関口 陽(ひなた) (3)

 私が掴んだ多節鞭を引っ張ると、相手も引っ張り返す。

 良く有るチキンゲームだ。

 手を放すのが遅れた方がバランスを崩して負け。

 だが、よりポイントの多い「勝ち」にするには……すぐに手を放すのは駄目。

 そして、多節鞭が千切れたら引き分……あれ?

 相手は、錫杖に見せ掛けた多節鞭の石突をひねる。

 次の瞬間、多節鞭は錫杖に逆戻りし……。

「えっ?」

 私の両足が地面から離れる。

「うおおおおッ‼」

 相手は雄叫びと共に、私の体ごと錫杖を振り回し……。

 向こうも、私と同じく「火事場の馬鹿力」を引き出す呪法が自己暗示を使っているらしい。

 私は錫杖に戻った多節鞭から手を放し着地。

 相手の突き。

 何とか避ける。

 続いて薙ぎ払い。

 ギリギリ避ける。

 こっちの攻撃。

 受け流される。

 間合を詰められローキック。

 思わず膝をつく。

 頭を狙って錫杖が振り降される。

 ハンマーの柄で何とか防ぐ。

 錫杖が多節鞭だった時の素人みたいな動きじゃない。

 達人とまでは行かないが……ちゃんと訓練をしたヤツの動き。

 この卑怯者が。

 奇策と仕込み武器は……実は普通に戦っても強い事を隠す為だった、って事か。

 並のヤツは多節鞭でやられ……多節鞭の攻撃に対処出来たヤツも……「こいつは奇策頼りだ」って事による油断を突かれる訳か……。

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