第316話
一瞬か、あるいはしばらくか。
そのどちらであるのか分からないけれど、間違いなくこの場の空気が完全に壊れて、俺と管理者の動きと思考が停止する。
子供っぽい。カルアは子供と呼べるような年齢ではあるが、その実年齢以上に子供っぽい……それこそ友人を持ったことがないような幼児のような発言だった。
「え、ええっと……と、友達って?」
「そのままですけど、嫌ですか?」
「あ、いや……嫌というか、意外というか……」
困惑したようにしてから、手に持っている花を持ちあげてこちらに見せる。
「お供えしてからでいい?」
「……ああ」
あまり人間味があるというべきか、死者を悼むような姿を見せられると毒気が抜かれる。
なんとなく続いて歩き、闘技場の舞台に置いた管理者に続いて酒を置いておく。
「……優しくしてやれるなら……なんであんなことをさせたんだ」
「必要だと思ったからだよ。するべきと思ったからする」
「……じゃあなんで、今更こんなことをするんだ。アイツは死んだ。もう死んだんだ」
口から出るのはやっぱり恨み事だった。
シルガの死に納得など出来はしない。クルルがそれで傷ついたというのも大きいが、自分と似た境遇だったせいか妙に同情してしまう。
「……ごめん」
「……悪い」
妙に弱々しい態度を取られるとやりにくい。本当は俺やカルアと会うつもりがなかったのだろう。
管理者の方もどうにも本調子ではない様子で、今までのような理不尽な強引さは感じられなかった。
いつも同じように振る舞うことが出来ないのなんて当然のことで、だからこそ、その人間らしさを理不尽に思う。
せめてお前が悪い奴なら、と理不尽なことを考えてしまう。
ガリガリと頭を掻いて、俺が何かを言っても喧嘩腰にしかならないと判断して、近くのベンチに腰掛け直す。
「カルアが仲良くしたいなら、止めはしない」
「えっ、あっ、や、やっぱり嫌でした?」
「……別に、そこまでじゃない。いや、どうだろうか。ギルドなら構わないが、部屋に遊びに来られたりしたら落ち着かないし、一旦外に出たりはするかもしれない」
考えは纏まらない。憎むには少し知りすぎていて、許すにはあまりに関わりが足りない。
かと言って深く関わり合いになりたくはない。
俺の馬鹿な考えでは、良い答えは見つからない。それならカルアに任せて……と思いはするが、それにはどうにも気は良くない。
……どうするにしても気に入らないか。
「……まぁ、俺は気にしなくていい」
「え、ええっと……友達って、なんで?」
「ダメですか?」
「まぁ……ダメではあるんだけど……君、すぐに死ぬから。理由は知りたいかなって」
「すぐには死にません。……ただ、ランドロスさんに似ていて可哀想だと思って……」
可哀想という同情心を隠そうともせずに口にしたカルアに、管理者はものすごく微妙そうな表情を浮かべる。
「え、ええ……いや、私……似てないと思うよ? 小児性愛じゃないし、ハーレム好きじゃないし、そもそも年齢も性別も違うしね」
「……いえ、でも、案外気が弱かったりとか押しに弱いのとか」
「……カルア、変な奴は全部俺に似てるって判断してないか? 似てないぞ」
暗くなった夜空の中、微妙な空気が流れていく。
「友達は嫌ってことなら、来ませんか? 迷宮鼠に」
「いや……それもおかしくないか? なんで自分で管理してる物件に自分で探索するんだよ」
「とても有利ですね。帰宅と攻略が同時に出来ます」
帰宅と攻略を同時に済ます意味はあるのだろうか……。
「それに、トウノボリさんからしても利点はあるとおもいますよ。そこそこの規模のギルドで、尚且つこれからも長く続いていくだろうことが確定しているじゃないですか。件の耳を切った獣人の件などを調査するのにも都合がいいですし、他のギルドと違って出身地を詮索したりもしませんよ」
「え、ええ……いや、管理の方で忙しいし」
「多少放っておいても大丈夫ですよ。なんなら私も手伝いますし」
「いや……そういうわけにもいかないしね」
「とりあえず見学しに来ますか?」
いや……来るなよ……。と思うが管理者は仕方なさそうに頷く。
「け、見学だけなら……また会いにいく必要があったから」
「是非来てくださいね」
「あ、うん。じゃあ、またね」
管理者はそう言ってから急いで去っていく。
……カルア……この世界の神的な人から逃げ出されたよ。
いや、まぁそれほど親しくないやつからグイグイ来られたら怖いよな。気持ちは分かるぞ、管理者。
特にカルアって顔が整っているせいで、近くでじっと見られたら妙に威圧感があるしな。
「……あー、俺達も帰るか」
「ん、そうですね。好感触でしたね」
「そうか? というか、本当に加入したらどうするんだよ。気まずいどころの騒ぎじゃないぞ」
「んー、探索者じゃなくて帰宅者になってしまいますね」
「いや、そもそもなんて説明するんだよ」
「普通に紹介したらダメなんですか?」
「ダメだろ。子供とかも普通にいるんだぞ。口止めはできないぞ」
流石に塔の管理者がいるとなったら国も動くだろうし、そうなるとギルドどころの話ではなくなってしまうだろう。
「んー、じゃあ、私の知り合いってことにします?」
「それはそれでどうだろうか。……初代とかメレクはカルアが王女なのを知っているわけだしな。そうなると変な勘違いが生まれそうだな」
「じゃあ、ランドロスさんの関係者ってことにしますか?」
「……そうなるか」
「嫌です?」
「……まあ、そりゃな。でも、別にそれぐらい構わない。カルアがそうしたいんならな」
カルアは困ったような表情を見せてから頷く。
「では、そうしますね」
「ああ、どういう繋がりとか聞かれたら困るから、設定とかは決めておいてくれ」
ボリボリと頭を掻いて、ゆっくりと立ち上がる。
どうにも調子が狂うな。……まぁ、いいか、何でも。
敵が減るならいいことだ。俺は家族を守れたらそれでいいしな。
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