クエスト11:修復完了!?フィックシーに到着

「蒸気の出るパイプとか、煙突とか見えてきた。あそこがフィックシー?」


 自然を保ったまま整備が行き届き、木々や岩がまばらに点在する街道沿いにて。

 地図を片手に目的地らしき場所に指を差し、紬は少し間の抜けた顔で確認を取る。

 彼女が述べた通りの設備に加え、街を外敵から守る防壁までも完備しているそここそがフィックシーだ。


「うん、合ってるわよ。デミトピアにおける産業革命時代の名残りを残した建築技術が、今でも使われてるのよね」

「こっちでも産業革命ってあったんだ……」


 人差し指を上に立て、ドヤ顔で解説を行なうルーナに驚きの声を返す。

 そんなに時間も経たないうちに足並みをそろえて守衛所へ向かい、入れてもらえるように掛け合ったのだ。


「ルーナさんかい」

「そうです。守衛さん、ピースクラフターのルーナです。こちらの新人が、先日現世から転生……じゃなくて、転移してきて」

「その時トラックに轢かれた衝撃で、スマホがバキバキに壊れちゃったみたいで。ほかの所持品は無事だったんだっけ?」


 ルーナとスズカが話をしている途中で訊かれて、紬は頷く。


「一応ウチのメカマン……おほん、カレラって子が応急処置をしてはくれたんだけどね。まだいろいろと不完全なところがあって、それをそちらさんで診てもらって、直してもらおうかなーーなんて考えた次第です」

「そうかー……本当にいろいろあったよーだな。あんた方がその子に対してそこまで親身になってくださるんじゃあ、通せんぼするわけにもいかんな。遠慮せんと入りなさい、きっと直してもらえるさ」


 察した守衛は汗を拭いてから、4人を快く歓迎して街の中へと通す。

 そこはもう、さっきまでいた平原地帯とはまったく別の景色が広がっており――蒸気の香りや熱が漂い、煉瓦やコンクリートで作られ、蒸気パイプが通され歯車などと絡み合う高い建物が並ぶ中から見上げれば空が拝める、そんな街並みだった。


「思ったより臭くないや」

「嗅覚が敏感なわたしも、ここは気にならないな。むしろこのスチームの香りがいいんだ」


 王都やクープの街とはまた違う、異世界ならではの雰囲気がその街にはある。

 紬は自分を守り支えてくれる仲間たちとともに歩く中で、それを噛みしめた。

 全体的にスチームパンク的なムードがあり、あちこち珍しいものばかりで目移りしてしまうが、目的を見失ったわけではない。


「武器・防具からお財布、スマホまで、修理こちらで請け負いますー!」


 そう、修理してもらうのだ。

 だがこのうさんくさい格好のオヤジが呼び込みをしている店ではない。


「あっちょっと! 無視しないでおくれよ!」

「こういう時はどこで修理を頼むか、吟味しなくちゃあね。結構ぼったくりがいるんだよ」


 釣られて、街の道路に備え付けられたその店に入ろうとした紬をルーナが止めて言い聞かせる。

 表情も露骨に「ああいうのを簡単に信じるなよ」というものであったので、どうせ信じるなら彼女のほうがいい――と、判断して違う店を探すことに。

 フェンリーから「馴染みの店がある」と教えられ、同店はちょうどこの先の区画にあるそうなのでそこを目指す。

 途中、壁にある掲示板にある劇団の公演のチラシが貼られているのを見かけ、紬は興味深そうにのぞきこむ。

 これまでも見せた紬の初々しい反応を見る


「そういえばギルドホームにも貼られてたような」

「【フィールミック一座】が来てたみたいね」

「若手ながらも、デミトピアじゃ超有名女優の【フィル・ミミー】さんが率いる、劇団兼芸能活動を中心とするギルドなんだー。なので、メンバーも役者さんや大道芸人さんが多いわけ」


 「ほれ、こーんなにいるよん」と、スズカは劇団ギルドのパンフレットを見せる。

 ウサギの獣人にして【座長】でもあるウサギの耳を持つ黒髪の女性・フィルをはじめ、マルチーズの獣人にイタチザメの亜人、ホワイトライオンの獣人、マダコの亜人、ハトの鳥人、などなど――本当に多数の劇団員が揃っている。

