第二章:IN THE HERO
全選手入場ッッッッ!!!!!!!!
『では、本日の「寛永寺僧伽」と「入谷七福神」の「決闘」のルールを説明します』
どうやら、司会の男性は島内のCATVのローカル・ニュース・チャンネルのアナウンサーらしい。
『皆様も御存知の通り、この「台東区」に一番近い「東京」である「千代田区」において警察および自警団全てが事実上壊滅すると云う事件が起きました』
……お……おい、まさか、この「決闘」の理由は……。
『残る3つの「東京」の計十個の自警団が協議を重ねました結果、「千代田区」の治安は我が「台東区」の「上野」地区の自警団である「寛永寺僧伽」と「入谷」地区の自警団である「入谷七福神」が担当する事に決りました』
……そう云う事か……。「千代田区」との船便が本格的に回復したら、まずは、警察や「本土」の「御当地ヒーロー」ではなく、他の「東京」の自警団が、「千代田区」を自分達のモノにするもりな訳か……。
『そして、どちらの自警団が、どの地区を担当するかは本日の決闘で決める事となります。ルールについては、少々複雑になりますが……まず、各「自警団」より代表選士を5人出し、1対1の戦いを5戦行ないます。副将戦までの4戦の勝ち数が各自警団が担当する地区の数となり、大将戦で勝利した自警団が、先にどの地区を担当するかを決める権利を得ます』
その説明と共に、広場に設置された大型モニタ、そして、島内のCATVの番組とネット配信で、シミュレーション映像が流される。
例えば、副将戦までで一勝しか出来なかった方が大将戦で勝てば……その「自警団」は1つの地区しか取れないが……その1つの地区をどれにするかは好きに選ぶ事が出来る。また、副将戦までで、二勝二敗の場合は……どちらも2つの地区を得る事が出来るが、好きな地区を選べるのは大将戦で勝った方と……。
いや……ちょっと待て、と思った次の瞬間、私が思い浮かべた疑問の答を司会が説明した。
『なお、副将戦までで、片方が4勝した場合は……それまで
なるほど……「祭」としてのエンタメ要素を入れて一般公開されている……利権争いと云う訳か……。
『各試合の勝敗条件は、審判が一方の選手を戦闘不能と判断した時、一方の選手が降参をした時、セコンドによるタオル投入、そして反則負けとなります。なお、今回の決闘での「審判の判断」は「主審の判断」または「副審2名の判断が一致する」の少なくとも一方の条件を満たす場合と云う意味となります』
そう言えば……審判って何者だ?
『なお、武器・魔法の使用を含め、一切の攻撃または防御を認めますが……観客に危険が及ぶ可能性が一定以上の攻撃または防御を行なったと審判が判断した場合は反則負けとなります』
なるほど、つまり、銃器はNG、弓矢もNG、爆弾もNG、毒ガスもNG……観客が居る理由の1つは「攻撃手段の制限」の為か。
『では……代表選士及び審判の紹介です』
「ドローン1から6、ウチの選士と相手の選士のバストショットの撮影準備お願いします」
私達、撮影スタッフの居るテント内ではリーダーの久留間さんが支持を出していた。
『先鋒は、各「自警団」より二〇歳未満の「期待の
関口はオレンジ色と赤紫色に塗り分けられたスカジャンにニット帽、相手は金に染めた五分刈りの髪に白いTシャツ、やや細身で背は高めの女だった。
ドローンが撮影した2人の映像は、瞬時に切り取られて横に並び、名前や肩書の説明が合成され、ネットで生配信される。
『次鋒。「入谷七福神・福禄寿班」所属、イザナミ流、大西アカネ。「寛永寺僧伽・眞如院」所属、守護尊「文殊菩薩」、落合晴香。中堅。「寛永寺僧伽・護國院」所属、守護尊「烏枢沙摩明王」、後藤昭二郎。「入谷七福神・毘沙門天班」所属、降魔拳法天雷流、土屋大河』
次鋒は女性VS女性、中堅は大柄な男性同士……だが……。
「う……うそ……」
何故か、撮影スタッフの中から、私の気持ちを代弁したような声がする。
「中堅戦で、もう『院主』が出て来るのかよ……」
「あの……『院主』って?」
「あ……君、『本土』から来たバイトさんだっけ……。要は幹部クラス……。ヤクザで言うなら……二次団体組長とか本部直参って所かな」
「その喩え、判りにくいよ」
別のスタッフからツッコミ。
しかし、私は別の事に驚いていた……。あの「寛永寺僧伽」の大男知ってる……。「千代田区」で8月と先月に起きた事件で思いっ切り関わった。向こうは……こっちの顔は知らないだろうが……声は覚えられてる可能性が有る。
まぁ、流石に見付かる事は無いだろうが……。
続いて、副将と大将、そして、引き分け試合が有った場合の予備選手各2名が紹介された。
「ヴィジュアル的には、ウチの勝ちだな」
「ああ、結構な数同士の団体戦だったら『寛永寺』の方の、同じような格好のヤツがズラっと並ぶ方がインパクト有るけど……1対1が5戦だと……向こうは、誰が誰か判んなくなる」
確かに、「寛永寺僧伽」の方は、男女問わず全員が短髪にゴツい数珠で、それ以外の服装の規定は無いようだが、何故か似たような格好。一方、「入谷七福神」の方は、背中に七福神が乗った宝船が描かれたスカジャンが「制服」のようだが、そのスカジャンの色や細かいデザインは、人によって違う。
二〇対二〇ぐらいなら、似たような格好のがゾロゾロ居る「寛永寺僧伽」の方が威圧感が出るだろうが、今回のような5対5では……「入谷七福神」の方が華やかで、言わば各人の「キャラが立ってる」ような印象を与える。
『続きまして、主審と副審をご紹介します』
「ドローン7番、紹介に合わせて、主審の周囲をグルッと回って」
おっと、私だ。
『主審。「浅草」地区自警団「二十八部衆」摩睺羅』
中肉中背だが、筋肉質の体の浅黒い肌の目の鋭い三十代半ばの男。白いツナギに地下足袋、上着代りの黒い
『副審。「新宿」区自警団「四谷百人組・甲賀組」副組頭、藤井詩織』
袴姿で、腰に大小二刀を差している……多分、三十前のポニーテールの女性。
『同じく副審。「渋谷」区自警団「原宿Heads」チーム「Victory&Jewel」リーダー、MC富三郎』
一見、太り気味で身長やや高め、ダブタブのジャージも、帽子も、スニーカーも全て白で統一した、サングラスに口髭の気怠そうな三十過ぎの男。
……だが……。
何か……違和感が有る……。妙に姿勢がいい……。
「あの……ひょっとして、この副審、バリバリ体動かせたりします?」
「あれ? 知ってんの?『本土』のブレイク・ダンスのコンテストでも、何度も優勝してるみたいだよ」
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