第45話
「ええ……ランドロスお前、またやらかしてるのか?」
「またってなんだよ、またって。冤罪だ」
パタパタとやってきたカルアは微妙な空気を感じたのか、俺とメレクの方に顔を向けて首を傾げる。
「お疲れ様です。……何かあったんですか?」
「いや、ランドロスがまたストーカーをしたって」
してない。身に覚えがない。そもそも、俺はギルドにいるか旅に出てるか、迷宮に篭っているかでストーカーなんてする暇はなかっただろう。
カルアなら分かってくれると思い期待して目を向けると、カルアは頬を引きつらせて俺を見る。
「ええ……本当に種族が人間の女の子なら誰でも構わないってレベルですね。……あの、そんなに人間が好きなんでしたら、私がずっと一緒にいてあげますから、他の人に迷惑をかけるのはやめましょうよ」
「待て、待て……。冤罪だ。誤解だ。俺はストーカーじゃない。そもそもお前と一緒に旅をしていたのにストーカーが出来るわけないだろ」
「……つまり、ランドロスさんはストーカーと孤児の面倒を見る二重生活……というか、二人の人物を同時にストーカーをするというとんでもないことをやらかしてたってことですか?」
「違う。どんな超人だ。そもそも四六時中カルアの隣にいただろ」
カルアは小さく口元を押さえて「確かに……」と小さく頷く。良かった。納得してくれた。
いや、そもそもストーカーを疑われること自体おかしいのだが。
俺がどういうつもりなのかと、クウカとネルミアに目を向けると、何故かクウカがわなわなと震えていた。
「わ、私というものがいるというのに、どういうつもりなの! これは浮気だよ! 他の女の子とずっと一緒にいるなんて!」
えっ、なんでキレられているんだ。……意味が分からない。
助けを求めるようにカルアへと目を向けると、カルアはドン引きしたように俺を見つめる。
「ええ……恋人がいたのに、あんな小さい子に言い寄ってたんですか?」
「いや、ほぼ初対面の人だけど」
「どうせまた、ほぼ初対面の人に求婚してたとかじゃないですか?」
「してない。その前科はあるが、この人にはしてない」
さっきから俺の信用低すぎないか? なんで初対面の少女の話はまるまる信じて、ずっと一緒にいた俺の言葉を信じられないというんだ。
カルアは呆れたように俺を見ながら、不満げにツンツンと腹を突く。
「そもそも、シャルとかマスターを小さい子って呼んでるけど、カルアも似たようなものだからな」
「違います。全然違います。あの二人に言い寄ったら犯罪です。衛兵がたくさんやってきて殺されても文句は言えないレベルです」
「そりゃ殺されたら文句は言えねえよ」
「私ならセーフです。これは厳密に決まったルールなのです」
「そんな法があるのか?」
「私がルールブックです」
「理不尽すぎる」
くそ、ラチがあかない。何故かクウカは怒っているし、カルアも怒っている。
「その女の子のこと、説明してくれるんだよね?」
……なんで?
「人間フェチもいい加減にしてほしいです」
そんな性的嗜好は持ってない。
メレクに助けを求めようと視線を向けると「反省しろよ」とばかりの視線を向け返される。なんで、なんで俺に味方がいないんだ?
視界の端に黒装束の猫耳が見えたので、助けを求める。
「ネネ、助けてくれ……」
「自分の不始末は自分でどうにかしろ。私を巻き込むな」
いや、不始末も何も、俺は何もやってない。完全に誤解だ。俺はシャル以外に求婚もストーカーもやっていない。
「……とりあえず、ちゃんと話し合ったらどうだ」
「話し合うって……」
何故か睨みあっているクウカとカルア。……何故だ。何が起こったらこうなるというのだ。
ネネが俺に向けてポツリと言う。
「……ギルドに入って短時間で女をたらし込みすぎだろ。この女たらし」
「間違いなく冤罪だ」
仕方なく川辺に座れる場所を作って、三人で囲むようにして座る。
隣でわいわいと、昼食の準備を始めた三人を見て少し羨ましく思う。俺もあっちに参加したい。
「……それで、ランドロスさんのことをストーカーと呼んでいましたが、どういうことですか? 私はランドロスさんとずっと一緒に……ずっと、ずっと、寝るときも一緒に過ごしていますけど」
「は、はあ!? どういうこと、ロスくん!」
「ろ、ろ、ろ……ロスくん!? なんでそんな親しげな呼び方を!?」
「……いや、初めてそんな呼ばれ方したんだが」
なんかこの子ちょっと怖くなってきたんだが、会ったの二回目だよな? 旅をしてるときに会ったりしたのかと思ったが、覚えがない。
「どういうことですか、ろ、ロス……ランドロスさん!」
「いや、知らない。俺、知らない。誰かと勘違いしてるんじゃないか?」
「勘違いじゃないよ! ほら、プレゼントしてくれた回復薬の瓶もネックレスにして持ってるんだよ!」
「……割れたら危ないからやめとけ」
いや、プレゼントというのだろうか。怪我をしている奴の治療に回復薬を渡すのは。それは違うような気がする。
「えーっと、あの時以外に会ったか?」
「な、何を言ってるの? ロスくん、ロスくんが買い物行くときとか一緒に歩いてるよ! デートしてるじゃん!」
「……ええ、覚えがないな」
「ほら、一緒に撮った記念写真だよ」
クウカに写真を渡されて、カルアと一緒に見る。
カメラの方を向いているクウカとギルドから出てきたところの俺。遠近法を利用してクウカの手の上に俺が乗ったような写真。自室でマスターの人形を抱きしめながら寝ている俺。シャルの写真を見てニヤけている俺。飯を食っている俺。欠伸をしている俺。
……おびただしい数の、俺の写真がそこにあった。
思わず声がひきつる。感じたのは恐怖だ。
いや、これ、自室にいるのにどこから撮ったんだ……。
「ひ、ひぇ……。ら、ランドロスさん、この人、この人ストーカーです!!」
「す、ストーカーじゃないよ! ロスくんとは交際してるんだから!」
「や、やばい奴ですよコイツ! ストーカーしてるランドロスさんをストーカーしてます! 大丈夫ですからね、ランドロスさんは私が守ります!」
怯えている俺をカルアが抱きしめる。カルアは抱きしめながらクウカを睨む。
「最初から、最初からおかしいと思っていたんですっ! ランドロスさんは私と同じ13歳以下の女の子にしか反応しないというのに、明らかにおっぱいがバインバインの女の子をストーカーしてるなんて、あり得るはずがないんですっ!」
なんで13歳で区切った。
「おかしくないよ! ロスくんはただの子供好きなだけでロリコンじゃないしっ!」
「ロリコンですよ、ランドロスさんはっ! 知らないってことは恋人じゃないってことです、はい、証明完了、私の勝ち!」
「ロリコンじゃない!」
「ロリコンです!」
……えっ、どういう揉め方……?
助けてマスター。俺にはどうしたらいいのか分からないよ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます