クエスト13:めざめたパワー!?
――時は戻り、街の外ではルーナたちとウッドジャイアントとの戦闘が始まっていた。
ただ単に戦って、倒せばそれで終わりならば良かったのだが、周りには人が集まっている。
ゆえに彼らや、紬を攻撃に巻き込むことだけは避けなくてはならない。
「見破る魔法シャープアイ! 弱点みっけた! あいつの本体は、小さなコロボックルです!」
補助魔法を用い、バリアーを展開した敵の踏みつけ攻撃を全員で回避したうえでまた別の魔法を唱えながら、それっぽくポーズを取るスズカ。
といっても彼女のとったモーションは、いわば精神的なスイッチに過ぎないのだが、本人曰く「没入感が違う、より詳しく知れた気になれる」とのことだ。
「ほんとに森の妖精だったか! ってことは、樹木の鎧で自分の身を守ってるわけだ?」
フェンリーには、どのようにすれば敵の強固な守りを崩せるかが手に取るようにわかった。
硬い鎧だろうと樹皮である。
燃やしたり、凍らせたり、あるいは腐食させたり――などなど、対抗策はいくらでも存在する。
そのうちのいくつかを実行に移して、防御態勢を崩せばよいのだ。
「タネがわかってしまえば怖くはないわ。本体を引きずり出すのみ」
紬やフィックシーの人々が見ている前でルーナがパーティーを仕切り、指示を出す。
フェンリーやスズカからすれば、彼女の言うことを聞かない理由もなく各々で考えながら行動を起こし、巨大な敵を前に奮闘する。
「ば、バレたか……ちきしょ~~。やられる前に、や―――――――――ってやるぜい!」
「うあっ!」
「きゃあ!?」
しかし、相手のほうもいつまでも魔法や打撃を受けてばかりではない。
強烈なパンチと踏みつけを繰り出して、ウッドジャイアントは大きな両手を使ってハンマーのように地面を殴り、ルーナたちを浮かび上がらせそのまま転倒させた。
「フィックシーの街はぁ、潰させてもらう~~~~~~~~~~~~~~~~~~」
「やめなさい、修理屋さんにこの子の……ツムギちゃんのスマホを直してもらったばかりなのよ。それに劇団の皆さんだっている!」
「そうだ、わたしらはここから下がらねーぞ! お前がどんなに暴れたってな!」
「魔法の力で燃やして、ボディーに風穴開けてでも止めてやるんだからね!!」
立ち上がった彼女たちは、紬以外の人々が既に避難を済ませていたのを確認して安堵し、戦いに専念できることを感謝する。
楽しむのではない、早急にこの魔物を倒して人々を安心させたいがためにだ。
敵の攻撃をかわしつつ、紬にも気を配る立ち回りを見せ、どうにかして敵本体であるコロボックルを引きずり出さんとするも、やはり一筋縄ではいかない。
「やかましいわァ――――っ! 正義の味方気取りのデミヒューマンどもめ、ぶっ潰れろ――――!!」
地面をえぐるほどの剛力を発揮し、衝撃波を巻き起こしてまたも転倒させる。
今度はダメージが大きく、ルーナたちを守っていたバリアーも剥がされて著しく傷ついた。
紬は敵から離れていて範囲外にいたため、幸いにも無事である。
「想定外のパワーだわ。それほど街の営みに怒っていたのね……」
「ダメっ! ルーナさん、死なないで……」
「今更このくらいの敵に、やられたりなんかしないわよ。もう本当に危ないから、ツムギちゃんは避難を」
傷付けられて衣服もところどころ破け、片目をつむっていながらもルーナは笑っている。
最も不安であろう紬を鼓舞するためであり、それはフェンリーとスズカの2人も同じだ。
こんな時だからこそ――なのだろう。
「嫌だ! 私は普通のホモ・サピエンスだから、特別な力なんて……ここじゃ1人で生きていけない! ルーナさんたちを置いて逃げるなんてできない! 一緒にいたいです……私は、ルーナさんたちと一緒に旅をして、元の世界に帰るんだ~~~~~~~~~!!」
笑って返すべきだったのか?
こんな風に顔をぐしゃぐしゃにしてまでわめき散らして、そのほうが正しい?
そんなはずはない。
でも、あんなになってまで守ってくれている彼女たちに何を返してやれるのか?
