流できるまで、たった一人で無限に広がる迷宮に閉じ込められるのだ。

「SLAYERに正体不明のエネミーが出るんだって」

「え? それってあり得るの? 正体不明って、サーチスキル使えば、どんな敵か分かるじゃない」

「それに、全てのゲームはリアルタイムで文科省にある大型サーバーに転送されているはずだから、正体不明のエネミーなんて発生しっこないよ?」

「噂だけどさ、気になって」

 ふぅん、とひなたが呟いた。

「正体不明って引っかかるけど、どうせ何かの見間違いか何かでしょ」

「そうだね。もしそれがあったとしても、すぐに通報すればいいし」

 ゲーム中に気分が悪くなってしまったり、ゲームのバグに気づいたりしたらすぐに通報できる。すぐに専門チームが対応に当たってくれて、今まで大きな問題にはならなかった。

「そう、だよな。通報すれば、いいんだし」

「それはそうと、今日は妙にSLAYERに人がいっぱいいるよね。こんなにルームが埋まったの初めて見た」

 トライアルには一緒に遊べる人数が決まっているので、ルールごとに細かく分かれたルームと呼ばれる個室のような物があり、定員が上限を超えるまではいることができる。大体ルームは各100個用意されている。

「そうね。いつもならSLAYERはほとんどガラガラなのに。さっき龍之介が言ったエネミーの噂を聞いたからかな?」

「あ、ホントだ。さっき、SLAYERのコメントスレッド見てきたら、みんなその事で持ちきりだ」

「……ホントだ」

 いつもはコメントなんて見ない龍之介も、尚也につられてみてみる。コメントスレッドはいつでも呟ける感想ノートのようなもので、雑談のようなものから問題の答えまで様々だ。ちなみにあまりにひどい言葉はかき込む前にAIが検知してはじくので、変なことを呟くことはできない。


コメ32:今日もあのエネミーいないなー

コメ38:あのエネミー見た奴いる? なんかすげー強いらしいぜ

コメ40:ルーム28と66が怪しい

コメ45:ルーム30に張り込んでるけど見ないなー

コメ55:やっぱり、ガセなんかなー


「……まじかよ」

「みんなそのエネミー狙っているみたいね」

 知らないうちにこんな楽しい事が起こっているなんて、龍之介は信じられなかった。サモンバディーズに登録してだいぶたったけれど、こんな事が起きるなんて聞いたことが無かった。

「よし、行こう!」

「いや、ちょっと待ちなさいって!」

「もうちょっとスレッド眺めてから行こうよ! 目撃情報とか!!」

 二人が止めるのを聞かずに、龍之介はSLAYERのルームの一つに入り込んだ。ブツリ、と通信が強制的に途切れる音がした。


 SLAYERのルールは簡単に言えば問題を解いて得た正解ポイントを使ってエネミーと戦う討伐ルールだ。龍之介の手には剣士の剣が握られている。ただ、これだけだと全然攻撃力が無い。一番弱い敵にでさえ返り討ちにされてしまうだろう。

「おーし! 問題解くぞ!」

 開始直前に出されるのは龍之介の学年に合わせた全教科のテスト。このテストでどれだけ正解ポイントを稼げるかにかかっている。

 ぺちぺち、と頬を叩いて気合を入れる。



 【問題:★4国語】

 次の俳句について答えましょう。

 【 】を集めて早し最上川 【 】に入る言葉は何でしょう。


「五月雨!」

『正解です』


【問題:★4算数】

 次の数字の最小公倍数を答えましょう。

 6 8


「えっと……24!」

『正解です』


【問題:★4理科】

 振り子の揺れる早さを上げたい、どうすればよいか答えましょう。


「…………揺れる幅を大きくする?」

『不正解です。正解は糸を短くするです』


 それからランダムに問題が出題されていく。時々間違えることはあるけれど、まずまずの正解を叩きだすことができた。体力のほかにも、この正解ポイントが尽きてしまってもゲームオーバーになってしまうことがある。


 10分程度の問題を答え、最終結果は次のようになった。

 

【獲得正解ポイント】

 国語:120

 算数:110

 理科:55

 社会:140

 英語:70


「やっぱり理科が弱点だな……」

 とはいえ、特異な国語と社会で120ポイント以上を獲得しているので、これで少し大きな敵でも戦えるはず。問題は敵が苦手な理科で勝負を仕掛けてくるかどうかだ。


 SLAYERのエネミーは問題を出さない。代わりに5教科か、総合点数で戦いを挑んでくる。例えば、エネミーが国語で勝負を挑んできた場合、龍之介の体力は120に固定される。その体力で戦い、エネミーから攻撃を受けるとその衝撃分ポイントが減っていく。ポイントは攻撃力と比例しているから、傷つけば傷つくほど攻撃力も下がる。

 エネミーを倒すと、そのエネミーが挑んできた科目の正解ポイントがもらえる。おおよそ30以下が雑魚、50で小ボス、70で中ボス、100以上が大ボスといったところだろう。

(けど、200ポイント必要なエネミーってなんだろう?)

 スタートと同時に走り出した龍之介は思った。200なんて聞いたことが無い。聞いたことがあるエネミーのうち、一番大きいポイントは100だ。その倍のポイントが必要だなんて聞いたことが無い。

 迷宮の中を走り回りながら、遭遇してきた小さなエネミーを切って倒していく。まだ空きがたくさんあるルームを選んだおかげか、龍之介以外のプレイヤーの姿はなかった。

「このどこかに、200ポイントのエネミーがいるんだろうか?」

 ガシャンガシャンと鎧が揺れる音がする。走っても走っても変わらないレンガの風景は、龍之介の方向感覚を容易に狂わせていく。

 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る