第193話
まぁ今回買うのは寝巻きなので俺以外に見せることはないだろうし、そんな変なものは買わないだろう。
そう思って待っているとクルルが一着の衣服を持って俺の元にくる。
「ら、ランドロス、こういうの好き?」
「別に俺に合わせる必要は……」
そう言いながらクルルが持ってきた物を見て、思わず息が詰まる。
クルルが好きなワンピース型のものでピンク色……けれども重要なのはそこではなく……顔の前で広げて俺に見せているのに、クルルの顔の形や色が分かってしまう。
端的に言えば……透け透けだった。
こんなものを着ても何も隠せないだろう。だって透けている。
明らかに男の情欲を煽るためのもので、クルルのような幼い少女が身につけるようなものではないだろう。
なんでそんなものが子供の背丈向けにあるんだと思ったが、小人用かもしれない。
俺は想定していなかったような事態に焦りながら首を横に振る。
「そういうのは、良くないんじゃないか」
「そ、そうかな。でも、ランドロスと二人にしか見せないから、いいかなって……」
「いや、俺に見せるのもダメだろ」
「……なんで?」
なんでと尋ねられて……返答に困る。
エロいからなどと言うわけにはいかない……と、思っていると、クルルはもう一度こてりと首を傾げる。
「ね、なんで?」
そう尋ねるクルルの表情は赤くなりつつも悪戯げなもので……俺が困っていることを分かっててやっているようだった。
迷うが、下手に誤魔化しても余計に反応してしまうだけだと分かっているから、目を逸らしながら答える。
「……俺が我慢出来なくなるからだ」
「そっか、えへへ」
俺にそう言わせて満足したのか、クルルは元の場所に戻していく。
それから幾つか俺に見せにくるも、どれも扇情的なもので、クルルは俺の反応を見て悪戯っ子な笑みを浮かべる。
「ねえ、ランドロス。ランドロスはさっきの中でどれが好き?」
カルアとシャルが少し離れたところで二人で服を見ているのを見える。助けを求めるようにそちらに目を向けるが、そんな気持ちが伝わるはずはなく二人して服を見てきゃぴきゃぴとしているだけだ。可愛い。
「……買うつもりがないものをあまり触らない方がいいんじゃないか?」
「ん、買うつもり、あるよ?」
その言葉に、透け透けの服を着ているクルルの姿を思い浮かべてしまう。
……いや、ダメだろ。それは余計にダメだろう。
俺がそう思うが、クルルの猛攻は止まらない。
「着てほしかったらなんでも着るよ? ランドロスに喜んでほしいもん」
「……普通にいつものような可愛らしいのにしてくれ」
「どんなのがいい?」
服なんて分からないが……まぁ外に着て歩くようなものでもないしな。
とりあえず基本的に俺が性的に感じるものはダメだ。……これから寒くなっていくので暖かそうなもので……。
フワフワしたワンピース型……脚が見えるからダメだなスカート状だとめくれて下着が見えてしまう。
「これはダメだな」
「えっ、なんで?」
「スカートはダメだ」
「……えー、じゃあちょっと子供っぽいけどこっちのは?」
クルルはモコモコのパジャマを指差す。
露出はなくて暖かそうだ……いや、しかし……これを着ているクルルがとなりで寝ていて、俺は落ち着いて寝られるか……? 可愛すぎて夢中になって見つめてしまわないか?
「これは、ダメだか」
「えっ、なんで?」
「可愛すぎる。落ち着いて寝られない」
「ええ……じゃあこれは?」
「可愛すぎるからダメだ」
「これ」
「ダメだな」
「……めちゃくちゃ地味なのを選んでるけど……むしろどれだったらいいの?」
「……どれもクルルが着たら可愛すぎて眠れる気がしない。……俺はどうしたらいいんだ?」
必死で頭を悩ませているが、クルルは呆れたように言う。
「……ええ。普段寝てるよね」
「あれも見たいとか触りたいとか、そういう欲望を抑えて寝ているんだ」
「……じゃあ、可愛いのを選んだら、寝ずにずっとイチャイチャ出来るってこと?」
「……この前、それして、寝不足になったよな」
「ランドロス、こっちとこっちだったらどっちが好き?」
……何故か俺の好みを把握しているらしいクルルが、俺が特に可愛いと思ったパジャマを見せて選ばせようとしてくる。
ワンピースタイプの物はダメだと思ってもう片方を指差すとクルルはそちらを棚に戻す。
ああ、嘘とか見抜くの得意だったな……。
辛いのと嬉しいのがないまぜになったような感覚を抱いていると、クルルは似たような物をもう一着手に取る。
それから俺の手を引いて「今度こそランドロスに選んでほしいな」と言いながらやってきたのは、下着を陳列している棚だった。
……いや、無理。それは本当に無理。
俺が逃げようとするとクルルが「じゃあ、これかな……」と脅すように布面積の少ない下着の前に行って俺の方をチラチラと見る。
俺が逃げたらアレを買うのか……!?
あんなのをクルルが履いていて、俺は我慢出来るのか?
「……な、なぁ、それはやめよう。年齢に相応しいものにしよう」
「ランドロスが選んでくれる?」
「……いや、それはそれで……なんか、こう、クルものがあるというか……」
「嫌だった……?」
「……嫌というわけではないが……」
そもそも居心地が悪い店内で、余計に居心地が悪い下着の前。
そもそも俺がこんなところにいていいのかも分からないのに……下着を選ぶというのは……。
「か、勘弁してくれ……俺には無理だ」
「……じゃあこっちのえっちなやつ……」
「分かった。分かったから。選ぶからそれはやめてくれ」
どうしてこんなことに……。クルルは俺にパンツを見せてくれるので、ここで選んだものを履いているところを見ることになるはずだ。
……真面目に、一番俺にとって刺激が少ないものを選ぼう。
透け透けの下着に興味があるわけではない。どちらかというといつもクルルが履いているような子供っぽいものの方が似合っていて興奮してしまうので、むしろエロい下着を選ぶのが、むしろ正解か……?
いや、それはそれで直接的に性的だ。……可能な限り、地味なのを……と思って無地のものに手を伸ばそうとしたとき、白い指先と触れ合う。
「あっ」
と、俺の存在に気がついていなかったらしいシャルが声をあげる。
それから同じパンツに手を伸ばそうとしていたことに気がつく。
「……えっ、ら、ランドロスさんこれ、履くんですか?」
「いや、クルルに選んでくれと言われて……落ち着いた雰囲気のものにしようと……」
「あ、そ、そうだったんですか」
そう話しているうちに気がつく。……これ、シャルが買おうとしていたのか。
服装も落ち着いたものが多いが下着もそうなのか……と思わぬところで知ってしまって思わず目を背ける。
シャルは俺が譲ろうとしてもパンツを手に取る事はなく、顔を赤くして首を横に振る。
……まぁ、普通はこういう反応になるよな。
「……クルル、俺はもうダメだ。俺には選べない」
「ランドロスは仕方ないなぁ、もう」
俺がクルルの下着事情で一通りドギマギとした反応を見せて満足したのか、クルルは俺に隠れながら自分で選んだ。
……こうなることを分かってからかっていたな。クルルめ。
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