第288話
もしかして今……俺、シャルに襲われているのか? 性的な意味で。
いや、まさかあのシャルがそんなことをするわけが……と思ったが、シャルの吐息はヤケに色っぽく、先程まで両親に見せていたような子供らしい表情は熱と情欲に浮かされたもののようになっていた。
幼い体には不相応なしなを作って、恥ずかしそうに、けれども期待を込めたような視線で俺を見る。
雨音に掻き消されるほどシャルの小さいはずの声は、妙に俺の深くにまで響いてきてしまう。
「……良くないと、分かってます。悪い子です。ずるいです。たぶん、みんなの信頼を裏切っています」
「あ、ああ、だから……な?」
俺が止めようとするも、シャルの手は肌を見せる羞恥に震えながらもゆっくりと服をたくし上げて、微かに浮いたあばら骨を俺に見せる。
相変わらずの細さに心配するよりも先に、その身体の白くてすべすべとした質感に見惚れてしまう。
普段はあまり見せないシャルの女性らしい姿。貞淑なシャルがするはずもないような、自ら服をはだけさせて体を見せ男を誘うという行為。
俺の手がシャルの手に握られて、遮るもののない白い腹部に触れさせられる。
筋肉も脂肪も薄い、けれども生物らしい熱の籠った腹。まだ未成熟ではあるが、その細さのために腰とは大きさに違いがあって微かにくびれを感じられる。
スベスベとしていて心地よい感触と透明感のある色合い。けれども少し指先で押せば生々しい生き物としての感触が分かってしまう。
こんな小さい体なのに、やっぱり女性であり、あるいは動物のメスとしての役割を持っていることがなんとなく伝わってくる。
子供を作れるのだろう。ということが理屈ではなく本能に伝えられるように、お腹を撫でているだけで生殖本能がドクドクと強まってくる。
「シャル……」
「ランドロスさん……」
お互いの名前を呼び合う。
呆気なく俺が誘惑に屈したことに気がついたのだろう。シャルはより一層に恥じらいを見せて、その恥じらいが余計に俺の興奮を誘う。
ガバッとシャルに襲いかかろうとしたその瞬間だった。
トントンとドアがノックされて、低い男の声が聞こえる。
「……ランドロスさん」
シャルの父親の声。
それを聞いて気がつく。そう言えば……壁が薄いから隣の部屋の話し声は丸聞こえだったんだった。
全身から冷や汗が流れ出る。
……今の会話、もしかして全部聞かれていたのか?
……誘惑に耐えきれずに手を出しそうになったことがバレたのか?
そんな恐怖を覚えていると、シャルが慌てたように服を離して整える。
俺も慌ててベッドから出て扉の方に向かい、シャルが服を整えたのを見てから返事をする。
「え、えっと……どうかしましたか?」
「ああ、いえ、少しお聞きしておきたいことがあったのを思い出しまして」
土下座をする準備をしながら扉を開けると、聞こえていなかったのか怒った様子などはなかった。
「えっと、どうしたんですか? お父さん」
ほんの少し恨みがましそうにシャルが父親を見て、父親はシャルに軽く微笑んでから俺の方を見る。
「……もし、これから再び戦争が始まったら、どうするのか……と聞こうと思いまして」
ああ……シャルがいて、母親がいない状況で俺と話をしておきたかったのか。中に通そうとするが入る様子はなく、本当に軽く確かめるだけのつもりらしい。
「……もう魔族と人間の間で、大きな戦争は起きませんよ。俺達が生きている間には、どうやっても発生しません」
「それはどうして」
「単純に魔族の数が足りません。人間よりも強いとか、恐ろしいとか、そういう話を聞くと思います」
「……魔族の戦士はひとりで人間の十人編成の部隊を圧倒出来ると聞きましたね」
「まぁそれは割と事実として正しくはありますが……。そもそも魔族とこの国の人間は百倍以上数が違いますからね。それに加えて、千対千で戦うことになれば人間が勝ちます。魔族は長時間動く体力はないので、行軍するのが苦手ですからね。そもそも軍として動くのに不向きな存在です。多少魔族を集めて行動すれば突発的な被害は出るとしても、大きな被害にはなりません。人間よりも強いと言ってもその程度ですし、何より先程言ったように長時間の運動が苦手なので、狩猟は得意でも農耕が不得手で、狩猟では大勢を養えませんからこれから魔族が産めよ増やせよってしたとしてもたかが知れてます。なので、戦争で失っただけの兵を用意するのは俺達が生きている間には不可能ですね」
それが出来たら、管理者がまたアブソルトのような魔王を生み出していることだろう。
シルガを魔王として選んだのは魔力さえ用意出来ればひとりでも大規模破壊が出来ることや、さまざまな技術で人手が少なくとも人間に被害を出せるからだ。
シャルの父親が不安視している、再び戦争が起こることで半魔族の嫁であるシャルが多くの人から敵視されることはおそらく今以上には起こらない。
「……それに、俺とシャルさんの住んでいる迷宮国では、魔族も人間も同じ街で住めるぐらいなので、大丈夫ですよ」
「そうですか」
少し安心したような表情を見て、若干の罪悪感を覚える。ついさっきまで、この純粋に娘を心配している父親の娘を欲望のまま手を出そうとしていたんだよな。
……いや、嫁ではあるが。
「まぁ、この国では正体は明かせないので、滞在中はこういう色付きのガラスを目に入れて純粋な人間のフリをしますが」
「純粋な人間……ですか。やっぱり、人間寄りの考え方なんですね」
「まぁ……育ててくれたのは人間の母ですから。でも、人間の近くにいると、やはり魔族の血が流れていることを意識しますし、魔族を見たら人間のような気がして、どちらにも同族意識はそんなにですね」
同族意識を持ったのは……シルガぐらいだ。
「そういう具合でこの国には住めないですね。これからもしばらくは……魔王軍の残党が襲ってきたりする可能性がありますから、魔族への敵意は無くなることはないでしょうし」
「……ああ、まぁ……考えておきます」
「あと、院長先生にも半魔族であることは隠しているので……」
俺がそう言うと父親は頷く。
隠すことに協力してくれるらしい。
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