第7話
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
【勇者シユウサイド】
何故、何故、何故……こうなった。こうなってしまった。
「ッッ! 夜に襲って来るなんて卑怯だろうが!!」
俺は聖剣を振り回して獣型の魔物に振るう。
獣はグルグルと唸りながら、俺達の周りを囲む。
獣達は万全な状況だと言うのに、俺達は鎧どころか服すら着れておらず、辛うじて武器を手にしているだけだ。
同じく裸のままのルーナとレンカは身体を隠そうとしてマトモに構えられてすらいない。
「グラン!! 何故見張りをしていなかった!!」
「していたから不意を突かれずにいるんだろうが!! てめえらこそ何野外でノコノコと盛ってんだよ!!」
「モテねぇからって僻んでんじゃね……ッッ!! おいレンカ! ちゃんと魔法で牽制しろよ!!」
くそ、くそ、使えねえ奴ばかりだ。グランは見張りすらまともに出来ずに獣の接近を許すし、ルーナとレンカも裸なのを気にしてマトモに魔法の詠唱すら出来ていない。
くそ、役立たず共めっ! 俺が魔物に聖剣を振るうが、暗いせいでマトモに当たらない。
「くそ、くそ!!」
俺が振るった聖剣が魔物に当たろうとした瞬間、横から飛び出してきた魔物に横腹を噛みつかれる。
「う、ぅぁっぁっっ!? いてぇ、痛え!! る、ルーナ、俺を治せ!」
俺がそう指示を飛ばすが、ルーナは杖を振り回して魔物を追い払おうとしてこちらの指示に気がついていない。
「ッッ! ルーナぁぁあ!! この役立たずが!! 早く俺を治せ!!」
「い、今は無理ですよっ!! 食い殺されて、しまいますっ!!
「グラン!! 追い払え!!」
「無理を言うな!」
役立たずしかいねえのか、このパーティには! 俺は急いでテントの中に入り、鞄の中の回復薬を漁る。
そうしているうちに背後からレンカの叫び声が聞こえる。
「やだっ!! やめて! やめ……痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛いぃぃ!! ひぐぅぅ!! 助けて、助けてシユウ!!」
俺が回復薬を飲んで外に出ると、レンカの腕が獣に噛まれ、身体ごと振り回されていた。
グランは何をしている! 俺は急いで近寄って獣を斬ろうとするが、寸前で躱される。
レンカは地面に倒れたまま蹲り、痛い痛いと泣き叫ぶ。
「くそ、暗くて見えねえ! そうだ!」
俺は急いで焚き火の薪を握ってテントの方へと投げつける。テントは夜風の煽りもあって大きく燃え広がる。
光さえあれば、この程度の魔物!
俺が聖剣を振るって一体魔物を斬り殺す。 よし、これならいける!
戦いが終わったのは、朝日が見え出してからだ。
荒い息を整える。全身が泥まみれの血塗れで酷く気持ち悪い。
「お前ら、少しぐらい指示に従え!」
「あんたの指示に従ってたら命がいくつあっても足りないわよ! さいっあくっ!」
「あん? お前何調子乗って……! ルーナ、お前もだ。マトモに支援すら出来ずによ」
「そ、そんな、無理ですよっ! 魔物の相手をしながら支援なんてっ!」
「グランもだ! お前がちゃんと前衛をやっていないからだろうが!」
「……俺は同時に五匹止めていた。半数以上だぞ」
「止めれてなければ意味ねえんだよ!!」
くそ、役立たずが、役立たずが! 俺は怒鳴りながらテントの方に向き、服を着ようとして……気がついた。
テントを燃やしてしまったら、中の荷物や服は……。
それに気がついたルーナとレンカは顔を真っ青にする。
「な、なんてことしてくれたのよっ!」
「し、仕方ねえだろ、ああでもしない限りはみんな死んでたぞ!」
「ど、どど、どうするんですかっ! 服もないんですよっ!」
どうする、どうする……いや、街も近くにあるから、そこに立ち寄ればいいだけだ。
……この格好でか、まぁいい。
「このまま近くの街に向かうぞ」
「な、何言ってるんですか! は、裸なのにっ!」
「じゃあどこで手に入れるんだよ! つか、何純情ぶってんだよ! どうせあの交ざり物ともヤッてたんだろ!」
「あんなのとするわけないじゃないですか。見せても反応すらしない、気色の悪い不能となんて!」
ヤッてないにせよどうせクソビッチじゃねえか。見た目だけは良いから嫁にしてやろうと思っていたが、ナシだナシ。
旅が終わったらこっぴどくフってやる。
くそ、勇者の俺が……魔王を殺した俺が、何でこんな目に遭ってんだ、クソ、クソ……!
