第228話
全員でゾロゾロとギルドに帰り、泥などを落としてから再びギルドの方に集まる。
全員に、特にヤンに疲労の色が見えていて、グッタリとして席に着く。
正直なところ俺も疲れていてシャルに甘えたい気分だが、一応任されたことはやっていこう。
なんとなく昨日のカルアの話を思い出して、このヤンという青年がモテモテだったという知識が呼び覚まされる。
「……爆発しねえかな」
「どうしたんですか?」
「いや、モテてる奴を見るとなんとなく」
カルアが「ええ……」という目で俺を見て、机の下で脚をツンツンと蹴られる。
「あー、みんなお疲れさん。急にやらして悪かったが、どうだった」
「……自身の実力不足を痛感いたしました」
「あ、いや、そういうのじゃないから。全員割と強かったと思うし、心配するようなことはないと思うぞ」
「承知しました」
……あー、面倒くさがらずにチーム対抗戦とかにした方がよかったか? いや、でも実際に武器とか魔法を使うのには危ないしな。
武器は棒を使うとか出来なくはないが、魔法はそうはいかないので。
泥がかかったからか、髪を濡らして洗ったらしい細剣の少女が口を開く。
「……私はキナと相性が良かったように思うかな。魔法の属性的に補完しあえるのもそうだし、サポートも気が合ってたような……でも攻撃力には欠けてるね」
「なるほど、キナ……さんは?」
「えっと、私もやりやすかったですけど……言っているとおり、攻撃力には欠けるのと、あと……守ってもらえそうな安心感はなかったですね」
俺が司会になって色々と聞いていこうとすると、そうするまでもなく口々に「アレは良かった」「アレはやりにくい」などと話し合う。
そうしているのを見ていると、カルアがよく分からなさそうな表情で俺の方を見る。
「……えっと、ランドロスさん、なんでいい感じの方向に進んでるんですか?」
「言語的なのより感覚的にどうかってところは戦ったら分かるだろ」
「戦わないので分からないですけど。……あと、濡れた髪の女の子にでれでれとするのはやめてくださいね」
「……でれでれとはしてないだろ」
特に気にしていない。これが俺の嫁の二人やマスターだったら見惚れるだろうが、ただのギルドの仲間にはそんなに興味が湧かない。
カルアに「このこのー」と突かれて手で防いで握ったりとしていると、周りから意外そうな目を向けられる。
「カルアちゃん、随分親しそうだね」
怖くないの? と聞こうとして途中でやめたらしい女性を見て、なんと答えるべきか迷っていると、カルアがあっけからんと言う。
「ええ、まぁ……夫ですから」
「夫……? 夫っ……夫? いや、というか、旦那というか、配偶者というか……」
「はい、結婚してます」
少女が俺の方を見て指差す。
「ろ、ロリコンじゃん!」
「……ロリコンじゃない」
「いや、ロリコンだよ! えっ、何歳差!?」
「……七歳」
「ロリコン! ど変態! 強くてクールだと思ってたのに……ロリコンじゃん!」
「ち、違うからな。なぁ、カルア!」
ロリコンロリコンと責められて、思わずカルアに助けを求めると、カルアは深く頷く。
「はい。全然違います」
やっぱりカルアは分かっているな。と思って安心して話を聞く。
「ランドロスさんは全然クールじゃないですからね。今まで皆さんに話しかけたりしてないのは、ひとえに人見知りで気が弱いからですから」
「……と、突然裏切るなよ」
「裏切ってないです。私はランドロスさんのためを思って本当のことを言ってます。このまま友達が出来なくていいんですか?」
「俺はお前達がいれば、別に……」
俺が余計なお世話だと断ろうとすると、カルアがペコペコと頭を下げる。
「すみません、うちのランドロスがいつも感じが悪くて」
「い、いや、いいから、カルア」
「別に皆さんのことが嫌いというわけではないんです。ただ、話しかける勇気が出ないだけで」
「いいから、やめてくれ!」
「話しかけてやってくださいね」
そういうのは本当にやめてほしいんだよ。俺には俺のペースというものがあるわけで……。やめろ、生暖かい目で俺を見るな。やめてくれ。
「ロリドロスくん……お菓子食べる?」
「……食べない」
「ランドロリ、また一緒に飯でも食うか?」
「……食わない」
俺が首を横に向けてカルアの方を見ていると、カルアは俺の顔を手で持って前に向かせる。
「ほら、前を向いてください。私に甘えてばかりだとシャルさんに愛想尽かされてしまいますよ?」
「……シャルって、あの大人しい子だよね? 愛想尽かされる?」
「あ、シャルさんもランドロスさんのお嫁さんなんです」
カルアの言葉にこの場にいた全員が口を閉じる。ヤンがゆっくりと俺の方を見て軽く頭を抱えるようにする。
「……否定のしようがないほどロリコンだろ」
「違う。違うからな。俺はシャルとカルアのふたりだから好きになっただけで」
「……妹には近づかないように言っておくね」
「違うからな。俺はロリコンじゃない。そういう警戒心はいらない」
「……マジか。俺、こんなのにコテンパンに……」
性癖と強さは関係ないだろ。ロリコンじゃないが。
「そんなことより、パーティに関しては決まったのか?」
「あー、まぁおおよそは。とりあえずあまり大きくは変えないつもりだが、お試し少しずつ変更しておこうかと」
ある程度の参考になったなら良かった。
軽く話を聞くと少し入れ替えるのと新しく探索者を始めるひとりを加えるぐらいでおおよそはそのままらしい。
若年層と言えば、一応ミエナは人間換算では26歳程度だし、ネネも22歳なので若いが……実力に差があるか。
特にネネは数少ない斥候だが……気が弱いからな、友達が欲しくても話しかけたりは出来なさそうだしな。後でネネに話しかけてあげるように頼んでおこうか。
「ところで、ロリドロスさん」
「お前が俺をロリドロスと呼ぶのか、カルア」
「今から女子会をする予定だったんですけど、惚気ていいですか? バラしてしまいましたし」
「……俺の変なところを話さないならな」
「あまえんぼさんなところとかですか?」
カルアの言葉を聞いて眉を顰める。それも言うなよ……こんな人前で。
「……それも含めてだ」
「えへへ、元々話すつもりはないですけどね。ランドロスさんの可愛いところは私が独り占めしたいので」
「……そうか、それは助かる」
他の二人にも頻繁に甘えているが……まぁ基本的に三人ともふたりきりのときに甘えているので、もしかしたら全員「ランドロスが甘えているのは自分だけと思っているのかもしれない。
……全員に甘えてるの、バレたとき気まずいな。
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