クエスト10:私の中にも魔力はあったんだ!
王都ブラン・リュミエール内に設けられた室外型のショッピングモール、その名を【ソレル・アウトレットパーク】という。
多数のブランド店が参入しているだけでなくグルメもスイーツも楽しむことができ、更には現世から運よく仕入れることが出来た品も売られているというのだ。
ルーナたちはより深くデミトピアにおけるファッションを知ってもらおうと思い、ある意味文化の象徴ともいうべきその【ソレル】の片隅にあるブティックを訪れた――。
「これなんかどうでしょう? 天ノ橋様は、ガーリー系だけでなくアダルトでかっこいい系の服装も似合うのではとお見受けしたのですが」
「わ、私は着せ替え人形じゃなーい!」
華やかな飾り付けが施された店内で、フォーマルなスーツ姿の女性店員がウキウキした様子で試着を勧める。
彼女のほうからがっつくように接してくるため、紬は押され気味である。
「だから好きなの選んでってねーって言ったじゃんよ。ほれ、こーゆーのとかさ」
そう言うフェンリーがしたり顔で勧めたのは、デミトピア独自の製法で製作されたフリフリの服装である。
襟や袖に白いペイズリー柄が使われており、デザイナーのこだわりも感じられたが、紬は「これ、フェンリーさんが着せられるの嫌だから私に押し付けようとしてるのでは……」と、訝しんだ。
「ルーナさんにご来店いただけて、わたくしどもも嬉しゅうございます……。感無量ですっ」
「いーえー。そちら様にはよくお世話になってますし」
実はこの店の常連でもあったルーナは、先ほどの店員と談笑し始める。
その傍らで紬は試着を続けており、カジュアルなもの、中性的なもの、カフェテリアの店員が着ていそうなシャツとスカート、旅芸人のようなド派手な装い、などなど――様々な組み合わせを試した。
それからルーナが店員らと小一時間ほど話し合った後、白いシャツワンピースとセピア色のアウターに決めた紬はブティックを出て【ソレル・アウトレットパーク】内のフードコート付近にあるカフェテラスへと移動する。
そこで注文したコーヒーとパンケーキを4人用の席に座ってたしなみながら、紬はルーナたちとガールズトークに精を出すのだ。
「こういう異世界もアリだと思うんだけど、そこのところどうなんですかね。ツムギちゃん」
「アリ寄りのアリ……です! でも、こういうことしてていいのかなーって思う気持ちもあって」
「いいんじゃない。無事に帰るまでの思い出作りと貴重な体験をしているんだと思えば」
頬杖を突きながら少しからかう風な笑みを見せて来たルーナへ、紬はまだ不安が拭い去れていない旨を口にする。
すかさずルーナは、妹を諭す姉のようにフォローを淹れて彼女を安心させた。
そんな2人をフェンリーとスズカは邪魔せず、隣で暖かく見守る。
「んで、スマホどうします? 今日フィックシーに行っちゃう? 近場だよ?」
「行きたいけど、疲れちゃったしなー。お部屋で寝たいなあ」
◆
「ミルさん! やっぱりきれい……美人だし……」
ギルドホームに戻った紬は、まず広くて大きな風呂場まで親切なギルメンに案内してもらい、そこの女湯で体を洗い湯船に浸かったところだ。
もちろん男性メンバーも少なからずいるのだが、デミガールまたはデミウーマンが半数を占めている関係で比率は女性のほうがはるかに大きい。
それはそうだが、紬は湯煙の中でミルに出会い、一糸まとわぬ彼女の姿を見て頬を赤らめる。
同じ女に見とれるのに理由はいらない。
紬にとってはミルが優しい女性だから、というのもあるが、やはりスタイルが抜群に良いことが大きかった。
「刺激が強すぎたかしら」
「い、いえ……」
そのミルも体を洗い終えて、湯船に浸かり紬に急接近し肌を寄せ、彼女の動揺を誘う。
ほんのスキンシップであり悪気はない。
「すっかり気に入られたな紬君。まあ、わたしたちがついているから大丈夫。何でもかんでも、あまり気にしすぎないようにね」
素肌の上にタオルだけ巻いたタイベルもやってくる。
堂々とさらけ出している親友・ミルを前にして「ハレンチだぞ!」と思い、咳払いもしたが、険悪な空気にはならず。
そんなタイベルの水気を帯びたプラチナブロンドや翼を見て、紬はまたときめきを感じる。
