高木 瀾(らん) (3)

 翌朝、朝から開いてる定食屋で朝食を食べた後に「バイト先」に行く事になった。

「なぁ……何で、納豆の薬味が白ネギなんだ?」

 私が、そう聞くと、関口は一瞬、キョトンとした顔になった。

「白ネギが普通だろ」

「青ネギが普通だと思ってた」

「そうなの?」

「そう言や、親類が言ってたな……。初めて関東に行った時に、蕎麦の薬味が白ネギだったんでびっくりした、って」

「そりゃ、九州では、そうかも知れないけどさ……」

「いや、ここ、九州だろ。物理的な位置は」

「地図の上では九州でも、文化は東京だ」

「白ネギって、加熱して喰うモノだと思ってた」

「だから、ここは、地図の上では九州でも、文化は東京なの」

「あ……そう。じゃあ、この醤油のビンに何て書いてある?」

 そう言って、私は、納豆にかけようとしていた醤油の小瓶を指差した。

「……特級むらさき」

「その横のメーカー名は?」

「……チョーコー」

「どこの醤油メーカーだっけ?」

「……長崎……だったっけ?」

 そう言った後、関口は溜息を付いた。

「こっちの大人が懐しそうに言ってる『下仁田ネギ』って……一度も喰った事ないんだよな……」

「下仁田ってどこだっけ?」

「群馬か栃木じゃなかったかな? 富士山の噴火の時は、ギリギリ大丈夫だったらしいけど……主な出荷先だった『本物の東京』が、あんな事になったんで、生産量は年々落ちてるそうだ」

「なるほど……」

千代田区Site01の『九段』の高級料亭では食えたらしいけど……」

「やめろ。『九段』が壊滅した事件は、他人事ひとごとじゃない。私達は、思いっ切り当事者だ」

「そうだな……」

「ところでさ、九州の大人は、関東の醤油の事を『黒い塩水』とか言ってたんだけど、そんなに酷い味だったのか?」

「九州の人間は、キッコーマンとヤマサに何か怨みでも有るのか?」

「ところで、ここ、柚子胡椒って置いてないのか?」

「何で柚子胡椒?」

「納豆に入れたりしないか?」

「入れねぇよ、普通」

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