高木 瀾(らん) (2)

 通称「台東区」最大の港「浅草港」に付いた頃には、夜の一一時を過ぎていた。

 港で私達を出向かえたのは、かつて「本物の浅草」に有った「雷門」を何倍にも大きくした外見の「門」。

 贋物の「雷門」の左右には……これまた本物の何倍もの大きさの仁王像。

 その門の下を、自動車用は片側4車線、計8車線に、合わせたら軽自動車なら通れるほどの横幅が有る歩行者用レーン+自転車用レーンを合せ持つ巨大道路が通っていた。この東京の3大幹線道路の1つ、通称「雷門通り」だ。

「とりあえず、明日のバイトは一〇時から説明と打ち合わせ。本番は昼の一時から……まぁ、撮影して欲しい『祭』は夕方までには終るだろ」

「わかった」

 「雷門通り」から少し離れた繁華街を通って関口の自宅が有る「入谷」地区に向かっていると、近くの居酒屋から二十数名の一団が出て来た。

「なんだ、ありゃ?」

「他の東京の『自警団』も、明日の『祭』の見物に来てる。どうやら、因縁が有る同士が居酒屋で鉢合わせしたんだろ」

「他のって……どこの?」

「広島沖」

「はぁ? いや、ちょっと待て、そんな所から、わざわざ?」

「ああ」

 広島だと、Site02……通称「渋谷・新宿区」……。他の「東京」は約2㎞×2㎞の区画が4つ集まって1つの「島」になっているが、Site02のみ、それが2組。

 Site02西が通称「渋谷区」、Site02が通称「新宿区」。それぞれ、各区画は「本当の渋谷」「本当の新宿」の地名にちなんだ通称で呼ばれていた……筈だ。

「で、時代劇の侍みたいな格好してるのが『新宿』の『四谷百人組』。江戸時代に『本当の四谷』に居た……江戸幕府の将軍が、万が一、江戸から逃げのびないといけなくなった場合の護衛が役目の精鋭部隊にちなんだ名前らしい」

「だから、あんな格好してるのか……で、本当に百人も居るのか?」

「定員通りかは知らないけど、定員百人が4チームだ」

「えっ?」

「私も良く知らないけど、連中の名前の由来になった江戸時代の百人組ってのは4つ有ったらしい」

「じゃあ、定員通りだと、戦闘要員だけで四百人か……」

「まぁ……私達『自警団』は、お前ら『御当地ヒーロー』と違って、戦闘要員の方が圧倒的に多いけどな」

「じゃあ、後方支援チームなんかは……」

「居ても少ない」

「ところでさ……侍モドキの相手のヒップホップ系のミュージシャンみたいな格好の連中……中々、動きがいいな」

「ああ、あいつらは……『渋谷』の『原宿Heads』だ」

 まるで踊るような動き……ひょっとしたら、本当にブレイクダンスでもやってるのかも知れない。

 一見、フザけてるようだが……いや……本当にフザけてられるほどの力量差が有るのかも知れない。「侍」達の攻撃は、余裕綽々で躱されている。

『ダンスが巧いヤツと喧嘩になったら気を付けろ』

 弟子にそう言ったのは、柔道家の木村政彦だったか、空手家の大山倍達だったか……。

 本当にダンスが巧い相手と戦う事になった場合の事も考えておくべきかも知れない。

 そう思った時、銃声が轟いた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る