第187話
朝になって眠い目を擦りながら三人とギルドに向かう。
メレクは朝弱いので、ゆっくり待っていたら……と考えていると寮の前でイユリと鉢合わせる。
「おはよ。あれ? マスターも一緒なんだ」
「……あ。い、いや、おはよう、イユリ」
クルルは焦ったように目をキョロキョロとしながら挨拶をする。
……クルルとの関係、いろんな奴にバレすぎていて隠さないといけないことを忘れていた。
イユリは慌てているクルルに不思議そうな目を向けて、俺はそれを誤魔化すために口を開く。
「師匠、おはよう。……食料生産の方はどうだ?」
「ん、ぼちぼちかな。まぁ、もし食料不足が発生してもギルドは大丈夫なぐらいで……難民支援にはまぁ気休めぐらいかな。流石にあまり出しゃばるのもあれだし」
「まぁ、すぐにはな」
無理をしたら……というか、国を囲う塀の外に畑を使えば大量に作れるだろうが、それは色々と問題がある。
ギルドに入ると、朝から酒を飲んでいるミエナを見つける。
マスターは「あ、あの子ったらまた……」と言ってギルドに入ってミエナの元に立つ。
「あ、マスター、おはよう」
「おはよう。もう、ミエナ、朝からこういうのはダメだよ。あっ、もう結構飲んでるね」
「……今は飲みたいんです」
ミエナは珍しくマスターに対して面倒くさい対応をせずに呟くように言葉を返す。いつもなら「なでなでしてくれたら飲むのをやめる」とぐらい言うはずだが……。
マスターも不思議そうに首を傾げる。
「どうしたの? ……体調悪いの?」
「いや、大丈夫。ありがとうマスター」
マスターに反応しないって….…これ、もしかして、マジなのか? マジでキミカに一目惚れしたのか?
カルアに押されてミエナの前に来て、前の椅子に座る。
「あ、ランドロス……どうしよう。どうしよう……キミカちゃんが夢に出てきちゃって……なんか、めちゃくちゃドキドキしてるんだけど」
「とりあえず……酒に逃げるのは止めろよ」
「逃げるよ。だって……」
まぁ、可愛い女の子だったのは分かるが……。と考えていると、カルアがパッと目を開いてミエナの方を見る。
「恋話ですか? 普通の女の子と恋バナってしてみたかったんです。シャルさんとマスターと三人でしてみたことはあるんですけど、とてつもなく盛り上がらなかったので!」
まぁ、そりゃ全員俺のことを好きなのだから盛り上がらないよな。三人で俺の話をするだけだ。……多分それいつもやってそうだしな。
カルアはよほど恋バナをしたかったのか、居座るつもり満々で、飲み物と昼食を頼んでから席に座る。
シャルも興味がないわけではないのか俺の隣に座ってミエナの方に耳を傾ける。マスターは仕事があるからと行ってしまったので、三人でミエナの話を聞くことになる。
まったく興味ないけど、まぁ二人とは一緒にいたいから一緒に聞くか。
「相談なら乗りますよ。私はこれでも恋愛マスターですからね。狙った獲物を逃したことはないです」
「いや、それ単純に俺を落としたってだけだよな」
「恋愛成功率十割です」
「一人だしな」
「……それなら僕もそうですけど。……まぁランドロスさんは得意ですよね。三股しているわけですし」
ミエナはシャルの言葉を聞いて「確かに……」と頷く。
「……もしかしてランドって、恋愛マスターだったの?」
「不名誉なあだ名はやめてくれ」
「そう言えば、巷では【ロリ食う】のランドロスって呼ばれてるしね」
「【異空】な。ニアピンしてるけど全然違うからな」
俺のツッコミは虚しく、ミエナは俺の方を見てペコリと頭を下げる。
「ど、どうか、どうかご教示を……」
「ええ……いや、頼られても困るんだが。俺だって恋愛経験が豊富というわけじゃないんだしな」
「三人も垂らし込んでる腕を見込んで!」
「垂らし込んでると言うな。……いや、本当に分からないぞ」
水を飲みつつ、頭を下げているミエナを見る。
シャルは俺の方をチラチラと見て気を遣った表情をしながらミエナに言う。
「あ、あの……ランドロスさんは……その、ほぼ初対面の僕に突然求婚してくる人ですから、あまり参考にならないかと」
「……求婚するのがいいってこと?」
「い、いえ……真面目に最初の方はすごく怖かったですから、良くないかと……。好きになったのは人柄を知ってからですし……。たぶん、ああいう風にされていなければもっと早くに仲良くなって好きになっていたと思いますし……」
ああ、やっぱりあれはダメなのか。……いや、まぁそりゃそうだよな。普通にダメだよな。あの時の俺はおかしかった。
再会が嬉しすぎておかしなテンションになってしまっていた。
ミエナは口元に手を当てて、カルアの方に目を向ける。
「カルアはなんでランドのことを好きになったの? 顔?」
「えっ、まぁ……好きになってからは顔も好きになりましたけど……。一緒にいて楽しかったのと、弱い立場の人に優しかったことですね」
「なるほど……。人柄、一緒にいて楽しい、人に優しい……。あれ、じゃあなんでカルアは私のことを好きになってないの?」
「……そういうところじゃないですか?」
呆れたようにカルアは言い、ミエナは「むぅ……」と考え込む。
「ミエナはなんで好きになったんだ?」
「えっ、顔かな。めちゃくちゃタイプなの」
「ああ、なんかマスターに似て生真面目そうな感じだよな。あと、人を見る時の表情も似てるな」
「そうそう。あの目で見られるのが堪らなくて……。それはそうとして、どうしたらいいと思う?」
どうしたらって言ってもな。
……そもそも住んでいる街は違うし、年齢も違うし、あの街の考え方からして異種族で連むのも良くないし……。
「……とりあえず、何か話して好きなものとか共通の趣味とか探してみるしかないんじゃないか? 友達になるところから始めたらどうだ」
「なるほど……流石は恋愛マスター」
「それやめろ」
「朝はゆっくりで、夕方くらいに帰ってくるそうだから、夕方までにお土産でも買っていこうかなぁ。指輪とかでいいかな?」
「発想がランドロスさんレベルなのでそれはやめましょう。普通、あまり仲良くない人から高価な物は怖いですよ。……市販のお菓子とかでいいんじゃないですか?」
高価な物は怖いのか……。
カルア、ギルドに入った当初から俺にたかっていたよな。……カルアの今着ている普段着も一着あたりかなり値段がするものだったが……その頃はあまり仲良くしていたわけでもないのに買わされたが……」
まぁ、一般的な少女であるシャルと王族で変人のカルアは違うよな。
感覚的に俺もカルアの方に近かったというか、俺もカルアも金銭にはまったくと言って無頓着だったから気にしていなかっただけか。
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