第159話

 シャルに言い負けたカルアは悔しそうにシャルを見る。


「……私はイチャイチャしたいんです。なので、そうしたんです」

「遊ぶのは遊ぶので楽しいじゃないですか。……というか、カルアさん達が積極的すぎて僕が我慢させられているんです。自重してください」

「……シャルさんもそうしたいならそうしたいじゃないですか」

「だから、そうするとドンドンアピールが激しくなるじゃないですか!」


 シャルとカルア二人でボードゲームの駒を初期位置に並べていく。

 ……この二人、口喧嘩しながらもなんだかんだ仲いいな。口喧嘩もボードゲームも俺を挟まずにやってほしいけど。


 必死に考えているシャルに比べてカルアは余裕があるのか俺の方に顔を向ける。


「ランドロスさん、今日はマスターにお風呂借りましょうね」

「……あ、やっぱり汗臭いか?」

「いや、汗はいいんですけど、若干生臭いです」

「生臭……ああ、体を冷やすのに河に入ったからだな。……風呂借りるか。いや、マスターに声をかけて今から入ってくるか」


 カルアやシャルに引かれたくないしな。

 ギルドの奥に行き、マスターの執務室に入ってポンポンと判子を押しているマスターに許可を取る。


「ん、別に許可を取りにこなくてもいいよ。あの部屋のものなら好きに使っても」

「そういうわけにも……」

「いや、私もランドロスの部屋を勝手に使ってるしね。遠慮されるのも悪いよ」

「……まぁ、それはそう……なのか?」

「うん。そうなんだよ」


 ……まぁ、それもそうか。よく分からないが、使っていいなら使うか。

 マスターに礼を言ってから執務室から出ようとすると、マスターに引き止められる。


「あっ、ランドロス」

「どうし……」


 と、尋ねようと振り返った瞬間。襟首がグイッと掴まれて、背伸びをしたマスターにちょんと唇をつけられる。


「えへへ、これだけ」

「……ギルドでやるなよ。バレると不味い」

「えへへ、ごめんね。でも、入ってくる人はみんなノックしてくれるから大丈夫だよ。嫌だった?」

「……いや」


 と言ってから俺からもマスターに口付けた。

 自分からしておいて、される方になるとマスターは分かりやすく顔を赤らめて恥ずかしがる。


「また、夜にな」

「う、うん」


 可愛いな。と、思って軽く抱きしめたあと外に出る。

 カルア達に風呂に入ってくることを伝えてから寮に戻ってマスターの部屋に入る。


 魔石を余分に置いて魔道具で湯船を貯めて、服を脱いで風呂場に入った。


 バシャバシャと雑に汗などを流してから石鹸で身体や頭を洗い、再び身体を流す。

 湯船に浸かって、ゆっくりと息を吐き出す。


 …………久しぶりに一人の時間だな。最近はずっと誰かと一緒にいて、一人で何かをするような時間はなかった。


 シャルとイチャイチャしようと、クルルと体を擦り合わせて互いの性感を刺激し合おうと、カルアと何度も舌を絡ませるキスをしようとも放出出来なかったものを、今のうちに出しておくべきではないだろうか。


 これは欲望に負けたわけではなく、むしろ欲望に負けて三人に手を出してしまわないようにするための知恵なのだ。


 どうしようと、やはりカルアやクルルの誘惑は非常に魅力的であり我慢しにくい。これは欲に負けた行為ではない。


 風呂から上がり、ベッドの上で目を閉じる。……今の俺の環境では、こういう一人になれる時間は希少だ。

 毎日出来るようなことではなく、可能な限り後悔を残さずにスッキリとした気分で挑みたい。


 シャルか、カルアか、クルルか……。このあと限られた時間の中、俺はどのような想像をしながら耽るべきなのか。


 ……やはり、ここは以前までのようにシャルの裸を想像して……。


 いや、しかし実際に見てしまったクルルの裸を途中で思い出してしまいそうだ。

 それなら初めからクルルの裸を思い出したり、ネネに押しつけられた写真を見て……と考えて異空間倉庫から取り出す。


 カルアの身体の柔らかな感触も忘れにくい。いや、シャルの控えめなアピールもいじらしくて可愛い……。

 ……どの時を思い出しながらやったとしても後悔しそうである。


 ……いや、時間ならあるんだ。今のうちに思いつく限りのエロい思い出を思い出しながら、とりあえずシャルの……と思いながらパンツを脱ごうとした瞬間、ガチャと玄関の方から音が聞こえてパンツを履き直して服を着る。


「あ、ランドロスさん! せっかくなんでお湯が冷める前に僕も入りにきました! ……あれ、どうしました?」

「……いや、なんでもない」


 天真爛漫なシャルの姿を見て、自分が想像の中で汚そうとしていたことに罪悪感が芽生える。

 ……こんな小さな女の子の裸を想像して性的に興奮していたのなど許されることではないだろう。


 ……後で謝るべきだろうか。いや、シャルの痴態を妄想してましたなんて正直に言った方が問題か。バレないようにする方がシャルのためにもいいはずだ。

 シャルはとてとてと俺の方にやってきて、ベッドに座っている俺を見て首を傾げる。


「あれ、ランドロスさんなんでベッドに座ってるんです? 疲れて眠かったんですか?」


 シャルが俺の姿に首を傾げる。確かに、風呂に入ったら二人が待っているギルドに戻るのが自然であり、クルルのベッドの上で何もせずに座っているのなんて不自然である。


「……ゆ、湯当たりしそうなのを冷ましていて」

「あ、大丈夫ですか? それなら窓を開けた方が……」


 シャルは善意から窓を開けて風を部屋に引き込み、その瞬間、俺がベッドの上に伏せて置いていたマスターの写真が風に揺らされてベッドから落ちる。


 俺は急いでそれを隠そうとしたが、たまたまシャルの近くに落ちてしまい……シャルがそれを拾い上げる。


「……えっ、ま、マスターさんの……変な写真……」

「ち、違うんだ。シャル! それはネネに押しつけられたもので、俺が撮ったものじゃない! ほら、今よりも幼いだろ? 俺がギルドにいた時期のものじゃないから……」


 と、言い訳を続けようとしていると、シャルはじとりとした目線を俺に向ける。……これ、怒られるやつだ。

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