第160話

 シャルはぷくりと頰を膨らませて俺を見る。


「……いや、その……クルルからも見ていいと許可を得ていて……」


 俺は言い訳を重ねるが、シャルの膨れっ面は直ることはなく分かりやすく不満を俺に見せる。


「シャル……その……ごめんなさい」

「……いえ、別に、マスターさんが許可を出しているということは疑っていませんよ。そういう恥ずかしいところを見せるのが好きみたいですし」


 そう言うシャルの声は感情をわざと隠すように平坦で、表情を隠すように俺から目を逸らしていた。


「い、いや、そうじゃなくて……シャルが嫌がるようなことをして……」

「別に、嫌がってはいませんが。お互いの許しがあってしている行為にどうとか言いませんよ」

「……いや、怒ってるよな……?」

「怒ってません」

「……ご、ごめん。もうしないから、許してくれ」

「怒ってません。好きにしたらいいです。どうぞ、続きをしたらいいです」


 ……出来るかっ!

 出来るわけないだろっ! シャルの前でそんな汚いことを……!


 そういうプレイなのか!? ……いや、違うな。冷静になれ、シャルがそんな男がひとりでするなんてことを知っているはずがなく続きをしろというのは、写真を見る続きということだろう。


 ……いや、それはそれで出来ないな。


「……どうしたんです。遠慮せずにどうぞです」

「いや……ごめん。シャルに嫌な思いをさせたいわけじゃなくてな……」

「……マスターさんが下着を見せるのを禁止にしたからこういう風にしてるんですよね。……すみません。ランドロスさんがそんなに女の子の下着を見ることに執着しているとは思っておらず……」

「違う、いや、違わないんだけど、違うんだ。シャルは勘違いをしているちょっとな、ちゃんと話そう」


 ちゃんと話していいのか……? という疑問もあるが、変に誤魔化して余計拗れるよりかは……。

 シャルは訝しげに俺のことを見て、ぽすりと音を立てて俺の隣に座り込む。


 くりくりとした可愛らしい目をジトリとさせて俺を見つめる。


「……勘違いって……ランドロスさん、女の子のパンツ好きですよね」

「いや、それは……そうなんだけど……そうじゃなくてな。……夜にクルルの下着を覗こうとしないようにするためにしていたというか……」

「……なんで昼に盗撮の写真を見たら夜には大丈夫になるんですか」

「……一度、そういうのでスッキリすると我慢しやすくなるんだ。……男というのは」


 シャルは疑うように俺を見つめる。いや、事実なんだが……。

 シャルはペタペタと俺の身体を撫でながら首を傾げる。


「……よく分からないんですけど。……見たら満足するというのは嘘ですよね。だって、マスターさんのパンツをずっと見てて目を逸らさないじゃないですか。一回見たら満足するなら、途中で目を逸らすはずです」

「いや、嘘ではなくて……」


 出せばスッキリするが三人の前でそんなことが出来ないからずっと見てしまっていた、などとシャルに言ってもいいものか。

 ……夫婦だからセーフだろうか。


 いや、こんな小さな女の子に男の思いについて話すのは……でも、変に隠して嫌われたら困る。

 ……嫌われないようにするのが一番大切だよな。


 俺は覚悟を決めてシャルと向き合う。小さく華奢なシャルと向き合うと、おさなげな顔が俺の方を向いてこてりと首を傾げる。

 まるっきり子供の仕草に、こんな女の子に男の性欲について話すのは、いけないことをしているようで興奮する。……いや、間違えた。いけないことをしているようで気まずい。


「シャル、そのな……色々あるんだ。男には」

「……そう、ですか」


 俺が言おうとすると、シャルは首を横に振る。

 シャルは長いスカートに隠れたうちふとももをスカートの中でもじもじとこすり合わせる。

 潤んだ瞳を俺に向けて、恥ずかしいそうに口を開いた。


「なら、僕をそういう目で見てください。僕もランドロスさんにそういう風に女の子として見られるのは嫌ではないというか……その、なんというか、嬉しい……ですし」

「……う、嬉しいのか?」


 シャルは俺から目を逸らして俯くようにしながら顔を真っ赤にして小さく頷く。

 その仕草に今すぐにでも押し倒したい欲求に駆られるが、必死に堪える。


「恥ずかしいですけど、その……はい……。そ、それより、その、どうぞ」


 シャルは俺の方を見ながらパッと手を広げる。

 これは……クルルの写真の代わりに自分を見ろということだろうか。


 ……結局、俺がナニをしようとしていたことは理解出来ていないようなので、続きをすることは出来ない。


「……シャル」

「だ、ダメでしたか? 僕じゃ」

「……いや、そうじゃない。そうじゃないんだ……!」


 近くにいられると困るだけなんだ。流石にシャルに見られながらするという勇気はない。それはそれとして興奮するけれど、ダメだろ。……どう考えてもアウトだし、俺が脱ぎ出した時点でシャルは逃げ出すだろう。


「……やっぱり、マスターさんや、カルアさんみたいに綺麗じゃないとダメですか?」

「……あのな、違うんだ。俺はシャルのことが大好きだしな、シャルのいないときは写真を眺めたりしている」

「……じゃあ、なんで僕じゃダメなんですか? ……そもそも何しようとしてたんです? マスターさんのパンツの写真なんて見て」

「……何って……まぁ、うん……いや、その……カルアに聞いてくれ。別にな、クルルだけってわけでもないんだ、これは」


 俺はカルアに丸投げした。そういうことを教えるのも同性ならセーフだろう。

 シャルはそれを聞いて、俺の言葉に嘘がないと判断したのかコクリと小さく頷く。


「……その、僕に協力出来ることならなんでもしますからね」

「……ああ」


 それなら少しの間でいいから一人の時間を過ごさせてほしい。……などとは言えず、シャルから目を逸らす。


「じゃあ、僕もお風呂をお借りするので……」


 ああ、そのために来たんだったな。

 俺は風呂の方に向かうシャルの後ろ姿を見つめる。


 シャルが風呂に入るが……俺は何もいかがわしいことは考えていない。

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