ルーナやミルたちに対して抱いたものとはまた違うものだ。
ときめきというものは、一言では言い表せない――そういう概念なのだ。
「お、おいし~! おいしすぎるよー!」
「まだまだ育ち盛りなんでしょ。遠慮はするな~」
そして、風呂上がりに腰に手を当てて牛乳を飲ませてもらった後のこと。
1階のこれまた広い食堂まで行ってデミトピア流のカレーライスなどの豪華な食事をいただき、たまたま居合わせたサヤやホッキョクギツネの獣人らに暖かな目線で見守られる中、心行くまで異世界のグルメを堪能する。
そして、まだ整理し足りない自分の部屋でベッドに入り、スマホをまた壊してしまわぬように触るのを我慢してぐっすりと眠った次の日――。
「慣れた手つき、さては現世でもやってたね?」
「ハム乗せてから焼くと更においしいの」
「わかりますよー。あたしもよくそういう味付けをだね」
食堂に集まり、チーズを乗せて焼いたトーストと、中央大陸南部の農業地区で採れた野菜を使ったサラダをしっかり噛みしめて味わった紬は、歯磨きと洗顔を終えて少し間を空けてからスズカに誘われるがまま、中庭に設けられた訓練所へと移動する。
彼女ら以外にもたくさんのメンバーが集まり、武器を用いての打撃や、魔法や特殊能力を用いての攻撃などの練習に励んでいるのだ。
「いいですか、魔法の使い方はね、こうして……」
「こうする……」
昨日もらった魔石をいくつかその手に持ち、念じる。
今まで感じたことのない感覚とともに魔力が宿った――が、紬には魔法の心得がないので、これは一時的なものに過ぎない。
だが確かに淡い赤色とピンク色の光が、彼女の周りを奔流した。
「魔法で出したいものを想像してみて!」
「なんか出て、なんか出てなんか出て、……なんか出ろ〜!」
随分とノリノリのスズカに言われるがまま、紬は更に強くイメージした。
垂直に伸びたその手のひらから出たのは、白を中心とする色とりどりの花。
こんな手品のようなことが本当にできてしまうとは――。
彼女の顔は驚きと感動、戸惑いに満ちていた。
「私の中にも魔力はあったんだ!」
「あはは、これはぁー……争いを好まないって深層心理が働いたのかもしれないね」
そのまま束にできるだけの量が出て来たので、その場に置く。
花が出せたのなら違うものも出せるかもしれないと踏んだ彼女が次にとった行動は……。
「じゃあ、逆に……責任とってあの花を燃やします! 炎よ、出ろー! ボオー!」
考察しているスズカの横で、先ほどと同じ要領で念じる。
赤々と燃える炎が出て、花を灰に変えてしまった。
当然紬は、火事になってしまうかもしれないという恐怖から「止まって止まって!?」とパニクったが、スズカがすぐに適切な対処をしたので大事にはならずに済んだ。
「自分でやったとはいえ、さすがに気まずい……」
「けど、あなた才能あるんじゃないかな。練習を続けて行けば必ずマスターできるよ、自信持って!」
魔法で出しておきながら燃やして灰にしてしまった花を、チリトリでかき集める。
駆け出しで失敗ばかりしていた頃を思い出していたスズカは、当時の自分と今の紬を重ね合わせてアドバイスを送り、2人でにっこりと笑い合う。
「魔法使う練習はできたかー? ぼちぼち行くぞ」
そこへ長剣を担いだフェンリーが2人を呼びに現れる。
「え……えーーーー! もうフィックシーってところに行くんです!?」
「不完全で不確かなままスマホを使いたいのかっ? 現世でもそうだったわけじゃなかろうよ。直してもらうんだよ、ホラ! あとからリラックスすればいいだろ!」
振り向いた時には既にフェンリーが肩をつかみに来ており、いつの間にかルーナも同席する。
そうして、事務室に入って外出をする旨をギルメンたちに伝えたルーナら4人は、玄関口まで移動する。
一息ついてから、ミルは微笑みをたたえて4人を見つめる。
「それじゃミルさん、みんな……行ってきます」
「何かあったらまた連絡してちょうだい。道中気をつけて」
ギルメンたちに見送られる中、4人は手を振ってから扉を開き、王都の隣町である工房都市フィックシーまで向かう。
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