第46話
「全然分かってないよ! ロスくんは甘えん坊だからおっぱいが好きなんだよ! ほら、甘えん坊の証拠がこんなところにも!」
クウカは俺がマスターの人形に抱きついている写真を取り出す。
「はー、にわかです。にわかにも限度ってものがあります。ランドロスさんは大人の女性と旅をしていて、こっぴどく裏切られたという経験から歳下の女の子しか愛せなくなっているんです。むしろ大人の女性の象徴である乳房は苦手なのです」
いや、別に苦手じゃないけどな。
「……とりあえず、誤解が解けたわけだし、俺もあっちに混ざってきていいか? 俺もカニ食べたい」
「ダメです。ちゃんとハッキリ宣言していってください。13歳以下にしか恋愛感情を持てませんと」
「ええ……」
「そんなことないよね? 私のこと好きだよね?」
別に13歳以下にしか恋愛感情を持てないわけじゃない……。多分。
まぁ……言っていた方がいいか。勘違いされたままだと困るしな。
「えーっと、俺は13歳以下の女の子にしか恋愛感情を持てないので、ストーカーというのは勘違いだと思う」
これで大丈夫かと思ってカルアに目を向ける。
カルアは満足そうに頷く。
クウカはわなわなと震え、ビシッとカルアを指差す。
「ロスくん! この女に騙されてるよ! 子供に甘えるなんておかしい! おかしいよ!」
「ランドロスさんの性癖が狂っているのは否定出来ないです。でも、それは私がどうこうする前からのことですからね。私と会う前からマスターに甘えまくってました!」
……なんで俺の恥をこんなに元気に言うんだ?
放っておいてほしい。100歳超えてもマスターに甘えているミエナがいるのだから俺もセーフなのではなかろうか。
「……まぁ、何にせよ、クウカとは交際していないし、これからもする予定はない」
「そ、そんな……」
クウカは悲しそうに、涙を堪えるように下を向く。
強く言い過ぎただろうか……。と、心配していると、焼けたカニのいい匂いがしてきた。
「……まぁ、とりあえず飯でも食って落ち着こう、な?」
「う、うん……」
落ち込んだ様子のクウカを連れて、楽しそうにキャッキャうふふとカニを焼いて食べてる場所にくる。
「……泥臭くないんですか? このカニさん」
「お、話は終わったのか。全然臭くなくて美味いぞ。まったく、ランドロス、あまり女を泣かせるなよ」
「いや、今回ばかりはランドロスさんは被害者でした」
今回ばかりはってなんだ。今回ばかりはって……普段から俺は裏切られたり商人に利用されたりと被害者のことばかりではなかろうか。
俺がカニを突いていると、クウカの仲間らしいネルミアがポリポリと頰を掻く。
「ごめんね? その……思い込みが激しい子で。あと、助けていただいてありがとうございます。回復薬のお代は後で返させていただきますね」
「ん、お、おう。気にしなくてもいいが」
……マトモだ。マトモな人間ってこの国に存在したんだ。
ちょっとした感動を覚える。
「……俺の目、怖くないのか?」
「えっ……あ、恩人だし。それに、クウからいい人って聞いていたから」
「……そうか」
……救助依頼、受けていて良かったな。何だかんだと敵意を向けられることが多い中、普通に感謝をされると照れ臭くはあるが、やはり嬉しい。
クウカからのストーカーも怖いが、種族の壁を越えて好意を持ってくれたと考えたら嬉しいような……。いや、怖いな。どうやって寮の部屋に忍び込んだんだよ。
「……もう寮で寝るのが怖い」
「……大丈夫です? 一緒に寝てあげましょうか?」
「考えとく。……寮の中だと安心して空間魔法切ってたりしたからなぁ。寝てる間までは出来ないし……」
「あ、えっと、私がちゃんとクウのことを見張っておくので……」
「……助かる。あと、俺達が迷宮に入ってることは隠していてくれないか? 諸事情があって中に入ってるが……」
「あっ、そういえば亜人は立ち入り禁止になってるんだったね。……別に秘密にするのはいいんですけど、お手伝い出来ることはないかな? クウがご迷惑をおかけしたし、また助けてもらったし……お返しをしたいんだけど」
ネルミアの言葉を聞いて、ネネとメレクの方に目を向けるが首を横に振る。
まぁ、実力にだいぶ開きがあるし、迷宮の中のことで手伝ってもらえるようなことはないか。
「いや、大丈夫だ。それより、ずいぶんと高いところまでやってきたんだな」
「あー、ほら、【泥つき猫】は獣人も結構いるから、収入が落ちて大変で……。やっぱり高層の方がいい物も見つかってお金も稼げるからね」
「そっちはそっちで大変そうだな」
「本当にあの勇者には困るよね。次の武闘大会で優勝したら、勇者と御前試合が出来るからって、張り切って稽古してるよ」
「武闘大会?」
「あ、もしかしてこの国に来たばかり? 毎年この時期、武闘大会が開かれるの」
そんなものがあるのか。シャルの前で格好付けるために出ようかと思ったが、あの子は戦うのを見るとかそういうのは苦手そうだな。
出場したら応援はしてくれそうだが……いや、むしろ応援に来そうだからこそ参加は見送った方がいいか。
だがそれにしても御前試合か……。
隣にいるメレクを見る。あるいはミエナを思い出す。
……正直なところ、勇者よりも二人の方が強そうだし、街で歩いていると、かなり強そうな奴が普通に歩いていたりする。
勇者も実力者ではあるが……そんな中で優勝してきた人物と戦うことになるというのは……大丈夫なのだろうか。
いや、まぁ……勇者もあれから成長をしている可能性はあるし……いや、あの勇者が地道に稽古をしている姿は想像出来ない。
公衆の前でボロボロに負けている勇者の姿を想像してしまう。……せめて、俺は見に行かないでいてやろう。
俺がそう思っていると、カルアがカニをおそるおそると食べて口を開く。
「このカニさん、美味しいですね。泥臭くなくて……やっぱりなんですけど、突如として湧いて出てきてるとしか思えませんよね。こんな大きいカニさんが、この一本道で今まで隠れられているとは思えませんし、味も泥臭さがなくて……ここで育った生き物とは思えないです」
「不思議だよね、迷宮って」
「不思議と言いますか……。やっぱり、食料問題を解決する糸口になりそうです」
カルアは食べている手を止めてメモをしていく。真面目に世界を救おうとしていて感心だ。
相変わらずメモの内容は難しすぎて俺には分からないが。
焼いたカニを食べ終えたところで、メレクが満足そうに腹を撫でながら先へ進むように提案する。
俺とカルアが頷くと、立ち直ったらしいクウカがちょこんと俺の隣に立つ。
「あ、私も付いて行っていい?」
「クウ、やめなさい。やっぱりこの階層はまだ早いから降りるよ」
「ええ……やだぁ……」
「やだじゃありません。ごめんなさい、ウチのクウがご迷惑をおかけしました。後で私からきつく言っておくので」
クウカはネルミアに引きずられて来た道を引き返していく。クウカには悪いが、着いて来なかったことにほんの少しの安心感を覚える。
二人の姿が見えなくなってから、メレクは俺を見ながらポツリと言う。
「……ランドロス、一応年長者として言うが……あまりカルアを泣かせるなよ?」
「泣かされることはあっても泣かすことはないぞ」
「いや、そうじゃなくてな……まぁ、ギルドに帰った後だな」
ネネが呆れたように俺に向かってため息を吐き出し、再び斥候として前の方を歩き始めた。
少し時間を食ってしまったが、迷宮探索の再開だ。
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