第227話

 多少手続きが面倒だが、一旦国外に出て少し開けたところに移動する。


「ランドロスさん、どうするつもりですか?」

「魔法使いでも、前衛が出来ないわけじゃないしな。俺やダマラスはかなり頻繁に魔法を行使するが前衛だしな」

「魔法剣士を増やすってことですか?」

「剣を使わなくても前衛ができる奴は出来るというか。まぁ武器がなんであれ、出来る奴は出来るし出来ない奴は出来ないんだよ。どんなのにも適性があるというか」


 カルアに少し下がらせて、剣を一本取り出す。魔王の大剣は試してみたいが、もしものことがあるといけないので木の棒だ。


 今回の集まりにある八人に剣を向けて言う。


「あまり難しいことを考えなくていい。やりたいようにやればいい。その中で、相性が良さそうな奴がいれば協力すればいいし、いなければひとりでやってもいい。一気にかかってきてもいいし、様子を見てもいい」


 一息おいて、近くに多種多様な武器を指したり転がしたりしてみる。


「興味があるやつは使ってもいい、欲しければそのままやる。ああ、でも弓矢は誤射があるから不慣れな奴はやめとけ。……戦っているうちに見えてくるものもあるだろう。戦い終わり、このままのパーティを組むのがいいと思ったらそうして、変えた方がいいと思ったら変えたらいい」


 ゆっくりと息を吐き出す。


「殺したぐらいじゃ死なないから、安心して殺しにこい」


 少し沈黙が流れる。開始の合図ぐらい出した方がよかっただろうか。

 若干気まずく思っていると半魔半獣のヤンが一歩前に出る。


「……もういいのか?」

「ああ、いつでも。覚悟が出来ないなら後でも構わないが……」


 俺がそう言った瞬間、足元の感覚が変わる。若干のぬかるみ。魔法の展開が早い……じゃないな。俺が話をしている間に組んでいたか。


 誰かは分からないが、いい仕事をする。

 だが、俺も特に抵抗なく脚がぬかるみに浸かるが、突っ込んでいたヤンの脚がぬかるみに突っ込んでずっこけた。


「っ! 誰だよっ!」

「ご、ごめんっ」


 俺は泥だらけの顔を後ろに向けているヤンの後頭部を木の棒でトントンと叩く。


「集中しろ、集中。何回でもかかってきていいから」

「……分かっている。……そもそも八対一で勝負になると思ってるのか」

「ん? ああ、木の棒しか使わないし、あまり早い動きで戦うみたいなことはしないから安心しろ」

「…………よし、分かった。……ぶっ潰す」


 ヤンはぬかるみの中でも機敏な動きをして跳ね回る。ぬかるみに慣れているわけではなく、半魔半獣という身体能力に優れる種族ゆえの力任せな一撃だ。

 真っ正面から俺に切り込んできたかと思った瞬間、横に逸れる。ヤンの背に隠れていた水の球が襲ってくるが、それは【空間把握】の魔法で事前に感知していた。


 ヤンの服を木の棒で引っ掛けて体勢を崩させたことでヤンが水の球にぶつかる。


 細剣を持った少女が脚を止めてヤンを抱き抱え、それを追い討ちする意味はないと思っていると、少しばかり大柄な男が俺の前に躍り出る。


「噂はかねがね。いざ、尋常に……勝負!」

「……実戦では口上はやめとけよ、今は構わないが」


 大剣と普通の剣の間ほどのグラディウスのような剣を横に振る。

 ……見たところ表面は軟鉄に見える。軟鉄だけの剣はありえないから、硬鉄の周りを軟鉄で囲むことで柔軟性や切れ味それに強度もある……と言ったところか。


 高そうな剣だな。と思いつつ、剣の柄を木の棒で抑えることで動きを止めて、そのまま腕を巻き上げるようにして剣を弾き飛ばす。その瞬間、細剣が俺に迫る。


 動きが速いと思ったら、足元を土属性の魔法で固めることでぬかるみを回避しているらしい。

 普通に回避しながら、木の棒でトンと腹を押して空間縮小を使うことで一気に遠くに引き離す。


 驚いている少女を他所に彼女が固めた足場を使って走ることで俺に迫って来ていた魔法を避ける。

 細剣の少女とヤンが止めようとするので一応空間拡大を使って無理矢理距離を遠くさせることで時間を稼ぎ、魔法使い達の前に躍り出る。


「……こういう時はどうする? いずれくるぞ」

「っ!」


 少女が土の壁を出そうとした瞬間、木の棒を投げて肩にぶつける。


「それは悪手だな」


 ゆっくりと近寄って木の棒を拾い上げると背後から前衛の三人がやってくるが、連携が取れていない。

 ヤンの剣の腹を木の棒で叩くことで横に逸らし、それによって細剣とぶつかって細剣も止まる。少し遅れてきた大柄な男の攻撃を後ろに動くことでゆっくりと避けつつ、木の棒を投げて魔法使いの一人にぶつける。


「ほらほら、ちゃんと守ってやれよ。普通なら、間に戦士がいなければ戦士を無視して魔法使いの方に行くぞ」


 木の棒がなくなったが、まぁこれぐらいの相手なら必要ない。

 細剣を避けつつ踏み込み、それを持っている手を上から握り込んで脚をかけることで地面に転がらせる。

 その勢いで少女が手放した細剣を手に持って、その先をチラリと向けてから適当なところに投げる。


「っ! なんで当たらない! そんなに速いわけでもないのにっ!」

「いや、別に俺を倒す訓練とかじゃないからな、当たらないことを気にする必要はないぞ?」


 それから剣士三人を相手にしながら魔法使いの魔法を避けたり防いだり、途中で邪魔をして発動を止めたりとして食らわないようにしていく。


 ……思ったよりも出来るな。魔法使いが多めで斥候がいないことを除けば一介の探索者として活動は出来るだろうと思えるレベルだ。


 これなら低階層の魔物相手にはそうそう負けないし、パーティのバランスを整えて経験を積めばいい探索者になるだろう。


「嘘でしょ? どうなって……」


 まぁ、俺やミエナやメレクのような戦闘慣れしている探索者とは差があるのは否めないか。


 適当に何度も転がしているうちに体力的な消耗から前衛の動きが緩慢になってきて魔法使いの魔力も尽きてきている。


 こんなものかと思ったが、休まずに突っ込んできているヤンが辞める気がなさそうだったのでとりあえずしばらく相手にしてやる。


 最後の方は魔法使いの魔力が完全になくなり、前衛のふたりも体力の限界がきたようで休むことになったが、ヤンだけは何度も俺の方に挑んできていた。

 が、八人からひとりになったのに勝てるはずもなく、フラフラになって倒れる。


「……お前、強くね?」

「今更だろ、それは」


 ヤンを軽く支えてやってから、休んでる七人の方に移動して、飲み物や汗を拭く布などを出してやる。


「どうだ? 自分と相性がいいやつや、自分が土壇場で何が出来るかとか分かったか?」


 俺が軽く尋ねると全員顔を見合わせて落ち込んだ様子を見せる。


「ランドロスさん、多分普通に落ち込んでいるので、少し優しくしてあげましょうよ」

「……えっ、いや、俺は一応魔王を倒したりしてるんだし、勝てないのは当然だろ」

「いや、それはそうかもですけど、普通はそれでも落ち込むと思いますよ」


 ボリボリと頰を掻く。実際に戦えば分かると思ったが……浅慮だったか。

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