関口 陽(ひなた) (3)

「おい、めったに見られない一大ショーだぞ」

 私はランにそう説明した。

 他所者よそものが自分の所場ショバで喧嘩を始めれば……当然、「自警団」が出て来る。

 それが「紛物の東京」のルールだ。

「なんだ……あの2人は……?」

「ここ『浅草』の自警団『二十八部衆』の通称『仁王姉弟』だ」

 性別と髪型を除いてはウリ2つの巨体。

「体格や力だけじゃないな……」

「やっぱ、わかる?」

「ああ、さっき侍モドキを投げ飛ばした時……力は必要最小限しか使ってない」

 両方ともモスグリーンのTシャツにカーゴパンツ、革の編み上げ靴に、黒っぽいサテンの法被はっぴ

 その法被はっぴの背中には、片方には口を開いた阿仁王が、もう片方には口を結んだ吽仁王が描かれていた。

 侍モドキが日本刀ぽんとうモドキで斬り付けても……服は切れても、血は一滴も出ない。

 Bボーイ達が、蹴りや拳を叩き込んでも……逆に、攻撃した方が跳ね飛ばされる。

「あれは……『魔法』か?」

「どうだろう? 広い意味ではそうかも知れないけど……まぁ、一般的な『魔法』とは別系統の『気』の操作方法だと思う」

「判らないのか?」

「あのな……『気』を『観る』と、ほんの少しだけど、相手の『気』にも影響を与えちゃうの。あいつらが、本当に自分の『気』を操る技術を身に付けてた場合、そこまでの事が判るレベルで、こっちがあいつらの『気』を『観』たら、多分、気付かれる。向こうから喧嘩売られた訳でも無いのに、相手の『気』を『観る』のは因縁付けてるのも同じ。同業の可能性大な上に、こっちから喧嘩売ったら確実にマズい事になるヤツに、そんな真似する『魔法使い』は居ない」

「そんなモノか……」

「そ……私らみたいなのが『気』を『観』れるようになったら、次にやる訓練は『必要ない時には気を観ないようにする』訓練。そもそも、悪霊とか魑魅魍魎なんかは……『観』えるヤツに寄って来る習性が有るんで、必要無い時には『観ない』ようにしないと、命がいくつ有っても足りなくなんの」

「なるほどな……」

「で、どうよ? お前なら、あの2人に勝てそう?」

「バカ言え……。私の師匠ならともかく……それに、私は、何かトラブっても、喧嘩無しで解決出来る方法が有るなら、迷わず、そっちを選ぶ」

「おい、今の自分の格好を見てみろ」

「え……?……あっ……」

 ランは無意識の内に、体の重心を落とし、膝を曲げ、左半身を引き、右腕を相手の攻撃を捌こうとするかのように、左掌を腰の辺りで構えていた。

「あのさ……今、自分なら、あいつらとどう戦うか、とか考えてただろ?」

「判っちゃいるけど……もう、第二の本能だな……」

「ま、お前でも、あいつらに勝つのは無理だろうな」

「何なんだ……そもそも『二十八部衆』って?」

「戦闘要員の定員は、たった二八人だけ……けど……この前、あんな事になった『千代田区Site01』の『英霊顕彰会』とは別の意味で、他の『自警団』から一目置かれてる奴らだ」

「何となく、想像は付くけど……その『一目置かれてる』理由は?」

「最大でも、たった二八人の戦闘要員が……全員、他の自警団の基準では『エース級の中のエース級』の力量だって言われてる。最盛期の『英霊顕彰会』でも、その二八人の誰かと、一対一でマトモな勝負が出来たヤツは……せいぜい十人ってとこだな」

 ……ランにそこまで教えた時、ランが無意識の内にとっていた「構え」について、ある事に気が付いた。

 こいつ、左利きだったっけ?

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