第226話
クルルに頼まれカルアに勧められた集まり……下は15歳から上は24歳までの迷宮鼠の中でも比較的若年層の探索者がパーティを組むための集まりだ。
親が探索者で、周りも幼馴染みばかりという状況らしく、そのせいでパーティもなんとなく仲良しグループで組んでしまうためバランスが悪くなりがちだから、それの対策としてみんなで集まって決める。……ということらしい。
まぁつまり、仲の良い奴と一緒にいたいというばかりではなく、探索者としての相性の良い相手と組むようにということだ。
集まっているのは俺とカルアを除くと八人。男女四人ずつだ。
俺にとっても見覚えがある奴だけで、毎日顔を合わせると会釈だけするような仲の奴ばかりでなんとなく気まずい。
「では、ランドロスさん、どうぞ」
「えっ、俺?」
「そりゃあ、マスターに頼まれたのはランドロスさんですし。そういう意図でしょう」
まぁ、そうなのか……?
一応、俺は戦闘従事者としては経験がある方なのでそうかもしれない。
周りの視線が俺に集まっていることに気がつき、軽く飲み物で喉を潤してから口を開く。
「あー、初めて参加するランドロスだ。この集まりは探索者のパーティを組むってことが目的でいいよな?」
「あ、ああ」
近くにいた俺と同い年ぐらいの男が頷く。魔族と獣人という珍しい組み合わせのハーフの青年で、魔族が混じっている割に魔力が薄くツノもなく目も黒くあまり特徴が出ていないように見える。
若干変な形をした獣人という容姿で、なんかイケメンでモテそうだ。
「えーっと、一応マスターから頼まれたことだから適当に仕切ることにする。人間関係とかの把握は出来てないから、雑に探索者の基本だけ話していくぞ。……あー、迷宮に潜ったことない奴っているか?」
俺が尋ねると一番若そうな目が一つしかない種族の男が手を上げる。
「じゃあ基本からだな。探索者の基本的な稼ぎ方は大別して2パターンだ。ひとつは依頼、もうひとつは素材の売却。うちのギルドには基本的には救助依頼以外の依頼が来ないし、まだ迷宮に慣れていない奴が手を出すには危険だから、しばらくは素材集めによって生計を立てることになるな」
まぁ俺は初日から救助依頼を受けたが……俺はめちゃくちゃ強いから話は別だろう。
普通に戦える程度なら救助依頼は避けておいた方がいい。
「素材集めも分けると2パターンある。魔物か、魔物じゃないか。魔物なら当然戦う必要があるし、魔物以外の鉱石や植物を集める分なら、戦闘を避けることも出来なくはないが……正直なところ、魔物を狩る方がオススメだ。とりあえずは高い階層に向かわずに第一階層で経験を積むべきだが、正直なところ第一階層で取れるような素材って取り尽くされているか奥の方に行くかしないとダメだからな。奥の方に行ったらそれだけ接敵の機会が増えるから、魔物を狩るの以上に戦いが増える可能性がある」
そのまだ迷宮に潜っていない男の子以外は当然のことなのか興味がなさそうに頷いていた。
「まぁ、まとめるとだ、迷宮に入ってすぐの場所で魔物を一体狩って持ち帰るのが金銭的にも安全性でも一番のやり方だ」
「あー、そんなことは知ってるんだが、パーティをどう組むかって話だろ? 俺は一応固定でメルとキナと組んでるんだけど、なんか親に言われてここに来たんだが」
「どんなパーティなんだ?」
半魔半獣の青年が身につけている剣をトントンと叩く。
「俺が剣で切り込んで、ふたりが魔法で補助だ」
「あー、あまりバランスはよくないな。一階層なら群れの魔物もいないし、道幅も狭いから魔物に囲まれることはないから問題ないが、上の階層に上がるつもりならパーティを見直すか、そのメルとキナ? のふたりが多少近接でもやれるようにならないときついな」
この青年の立ち振る舞いや筋肉を見ると腕は悪くなさそうだが……悪くない程度だ。
「まぁそれは分かってんだけど……。この世代魔法使いばっかりなんだよな。あ、簡単に説明していくとな」
と青年が一人一人指差して名前と迷宮内での役割を教えていってくれる。
八人の中、剣士がふたり、魔法剣士がひとり、残りの五人が魔法使いらしい。
……確かにバランス悪いな。これなら若い年代でゆっくり迷宮に慣れて経験を積むのより、ベテランについていくような形の方がいいのではないか?
探索者は実力が近いもの同士がパーティを組むことが多いが、絶対にそうしなければならないわけでもないしな。
あとネネのような斥候が出来る奴もいないみたいだ。
「……うーん、八人パーティは流石に取り分とかの問題がなぁ。あと単純に一階層だと狭い。上の世代に頼むのはダメなのか」
「上も魔法使いが多いからな」
「……なんでそんなに多いんだ? 普通は魔法使いの方が希少だろ」
「なんでって……そりゃ、ガキのころからギルドの中で教わるんだから、当然だろ」
ヤンという名前らしい青年の言葉に頷く。
……ああ、ミエナがずっと子供に魔法を教えているからか。
一番面倒見のいいミエナが魔法使いで、幼い頃から積極的に教えているから魔法使いが多い……か。
まぁ探索者になるなら魔法が使える方が有利だしな。
普通は魔法を習うのは金がかかるし、魔力という才能が必要なので魔法使いは少ないが、迷宮鼠の場合は魔力さえあれば無料でしっかりと教えてもらえるため数が多いと。
カルアの方に目を向ける。
「……これ、前衛の戦士を増やさないと根本的な解決は無理な気がする。パーティの組み合わせの問題じゃないだろう」
思ったより深刻な問題を抱えているな、迷宮鼠の若年層。
「でも、そんな特訓をしてる間も生活にはお金がかかりますからね」
「親いるんだろ、こいつら」
「それはそうですけど、ずっと現役ってわけにもいきませんから」
最悪俺が生活費を出せば……とは思うが、あまりそういうのも良くないか。
「……カルアはなんで俺をこの集まりに誘ったんだ?」
「ランドロスさんがいるからみんな若干緊張していますけど、普段はワイワイ迷宮の情報交換をしたりしながらパーティを見直す会なんです。今回もあの子をどのパーティに入れるかの話みたいな感じで」
「ああ……なるほど。カルアは普通にお茶会に誘った感じだったのか」
俺よりギルドに馴染んでるなぁ、カルア。
まぁ……俺のいない時間ギルドにいるわけだし、馴染むのが俺より早いのは仕方ないな。
「とりあえず、パーティは改変した方が良さそうだな。多分マスターもそのつもりで俺に頼んだんだろうし」
俺は「よし」と言って立ち上がる。
小難しく「パーティに戦士は何人いる」や「人間関係の問題でこのふたりは離した方がいい」とかを考えるのは俺には向いていないし、俺がパーティを作るのを指示するのもおかしな話だ。
「とりあえず、模擬戦をやっていって相性のいいパーティを模索するか。結局は個人の意思だが、一緒に戦ってやりやすいかどうかを知るのは参考になるだろう」
まぁつまりは……だ。
「俺が相手役をやるから、全員でかかってこい。戦っているうちに連携が取りやすかったり息が合いやすい、相性がいいやつぐらい見つかるだろう」
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