もはやどうしたらいいのか、分からなくなりかけた中で彼女が叫んだその時だった。
「ぐえっ! な、なンの光だぁ!?」
突如、紬の全身から光が放たれ、同時にルーナたち3人の体から――虹色の光のオーラが立ち昇ったのである。
なぜそうなったのか、自分自身でもわかりかねる紬とは対照的に、3人は経験したことのない士気の高揚を味わい、樹木のゴーレムはまばゆい光を前にたじろぐことしかできない。
「はははははっ! す、すっごぉぉぉぉ――――――い! 力が満ち満ちるーッ!!」
「きっと紬のおかげだ! あいつが、わたしたちに自分でも気付かないうちに何らかの形で……!」
「ありがとう、ツムギちゃん。勇気と力をもらっちゃった。あなたのその想いに答えるわ!」
「よ、よかった……。みんな……」
スズカは年相応にはしゃいでから、フェンリーは紬自身も知らなかった不思議な能力に驚きながらも感謝してから、ルーナはシンプルに感謝の言葉を告げてから、それぞれ覚悟の決まった顔をしてウッドジャイアントのほうを向く。
全員、負ける気などしなかった。
「な、なンだ! 何が起こってるンだ!?」
「問答無用! ブラストファイヤーキャッツ!!」
「あっづううううううう」
先陣を切ったのはやる気が十二分に満ちていたスズカだ。
猫の形をした魔法の炎を放ち、堅牢な樹木の鎧を焼き尽くして使い物にならなくする。
その中にいたコロボックルは慌てふためき脱出しようとしたが、冷静さを欠いたために出られない!
「ノーザンウルブスアサルト! ハッ!」
続いて、銃としても使える長剣から氷の魔力の弾を放ち、急速に冷ましたところをフェンリーが突撃する。
氷をまとわせた剣を構えたまま急上昇し、切り上げてから頭上に叩きつけて、それを合図に空中で氷の結晶を生成して敵の全身に突き刺した!
「光になれ! ゴッドバニーブロウっ!!」
トドメを刺すのはルーナだ。
彼女が有する光の魔力の奔流が風のように周囲で渦巻いて、金色に光り輝くウサギのオーラを放出して低空飛行しながら敵へと接近して豪快に斬り伏せる!
ウッドジャイアントは爆発四散し、中で動かしていたコロボックルが残骸の中から転げ落ちた。
「つ、つええ……お前ら、なにもンだ」
木の帽子をかぶり、緑色の丸っこい体型にシンプルな目と口、手足のついた――1頭身の愛くるしい容姿を持つコロボックルは、強気ながらも弱った口調でルーナたちを見上げる。
後ろにいた紬という小娘までもが寄ってたかってきているということは、これから葬り去られるということか?
過激な思想を持ったからにはそうなるべきなのかもしれない?
コロボックルはそういった諦念を抱く。
「自由と平和をお守りして創造するギルド、ピースクラフターよ」
「そうだったのかぁ~~~~~~~…………」
まだ剣を向けるルーナは今度こそトドメを――刺すわけでもなく、鞘に納めてから堂々とした笑顔を向ける。
仲間たちと共に目線の高さまで合わせて、コロボックルに優しさと反省のこもった眼差しも送ったのだ。
「確かに私たちも悪かったわ。生活のためとはいえ、開拓するという名目で森や山を伐採して、開発工事をしてしまう。山を削ってしまうことだって……」
「罪深いヤツらめっ。結局、自分たちのやってることを正当化するのか!?」
「そうじゃないわ。あなたが拒絶しようとした、私たちもまた天然自然から生まれた者。このデミトピアで生活を営む、いわば森羅万象の一部なの。それだけはわかってほしい」
生きる過程で環境破壊をしてしまうのは、こんなにも自然豊かなデミトピアでも同じだったのか――。
ルーナと森の妖精が話をし始めた横で、紬は心を痛めて胸に手を当てる。
「それにフィックシーをはじめ、科学技術の発達したところでは失われた自然を取り戻すためのさまざまな研究が進められてるんですよ……」
「汚したくて汚したわけじゃなかった、と言うンだな……。おれも、どうかしていたようだ」
スズカも、コロボックルに追い打ちをかけるのではなく歩み寄って、言葉で説得しようという姿勢を示した。
己を省みることが必要だったのは、コロボックルも同じだ。
「お互いに過ちは繰り返さねえ、それじゃダメだったかな。妖精さん」
「ああ~、わかった……暴れてしまってすまンかったな。勇気あるデミヒューマンと、いたいけなヒューマンよ」
最後にフェンリーが小さな森の妖精の前で誓いを立てて、騒動は収束。
両者は二度とこのような事態にはならぬことを祈り、それぞれが帰るべき場所へと帰った。
「……つよつよなだけじゃなくて、やっさしーの。勇者様ってゆーのは、そうじゃなくちゃね」
その様子を、ルーナたちが戦っている裏で街の中を守っていた恐竜の亜人がしかと見ていた。
幸いにも魔物は侵入してはいなかったが、危険でも誰かがやらねばならぬ役目を彼女自身が果たしたことに変わりはない。
――かくして、森の代表者からの訴えを聞き入れたその日から、工房都市フィックシーは周辺の環境に配慮して換気設備を充実させ、クリーンな空気に包まれるようになったという。
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