第2話 トライアル【FLAG】
「よし、★3算数問題クリア! これで、この場所は俺のもの!」
ピカーンと足元にある四角い表示が赤く染まった。龍之介は次のエリアへ進むことにする。今日は日曜日なので、友達の尚也を誘ってサモンバディーズをすることにした。サモンバディーズはオンライン対戦がメインの物だから、互いの家にいながらゲームができるのは大きなメリットだ。
都市開発が進み、子ども達が外で遊べるような場所が減り、あったとしてもボールや自転車が禁止、走る回るのが禁止、といった子供が遊べないルールがある場所が増えた。
ルールは【FLAG】というもの。陣取りゲームをVRでするルールで、迷宮の中にいくつかあるチェックポイントにあるFLAG、つまり旗をとるとポイントが入る。旗をとるためには問題に答えられなければならない。不正解だとライフゲージが減る。
ライフゲージはすべてのルールに共通していて、ゼロになったら負けだ。
「どんどん持ってこーい!」
「持ってこーい、じゃなくて、竜が行く方なんだけどなー」
尚也が通信で真っ当なことを言ってくる。つまんないな、と龍之介は思った。尚也の方はというと、迷宮の反対側から少しずつ自分の陣地を増やしている。今の獲得ポイントは龍之介が12、尚也が10で少しだけ龍之介がリードしている。
体力ゲージの方はまだ余裕がある。尚也の方は何度も間違えたため、あと一問でも間違えれば危ないかもしれない。
「よし、見つけた!」
目の前に開けた空間が見え、その中央に金色に光る旗が立っている。見るからに大量ポイントが手に入るような見た目をしている。
(大量ポイントゲットだ!!)
にやにや、と笑って龍之介は旗に手を伸ばした。すぐさま旗の表面に文字が浮かぶ。
「あ」
通信越しに尚也が呟いた。
「なんだよ?」
「先に言っとくね?」
「なんだってば」
「……ありがとう」
「だからなんだってば」
首をかしげながら、龍之介は旗に浮かんだ問題を心で読み上げる。
「それ、★5問題。しかも龍の苦手な理科」
問題を見るサーチスキルを使った尚也が悪びれもなく言う。★5問題といえば一番難しい問題で、その内容は中学校、最悪の場合高校の問題だって出る。
「うそだああああああ!!??」
【問題:★5理科】
水は化学式【 】で表される。【 】に入る言葉は何でしょう。
目が覚めるような問題だ。こっちはまだ小学5年生だ。それなのに、これは小学生の問題じゃない。こんなものが出るからサモンバディーズは侮れない。さっきまで小学校低学年や幼稚園レベルの問題が出ていたというのに、いきなりだ。
「コール使え……ないな」
コールは事前に相手を指定しないと使えない。こんな急にコールを使っても誰も捕まらない可能性が高い。そもそも、龍之介はコールスキルを使わずにもっぱらブレイクスキルをつんでいるから、ない袖は振れない状態だ。
「えっと……化学式ってなんだ?」
ピコ、ピコ、と解答制限の時間が迫る。目の前に浮かんでいる解答欄は真っ白だ。龍之介はゴクリとつばを飲み込んで、手を伸ばした。
【答え】 OMIZU
「不正解です」
ぶーっと、ブザーが鳴ったかと思うと目の前の旗が爆発した。その破片が龍之介の前に現れ、体力ゲージが減っていく。しかも、今までとは全く違う速さでだ。
「待って、これ……!」
体力ゲージを示すバーが無くなった。
「体力ゲージが無くなったため、プレイヤー2の勝利です」
無機質な電子音とともに、尚也のサモンバディーズのアバターが大きく映し出される。黒と赤の色が逆になったナナホシテントウだ。隅っこの方には腹を出して転がっている甲冑をまとった柴犬。龍之介のアバターだ。
「トライアルで★5問題が出るとか聞いてねぇぞ!」
「トライアルだからこそだよ、トライアルで慣れないと本番きついよ」
「ググ……」
ぐうの音も出なかった。
「ちなみにさっきの問題の答えはH₂Oだよ。って、なんだよOMIZUって」
「だって、化学式って英語って聞いたから……ローマ字にすればいけるって思って」
「だからって、お水はないだろ、お水は」
はぁ、とあきれた声が返ってきた。という尚也も尚也で、★3の社会の問題を間違えて吹き飛ばされていたのだけれど。
「トライアルで少しでもスキルポイントを稼がないと、来月の地区大会に間に合わないし。スキルポイント稼ぐならFLAGよりCHOICEの方がいいんじゃない?」
「CHOICEは問題を選べないからやだ」
トライアルは公式戦以外のサモンバディーズのバトルをいう。公式戦はオフィシャルという。この2つの差は審判が人間かそうじゃないかだ。2人がやったトライアルでは人工知能であるAIがすべての進行を担う。けれど、オフィシャルでは審判がつく。
トライアルをする理由は大きく3つ。
一つ、それぞれのルールを繰り返し行いルールになれること。
二つ、問題のパターンを覚え、オフィシャルで優位に立つこと。
そして、最後。これが大きな要因。
スキルを習得できるスキルポイントを獲得できるからだ。オフィシャルではスキルポイントは習得できない。代わりに限定スキルを獲得できる。
「やった、スキルポイント3ゲット! じゃあ、サーチに全振りっと!」
「サーチばっかりに使ってどうするんだよー」
「サーチは問題の判別のほかにも、解答を絞れるからね。サーチに振らない方がおかしいよ」
そう言って、いつも尚也はサーチにポイントを全て振ってしまう。もったいない、と思いつつも龍之介も龍之介でブレイクばかりに振ってしまうのでお互いさまだったりする。
「やっほー!」
「あ、ひなた!」
通信に割り込んできたのは二人の近所に住むひなただ。いつもこの三人でトライアルをしている。
「私も入れて―!」
「じゃあ、CHOICEでいいよね? 誰が一番解答できるか勝負だ!」
嬉しそうに尚也が言う。CHOICEは他のルールと異なり、ただ淡々と2択問題を解いていくものだ。冒険の感じがあまりしなくて、龍之介はあまり好きじゃない。
「CHOICE! いいよ!」
二つ返事で言われたら、龍之介に反論することはできなかった。
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