第229話
とりあえずやれることを終わったので、その場で座ってダラダラとしていると、家事を終えたらしいシャルがギルドにやってきて、女子会をしてるカルアや若い女の子達にペコリと頭を下げてから俺の方にやってくる。
「お疲れ様です」
「シャルもお疲れ」
「えへへ、ありがとうです。ランドロスさんの下着、ボロボロになってきていますが、捨てて大丈夫ですか?」
「ん、ああ、悪い、頼む」
「……あの、今あの子達に話しかけられたんですけど。参加していいですか?」
あの女子会か……変なことを教わらなければいいんだが……と思いながら軽く頷く。
「ああ、別にいいぞ」
俺がそう答えると俺の前に置いていた水の入ったコップをシャルが掴み、俺の手を引っ張った。
「じゃあ行きましょうか」
「えっ、俺もなのか? いや、俺は女子じゃないぞ」
「そんな勘違いはしてないですよ。どう見ても男の人……あっ、えっ、と、お、男の人のところを見たり触ったりして確かめたわけじゃないですからねっ!?」
「い、いや、別に疑っていないが……」
「夜中、気になって弄ったりしてないですからっ!」
顔を真っ赤にしてシャルが必死に否定するが、そのせいで余計に疑わしく感じる。
俺がシャルの顔を見ていると「み、未遂ですからっ」と言う。
未遂……寝ているときに弄ろうとしたのか。ダメだろ。それは。
シャルは赤らんだ顔をしながら誤魔化すように口を開く。
「とにかく、とにかくですよ。ランドロスさんと一緒にいたいですけど、参加もしてみたいです」
「……いや、シャルはそれがよくても他の奴は嫌がるだろ」
「聞いてきますね」
いや、俺はそもそも参加するのが嫌なんだが。シャルがさっさと言ってしまったせいで言いそびれる。
まぁ、普通に断られるだろうと思ってタカを括って待っていると、シャルがパタパタと小走りで戻ってくる。
「むしろ今呼ぶところだったそうですよ?」
「女子会に? えっ、俺女子に見えるのか!?」
「いや、見えませんよ」
じゃあなんでだ、と思ってからシャルを見る。シャルは女の子だが、その女子会に参加している中と比べると若すぎる。
13歳のカルアも若すぎるぐらいだが、それにしてもシャルは幼い。
そのシャルが呼ばれた。普段は参加していない様子なのに、今日に限って呼ばれて、俺も呼ばれた。悪い予感しかしない。
「……シャル、洗濯物は終わったのか? まだならやってくるが……」
「終わりましたよ」
「……掃除はまだだよな」
「もうしました」
……手際がいいっ! 結構人数多いのに、早い。いつもならすごいと感心するところだが、今日に限っては憎らしい。
逃げたい。ロリコンだけどロリコンと責められるのは嫌だ。
「……あ、あー、実は体調が悪くて……」
「へ……だ、だだ、大丈夫ですか!?」
シャルはめちゃくちゃ心配そうに俺のことをベタベタと触って額に手を当てて心配そうにする。
それは嬉しいが、顔が近い。シャルの可愛い顔が目の前にある。
可愛い。いや、あまりにも可愛いすぎてマトモに直視出来ない。肌は白く透き通るようで、整った顔立ちと、可愛らしいくりんとした瞳とその上に見える長い睫毛がパチリと瞬きをするたびに揺れる。
思わず、見慣れ始めたはずの顔を見てドキッとしてしまう。
……ロリコンと言われても仕方ないほど、シャルの容姿に強く心が惹かれてしまっていた。
「……いや、嘘だから、大丈夫」
「えっ? あっ、なんだ……よかったです。でも本当に心配しちゃうので仮病はダメですよ? 指切りです」
「えっ……お、おう」
シャルの細く白い小指が俺の指に絡められる。当然のことながら指の大きさも太さも全く違っていて、あまりに自分のものと違うシャルの指と繋いでいると、その体の小ささが分かってドキドキとしてしまう。
思わずぼうっとしていると、シャルが俺の方を見てにこりと笑う。
「……指切っちゃうの、勿体ないですね」
俺のものかシャルのものか分からない手汗で少しだけぬるっとした感触。位置がズレてしまったのをシャルが滑らせるように指を動かして軽く直していく。
指切りをすると言っていたのに、全然切らずに繋ぎっぱなしで顔を見合わせる。ギルドの中だが、どうにも心が惹かれてしまい見つめ合っていると、唐突にきゃぴきゃぴとした声が近くで響く。
「わわっ、イチャイチャしてるっ」
「邪魔しちゃ悪いよ。キナ……」
その声にシャルの肩が大きくびくっと震えて、パッと指を離す。顔を赤らめてワタワタと誤魔化そうとしているシャルを見ながら、シャルと繋がっていた小指の熱を離さないように軽く握り込む。
顔を上げるとじとりとした目を俺に向けているカルアと、物珍しそうに先程の細剣の少女と魔法使いの少女二人がこちらを見ていた。
……来てしまった。どうにか行かずに済む言い訳を考えていたのに、あちらから来てしまった……。
俺が軽く絶望していると、シャルがワタワタと手足を動かす。
「い、今のは、アレです。指切りをしていただけでして、決してイチャイチャしていたわけでは……ね、ランドロスさん」
「ああ、まったくもってイチャイチャはしていない。真面目に指切りをしていただけだ」
「ん、んぅ……そういう風に言われるのは言われるので嫌なんですけど」
「……じゃあイチャイチャしていた」
俺がそういうとシャルは顔を恥ずかしそうにして、少女三人はキャーキャーと言う。
「イチャイチャはしてないです。全然、まったく」
「……どうしろと」
俺とシャルがそんなやりとりをしていると俺の座っている机の周りに椅子を持ってきて俺達を取り囲む。
「ね、ね、結婚ってどんな感じなの? ランドロスくん」
「……か、カルア、助けてくれ」
少女がずいっと俺の方に顔を寄せて、俺は思わず椅子を引きながらカルアに助けを求める。
カルアは「観念しろ」とばかりの表情を浮かべて首を横に振る。
「ランドロスさん、無理ですよ。逃げられないです。若い女の子は恋バナが好きなものなんですけど、迷宮鼠の中って狭すぎて恋愛の数も少なければ、そんな盛り上がれる感じのもないじゃないですか」
まぁみんな「迷宮鼠の中で出会ってパーティを組んでるうちに仲良くなった」とか「仕事終わりに受付や給仕や事務仕事をしている女性を口説いた」とか、そういう馴れ初めばかりだからな。
……迷宮鼠の中では珍しい恋愛をしていたせいで目をつけられてしまったということか。
「そうだよ。逃す気はないからね。本音を吐くまで地の果てまで追いかけ回すから」
「他人の恋愛話のために地の果てまで行くのか……。いや、話したくはないんだが……」
「なんで?」
「俺にもプライバシーというものがあるだろ」
「ないよ」
「ないのか!?」
いや、あるだろ。あるよな……と思ったが、最近はシャルに何もかも面倒を見られだしたからあまりないような……。
多分パンツの色や柄まで毎日知られているからな。
……だが、俺にもプライバシーを知られる相手を選択する自由がある気がする。
愛するカルアの友達だろうと、決して口を割ったりはしない!
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