第192話
「えへへ、たくさん……たくさんですか。もう、ランドロスさんったら、えへへ」
シャルが嬉しそうに俺の服の裾を摘み、ツンツンと指で突いてくる。
ニコニコと近づいてきていた店員らしい人が俺達の話を聞いてゆっくりと引き返していく。
……いや、まあ、うん。分かる。俺でも三人の少女を連れて「何人赤ちゃんをつくる」なんて話をしている奴がいたら離れる。
分かる。とても分かる。俺も俺以外の奴がそんな話をしていたらドン引きだ。
俺でもカルアと同じぐらいの年齢の女の子を好きになったと聞いただけでドン引きだったんだから、三人に囲まれて子供を作る話なんてしていたら……うん、まぁ俺なら周りの少女には近づかないように言うな。
自分がどうしようもない変態なのだという自覚を深めて、若干落ち込みながら家具を見ていく。
「んぅ……高い、ですね」
「この前ので家具が壊れてなくなった人も多いでしょうから。……やっぱりつなぎで小さいのを買った方がいいですね。あっ、この椅子可愛くないですか?」
「え……でもやっぱり高いです……。ランドロスさんが持っている分を合わせて、あと二つ買うとしても……」
「えっ、いえ、揃えましょうよ。バラバラだと不格好ですよ」
「無駄遣いはよくないです」
カルアとシャルはアレコレと話し合うが、値段を気にしているシャルと全く気にしていないカルアで意見の食い違いが出ている。
俺としては値段も何も気にしていないのでどっちでもいいんだが……。
クルルに目を向けて尋ねる。
「クルルはどうするのがいいと思う?」
「えっ……そ、それは……その、わ、私も、頑張ってランドロスの赤ちゃん、その、頑張るね」
「いや、その話ではなく……家具の話」
「えっ……あ、う、うん。……ご、ごめん、聞いてなかった……」
「……あー、うん。まぁ……どの椅子がいいかってことなんだけど」
クルルは焦りながら双方の主張を聞く。
そういえばクルルは無駄遣いするからお小遣い制にされていると言っていたような……と思っていると、案の定カルアの方の椅子を気に入ったようだ。
「じゃあ、元々持っている方の椅子をその研究室の方で使って、部屋ではこっちの方でいいんじゃないかな?」
「えっ……でも、それでも高いですよ……?」
「でも、シャルが本を写してる時とか安くてガタつくのは辛いと思うよ。ほら、木材から違っていて、こっちの方だと湿気たり乾燥したりを繰り返してたら歪んじゃうから」
「む、むぅ……確かに、それは、そうかも……」
クルルの言葉にシャルが納得してチラリと俺の方に目を向ける。
最近は高階層の珍しい素材をたくさん集められているからいつも以上に収入があるので余裕だ。……というか、半日分の稼ぎでもこの椅子ぐらいなら百個は買える。
……もしかして俺ってめちゃくちゃ金持ちなんじゃないだろうか。
「まぁ、俺はそれでいいと思う」
「……でも、今も椅子ってあんまり使ってないのに、こんなにいいのいりますか?」
「あったら使いますよ。ないから仕方なくベッドに座っているだけで」
「そうでしょうか……うーん……。とりあえず、他の家具も見て決めましょうか」
一応保留ということになり、近くにあった机に目を向ける。まぁ椅子とセットのようなところもあるのでこれも一旦保留か。
「ソファありますよ。これ可愛くないですか?」
「……ソファ、いりますか? なんだかんだ、今ってギルドにいることが多いですし、部屋を移ってもそこはそんなに変わらないと思うんです」
またシャルとカルアの意見が食い違う。それを見たクルルがチョンチョンと俺の服の袖を引く。
「……仲良いね」
「そうか?」
「いや、ほら、シャルって遠慮しがちだから、こうやって自分の意見を言うのって珍しいなって。カルアとランドロスぐらいだよね」
「まぁ……それもそうか」
仲良くやれているならそれに越したことはない。
また俺に意見を求められたら困るが……と思っていると、カルアがシャルに言う。
「大人になってお酒が飲めるようになったら、ソファに座って寄り添いながらしたり出来るんですよ?」
「そ、それは……ん、んぅ……で、でも、まだそんなのは遠いですし……」
「別に今でも、ランドロスにお酒を飲ませて酔わせながらイチャイチャは出来ますよ?」
「た、確かに……」
シャルは俺の方を見て、まぁ欲しいならと思って俺が頷く。どれを購入するかを迷ったらしいが、カルアに言いくるめられて高い物を買うことになっていた。
続いてクローゼットのような棚だが、これは元々あるので飛ばして寝具の方に向かう。
「このおっきいのにしましょう」
とカルアが言う。
俺が使っているのは元々あった物なのでそのまま部屋に置いておくとして、もう一つあれば十分のはずなので、シャルは否定するだろうと思っていると、珍しくシャルが首を横に振らなかった。
「いいですね。可愛いです。でも、今はそれでもいいかもしれないですけど、身体が大きくなったら手狭ですからこっちの方がいいんじゃないですか?」
「……あれ、小さいのにって言わないんだな」
「今でも成人一人向けのベッドが二つで多少手狭ですから、大きくなったら寝返りも打てなくなっちゃいます。あと、ランドロスさんがいつも間のちょっとズレてるところに寝ているので……」
ああ、まぁ……三人とも俺と引っ付きながら寝たいらしく、その都合上、俺が端で寝るとひとりとしかくっつけなくなるので基本的に俺が真ん中で寝ることが多く、くっつけていたベッドの間のズレが気になっていたのは確かだ。……まぁ、うん、俺も挟まれて寝るのはとても幸せだからそれはいいんだが。
少し話し合ったカルアとシャルは折衷案が見つけられたらしくベッドも決まる。
「えへへ、このベッドの上でランドロスさんと引っ付けるんですね」
その通りなんだが、その言い方はなんかエロい気がする。
それから他の家具なども決めてから店員を呼んで購入したあと異空間倉庫に仕舞って外に出た。
次はカーテンや絨毯や寝具などを買いに行くことになって、またシャルとカルアの意見が食い違うが、何故か寝具だけは意見が一致していた。
後はどんな物が必要かなどと言う話をしていると女性向けの少し小洒落た衣服屋の近くにきて、クルルが俺の手を引く。
「あ、新しいパジャマとか買いたいから、ちょっと寄ってもいい?」
「ああ、もちろんいいが」
若い女性が多くて多少気まずいが、俺のような付き添いの男もいないわけではないようだ。
カルアの買っているような高級品でもなく、シャルが買うような地味なものも少ない。
何となくミエナやイユリが買っている物に似ていると思いながら見ていると、そのままミエナが着ているものと同じ服を見つける。
……これ、着ているのがミエナだったから気にしていなかったけど、客観的に見ると体の線が見えるような服装でちょっとアレだな。
嫁や恋人には着て欲しくない。というか、着ている姿を他の男に見られたくない。
全体的にはそんなにスカートが短いものや体の線が出る服は多くないが、心配だな。
そう思っているとクルルは子供、あるいは小人用の寝巻きのところにまで行って、服を手に取っていく。
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