関口 陽(ひなた) (4)

 その晩は、ランは、私の家に泊まった。

「ところで、その下着、何?」

 シャワーを浴びた後のランが着ていたのは、迷彩模様のスポーツブラに、同じ柄のスパッツに見えない事もないパンツ。

 下着と言いつつ、スポーツジムに居ても違和感の無い格好だ。

「何って?」

「どこで買ったの?」

「特別製」

「へっ?」

「防刃繊維で出来てる」

「おい」

「だって、この辺りに太い動脈が通ってんだぞ。ちゃんと防護しとかないと危険だろ」

 そう言って、ランはスパッツ風の下着に覆われた太股の辺りを指差した。

「えっ? そうなの?」

「有名な手だぞ。昔、韓国のヤクザの抗争で、わざと相手の太股を日本の刺身包丁みたいな感じの刃物で刺すテクニックが有ったそうだ」

「どう云う事?」

「向こうの『殺人』の成立要件は、日本とほぼ同じ。逮捕された後、裁判で『わざと急所じゃない所を狙ったんですが、まさか、あんな所に太い動脈が通ってたなんて知りませんでした』って言い訳が通れば、判決は『殺人』より1ランク下の『障害致死』に格下げだ」

「……な……なるほど……」

「まぁ、どいつもこいつも、その手を使ったんで、すぐに、刺身包丁で相手の太股を刺したヤクザには殺人罪の判決が下るようになったらしいけどな」

「まさか、お前も、その手を使うの?」

「師匠の1人から習ったけど……そうそう巧く行くとは限らない」

「ここまで色気の無い女の下着の話は初めてだ……」

「話ふったの、お前だろ」

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