 もちろん普通のヒューマンも多く存在するようだ。


「す、すごーい……。座長さんかっこいいな。王子様系ってやつかな」

「あんた、案外そのフィル・ミミー王子のもとで働いたほうが上手くやってけるかもね」

「ヤです、フェンリーさん! 今は皆さんと一緒がいい〜!」

「はははっ、く、くすぐってえなあーー」


 急に肩を組まれたのでささやかに抵抗する。

 残るルーナとスズカも笑いをこぼし、4人はそういうやり取りを交わしているうちに目的の修理店へと到着した。

 スパナの絵の看板がでかでかと飾られている屋根の下で、王都でも見られたボタン式の自動ドアを開いて、その店舗の中へ入る。

 言うまでもなく天井や床も煉瓦でできており、パイプやギアが入り組んだ奥のほうでランプも色とりどりに光っている。

 このようにかなり細かなところまで作り込まれていたが、全員が用があるのはカウンターで暇そうにしている中年男性である。


「あんたたちか? 何を直してほしいんだい」


 顔なじみの客がわざわざこの店へ来たということは、用件といったらそれだろう――と、察しのついた修理屋のオヤジが一同へと訊ねた。

 見かけない顔もいたが、彼は深入りはしないこととする。

 

「【テッカ】ちゃんいる?」

「あー、装備品・・・じゃなくてデジタルか! 待っとくれよ……」


 実はこの店は武器や防具の修理も担当していたが、悲しいかな、今は何の関係もないことだ。

 そもそもルーナたちの持つ武器はそうそう壊れたりなどしない特別なものだからだ。


「テッカちゃんとはいったい……」

「はいはーい。そのテッカちゃんだよ。ご用はなんですか」


 かくして、オヤジが呼びに行った相手である娘が代わりばんこにやってきた。

 ポニーテールにしてまとめた赤褐色の髪にゴーグルを乗せ、タンクトップの上にサロペットを着込んだハイティーンの少女だ。

 何度も顔を合わせたルーナら3名とは違い、面識のない紬を見て不思議そうな顔をした。

 

「あ、あの……私のスマホ、壊れちゃって……」

「この子現世から転生、じゃなくて転移してきたんだよ。白い野良猫をかばって、トラックに轢かれて……」


 修理屋の娘・テッカは紬の身の上話を本人とルーナの口から聞かされ、心中を察して複雑な顔をした後に決心する。


「……見た目が薄っぺらくとも、現世での思い出がいっぱい詰まっていると見た。必ず直してやっからね」

「お願いします……!!」

「安心せい、プライベートなものは一切見ないよ! 任せて!」


 渡す前にカバーを外して、紬もまたテッカのことを知識も技術も十分にあると見受け、信じることに決めてスマートフォンを預ける。

 そのテッカは着ているサロペットのポケットや机の引き出しに保管していた工具を取り出して、早速修理作業をはじめる。


「ひとまず、これで大丈夫だ。最近、テッカちゃんが頑張るようになったもんだから、修理屋のオヤジは引退を考えてるみたいでさ……」


 フェンリーからの世間話を聞き入り、しばし待つ――。


「はいよ、修理終わりましたー」


 結果、完璧に直された紬のスマホは、なんと新品同様磨かれたような輝きを放つようになり、一同を驚かせた!


「は、はや!?」


 少し戸惑いを見せてはいたが、すぐに前から愛用していたカバーを取り付けて、これで本当の意味で元通りとなった。

 電源ボタンも反応するし、スクリーンは言わずもがな。

 音量だってちゃんと調節が出来る、これで安心だ。

 そのはしゃぎようを見て、ルーナたちだけでなく修理屋の親子も口元がほころんだ。


「あっ、充電される時は雷魔法や光魔法の魔力を使えばオッケーですよ。一応この機種に対応した充電器もオマケしとくけど、その辺はお客さんのお好きなよーに」

「ありがとうございます! ありがとうございます……! どれだけお礼を言っても足りません!!」


 テッカの粋な計らいにより、思わぬプレゼントまでもらってしまった。

 それもケーブル式とスタンド式充電器の2つをだ。

 落とさないように、彼女はバッグの中にちゃんと収納する。


「写真撮っちゃお!」


 直してもらって早速、店の外に出てデミトピアで最初の記念撮影だ。

 恩人である修理屋親子も一緒に。

 ――その後、ルーナからミルのアドレスを教えてもらった紬により、彼女のアカウントにこの写真が送られてきたという。

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