第230話
「……シャルには俺から求婚をした」
あまりの押しの強さに負けてしまった……。
俺の言葉を聞いて、少女三人はわーきゃーと騒ぐ。
「それで、どんな馴れ初めなの? プロポーズはランドロスくんからでも、告白はどっちから?」
「え、えっと……告白はされていないというか、いや、何度もされたと言えば何度もされたんですけど。……えっと、ランドロスさんに求婚をされたの、実は二回目に会ったときでして……」
「えっ、どういうこと? ほとんど話したこともないのに結婚したの? お見合いとか婚約者とか?」
今からシャルとの馴れ初めを人に教えなければならないのか……あまりの羞恥に心が折れてしまいそうだ。
……ある程度、精神が落ち着いてきた今になってはよく分かる。あの時の俺はおかしかった……。いや、仕方ないとは思うが、あまりにも強くシャルに依存していた。
今も生活も心もシャルに依存してはいるが、ベクトルが違うというか……。本気で、シャル以外の物は全くの無価値だと考えていた。
俺が落ち込みながら項垂れると、机の下でシャルの小指が俺の脚をツンツンと突く。
わざわざ小指なのは、先程の続きがしたいということだろう。
思わず、指切りの形ではなく、包み込むようにシャルの指を握ると、シャルは嬉しそうに緩めながらも、机の下でモゾモゾと動いて俺の手から抜け出して、そのまま少し強引に俺の手から小指を引っ張り出す。
机の下で先程の続きをしていることがバレないように何でもない風を装って、少女達からそっぽを向いてシャルが話すのを聞く。
「いえ、恋愛結婚です。えっと……その、初めて会ったのが二年半ほど前でして、ランドロスさんが森で行き倒れていたんです」
「えっ……お、思った方向性と違うんだね。もっと軽い感じかと思ってた」
「えっと、僕は孤児院の出なんですけど、ちょっと食べる物がなくて孤児の誰かが飢え死にしそうな状況だったので、危険をおして森に一人で食べ物を探しに行って、帰ろうとしたときに倒れていたランドロスさんを見つけたんです。それで持っていた食べ物を食べさせてあげて、孤児院に連れて帰ろうとしたら逃げられて……」
シャルの説明を聞いて、思っていた方向性とは違ったらしいが、それでも女子会は盛り上がっていた。
「へー、それはそれでロマンチック? だね」
「そうでしょうか?」
「うんうん。……あれ? でも、ランドロスくんが死にかけるような森の中でよく生きれたね」
「……あの時は、生きることが辛くて死ぬつもりだった。人と会いたくなかったから森で一人で死ぬのを待っていたんだ」
俺がそう言うと少女達は微妙そうな表情をして顔を見合わせる。
まぁ自殺しようとしていたと聞かされたらそうもなるか。
「えっ、えっと、で、でも、その出会いで変わったんだよね」
「まぁそうだな。……それからは、またシャルに会いたい一心で生きていた。もう死のうという気持ちには……まぁ、あまりならなかったな」
死ぬつもりで魔王と戦ったのと、シャルにフラれたと思ったときは絶望していたが……まぁ積極的に死のうとはしなかったしな。
「じゃあ、ランドロスくんが一目惚れしたんだ。……シャルちゃん、当時何歳?」
「八歳ですね」
「う、うーん、一目惚れとかそういうのは大好物なんだけど、八歳……対してランドロスくんは?」
「十七歳ですね」
「……逆なら、逆なら微笑ましいというか、素敵だと思うんだけど……!」
ほっといてくれよ年齢差はどうしようもない。
俺の運命の人が三人とも子供だったというだけだし、八歳児にベタ惚れしてしまったのも仕方ないことなんだ。
「まぁ、それから俺はシャルに再会することを目標にして……戦争を終わらせるために戦って、また同じ森に訪れたらシャルと再会出来て……それまでの思いが爆発して、思わず求婚をしてしまったんだ」
「う、うーん、歳が離れてなければ素敵だったんだけど……いや、離れてても素敵な話だよね」
少女達は顔を見合わせる。
どうやら歳の差がありすぎることを考えて恋バナを聞くとどうにも盛り上がれないと判断したらしく、彼女らは歳の差を気にしない方向で決めたようだ。
「いいね。そういうのはいいよね。一目惚れしてから二年ずっと好きだった。純愛だね」
「ああ、素敵なことだ」
「うんうん、やっぱりそういうのがいいよね。私にもそういう人が現れないかなぁ。あれ? でもくるのはバラバラだったよね?」
「あ、はい。えっと、その時は僕は返事をしてなくてですね。その、はしたないんですけど、僕、その時蜂の巣を手に持っていまして、蜂に襲われている状況で人と一緒にいるわけにはいかなかったのでそのまま逃げちゃって」
「は、蜂の巣? 案外…‥.見かけによらずパワフルだな。シャルは」
人のためにそういう無理をするところもシャルの素敵なところだ。まぁ、そういうことが必要になったら代わりに俺がするのでこれからはそんな無理はさせないが。
「それから……えーっと、まあ、プロポーズの返事をしに……こちらに来て、それからランドロスさんに助けられて好きになってしまったということです」
「いいなぁ。私もそんな一途に思われたいなぁ。……あれ、一途?」
少女達の視線がカルアを向く。
カルアは気まずそうに「あ、あはは」と笑って誤魔化そうとするが、そんなので誤魔化されるはずがなくじとりとした目を向けられていた。
「し、仕方ないなじゃないですかっ! 好きになってしまったんですから、横恋慕でも告白とかしちゃいますよっ! シャルさんとはまだ結婚も交際もしてなかった頃に告白したので、ギリギリセーフです」
「う、うーん、それはいいんだけど……ええ、今の話から、それなの? ランドロスくん」
俺の方に来た……。浮気を責められるような表情で睨まれて思わず頬を掻いて誤魔化す。
「いや、まあ……カルアとも色々とあって……」
「……ちっちゃいから好きになっただけじゃなくて?」
「別にちっちゃいのが好きなわけでは……」
と言おうとしたが、今も机の下で繋いでいるシャルの小指は小さくて好きだし、シャルの薄べったい胸に甘えたりするのも、カルアの小さい身体も、マスターの細い脚も好きで見ていると興奮する。
「それで、新婚生活はどうなの?」
「え、えっと……みんなで寝てますよ」
「へー三人で……ラブラブなんだ」
「……みんなで寝てます」
四人である。
「自分以外にお嫁さんがいるのって嫌じゃないの?」
「私は実家が側室とかいる家でしたし、私も一応側室の出なので抵抗はないですよ」
「僕は……抵抗がないわけではないですけど、ランドロスさんが喜ぶなら……と仕方なく許可をしました。……カルアさんのことも好きなのは好きですし、家事の分担も出来るので今は納得してますよ」
「キスとかした? し、してるよね、結婚してるんだから、キスとか……それ以上も」
「へ? え、あ……そ、それは、その……」
シャルは突然の問いに顔を真っ赤にして俯かせる。可愛い……。ではなく、めちゃくちゃ踏み込んでくるな、こいつら。
なんかこちらばかり根掘り葉掘り聞かれていて不公平な気がしてきた。
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