俺達は口喧嘩をいつまでも止めないまま、服すらなく街へと戻った。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
【ランドロスサイド】
入国は出来たが、すぐに国民という扱いではないらしく、入っていい場所やしていい行動は結構な制限を受けている。
基本的に探索者用の施設と塔、それからこの出入り口のみが許可されているらしく、しかも塔に入るとき以外は、見えるように木の札を出しておかなければならないとか。
まぁ、マトモに街中に入るのは初めてなので、十分すぎるほどに自由だ。夜に忍び込んだりしなくてもいいなんて、本当に俺にとって住みやすい街だな。
近くにあった探索者用の飲食店に入り、案の定追い出されてから街を歩く。
ローブの男が言う話には、国民となったら俺のような嫌われ者の種族が気楽に過ごせる区画に入って家を買うことも出来るらしい。
国民になるにはそこそこ時間がかかるらしいが、国民にならなくとも過ごしやすい街である。
とりあえず腹が減ったので空間魔法から手作りの干し肉を取り出して齧る。
「まぁ……宿か。勇者といたときは隠れて入ったんだがな」
とりあえず、入っていい区画にある宿を総当たりしてみるか。
一軒目、寂れた様子だったが「全室埋まっている」と断られる。二軒目、頭を下げられて「他の客が嫌がるから」と断られる。三軒目、鉄の食器を投げつけられる。
と、どうにも上手くいかない。
仕方ないから街の外に出て野宿でもするかと思っていると、呼び止められる。
「あんた、ほら、そこの魔族の」
周りを見渡しても魔族はいないので振り返って見ると、恰幅のいいおばさんが俺の方にやってきた。
「魔族ではなく、半魔族だが」
「そんなのどうでもいいの。見ない顔だけど、宿は決まってんのかい? というか、金はあるのかい」
「金ならあるが、宿はな。野宿でもしようかと思っていたところだ」
「ちょうどよかった。ウチに来な。人間以外の種族も泊めるのなんてウチぐらいだよ」
すぐそこの宿屋の女将らしく、ついていくと小汚い建物に案内される。他の宿屋に比べて倍ほどの値段で、これなら野宿の方がいいかと踵を返そうとして、不意に試験官の男の言葉を思い出す。
この国に利益をもたらせ……か。
探索者として仕事をしろという意味だけではなく、金を落とせという意味も含んでいるかもしれないな。
今日はここに泊まることに決めて、女将に金を渡して部屋に入る。
あの子……シャルの写真を取り出して眺める。
迫害はされないとは言えど、人の街は少しばかり精神にくるものがある。
写真に癒されながら、ベッドに倒れ込む。
この子のためにも頑張ろう。あのガメツイ商人が勧めてくるぐらいだ。よほど稼げるのだろう。
金がたくさん手に入ったら、この写真というもの、もっとたくさん手に入らないだろうか。
とりあえず、何はともあれ稼ぐしかないかと思って立ち上がると、扉の外に気配を感じる。二人……か。
窓を確認してすぐに飛び降りられるように開けておく。
ノックが有ったことでほんの少しだけ警戒を緩めて、扉をゆっくりと開く。
宿屋の女将ではなく、かなりの巨体を誇る大男だった。2メートル近くはありそうな身長とそれをしても太いと思わせる筋肉量。戦士然とした体格の割に、何もしていない状況だというのに魔力の強さを肌に感じる。
一目で「強いな」と、思わせるだけの体格と魔力以上に目を引いたのは……その相貌だった。全身の毛深さや筋肉の付き方、耳の形から獣人であることは間違いなさそうだが……何の獣が混ざっているのかが分からない。
もう一人の女はその男に比べてかなり小柄……ではあるが、平均的な女性の身長ぐらいはあるだろうか。
シュッと細く、スレンダーな体型ではあるが、貧相な印象はなく、鍛えられていることが分かる。
しっかりとした体幹や軸のブレのなさがあり、隣の獣人の男に比べると体格や魔力に劣っているも、纏う雰囲気のそれは同等程度にある。
そして、この女にしても人間ではない長く尖った耳をしており……伝え聞いたエルフという種族の特徴を持っていた。
荒ごとにはしたくない。そう思わせるだけの異様さ、先の外の道を思い出し、逃走経路を頭の中に作りながら、ゆっくりと警戒がバレないように口を開く。
「何か用か?」
「警戒しているな」
獣人の男は一歩、部屋の中に足を踏み入れる。
「まぁ、そりゃあ、突然部屋に訪ねて来られたら多少はな」
俺がそう言うと、獣人の男は屈みながら中に入り込む。
「窓が空いている。先程外から見たときは空いていなかった。逃げるために開けておいたのか?」
「……今部屋に入ったばかりで、換気をしていただけだ」
「強いな。見れば分かる」
緊張の糸が張り詰める。場合によっては、次の瞬間でも逃げられるようにしていると、獣人の男の頭がスコーンと後ろにいたエルフの女に叩かれる。
「こら、メレク! 私が話をするって言ったでしょ。口下手なんだから下がってなさい」
「い、いや、少し挨拶をしただけで……」
「この前挨拶をして衛兵を呼ばれたのを忘れたの? いいから、廊下で大人しくしてなさい!」
メレクと呼ばれた獣人の男は項垂れながら廊下に出る。
なんとなく毒気が抜かれ、エルフの女に目を向けた。
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