中也 怒る 中編

与謝野が意外そうな顔をする。

「あの、和装美人さんかい?」

「えぇ。こちらには人質として、お世話になりましたな。」

「気分がすぐれないって…病気?」

鏡花が不安げにその話に割って入る。

「いや。病気、というわけではないのですが…」


「こぉんのくっそ太宰がっ。こともあろうにあねさんにクソ鬱アニメなんか勧めたりすっからだよっ!」


中也が太宰の胸ぐらをつかみなおして吠えた。


「アニメ?アニメって言いました?あの人」

「私と一緒に、よく見てた」

「え?あぁ。鏡花ちゃんと一緒にか。優しいんだね。」

「和装美人さんも、隠れた趣味を持ってるもんなんだねぇ」


武装探偵社の面々は二人を遠巻きにして感想を言い合う。


「そもそも、てめぇとポートマフィアウチはただの敵対関係じゃねぇ。てめぇは裏切り者の分際のくせに、なぁにを正々堂々と姐さんの執務室の電話にかけてきて世間話してんだよっ!」

「えー?鏡花ちゃんが元気かどうか、教えてあげただけだよぉ~。心配してそうだったから~」

「だったら鏡花の話だけでいいぢゃねーかっ。」

「ついでにぃ。私が最近見て『おぉ、これは興味深い』って思ったアニメをちょっとおすすめしただけでぇ~…ちゃんと言ったんだよ?全12話だけど、11話でやめておいたほうがいいですよぉ~って」

「11話まで見たらそのままラストまで見るのが普通の人間だろーがっ!」

「いやぁ。だって、出だしはさぁ。東京地検特捜部が製薬会社の不正疑惑を捜査する。っていう、社会派サスペンス?みたいな。そこから政治家の汚職疑惑もでてきてぇ~、それから怪しい女の影もちらついてぇ~、そしたら部下が謎の自殺しちゃってぇ~。みたいな。結構いい感じだったんだよぉ?…そこまでのあらすじ言ったら、姐さんも『面白そうだから見てみる』って」

「てめぇは結末知ってて教えてるんだろうがっ!」


「知ってたけどぉ~。ほら。途中から女がサイコ風味満載で生きたままの女性警察官を斧で解体しちゃうとかぁ、その実況を主人公に見せつけるとかぁ。そんなのマフィアなら平気じゃない?別に」


「・・・それ、与謝野先生」

「あぁ~つしぃ?何か言ったかい?…おや?それはかすり傷かい?」

「いいえ。大丈夫です。かさぶたです。治ってます。大丈夫です。ごめんなさい。」

にらむ与謝野に、おびえる敦。


「そんな中盤はどぉっだっていいんだよっ!ラストに大したオチもねぇ、広げた風呂敷も回収しねぇ、主人公はたぶん死んでる。どぉっしよぉもねぇ鬱エンドで姐さんの精神がったがたぢゃねぇかっ!どぉしてくれんだよっ!」


「えー?拷問専門班持ってる姐さんがあの程度の鬱アニメで精神がったがたぁ?そんなわけないじゃん。まぁたしかにぃ?自殺の是非から派生した善悪問答の落としどころについちゃ、詰めの甘さが目立って私にはご不満だったし、女と黒幕の関係も何が何だかさっぱりわからない上に、あの女が異能力者だったとしても能力発動の条件に一貫性がないから何でもありじゃないかって突っ込みどころも満載なアニメだったことは認めるけど…それなりに楽しかったんだけどなぁ。私は」


「てめぇみたいな自殺愛好家には大好物だったんだろぉが、姐さんはそぉぢゃねぇだろっ!」


「く、国木田さん」

「なんだ?敦」

「何の話だかさっぱり分からないんですが…」

人虎じんこ、大丈夫だ。やつがれにもわからん」

「私にもわかりませんから、安心してください」

「…ポートマフィアの方々も大変ですね」


「あー。彼らが話してるのは、数年前に賛否両論を巻き起こした、サスペンスを装った実質サイコホラーアニメの話だよ。バ〇ロンってやつ」

「乱歩さん…わかるんだ」

「原作の小説もあるよ。推理小説ですらないから、僕は読んでないけどね」


「同じ鬱エンドでも、ブラックラグーンの双子回なんかかわいいほうだったとか、鷲峰わしみね組も落としどころに納得いったとか、ずーっとぶつぶつぶつぶつ言ってる姐さんなんか見てらんねぇんだよ。どぉにかしろっ!」

「えー?どうにかするのはその部分だけでいーのぉ?」


にやりと笑った太宰はポケットから携帯をとりだす。



「本当にどうにかしてほしいのは、こっちじゃなくて?」



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