88㎜

「どうして、ロマンが大事かって?」

 彼は聞いてもないのに急に語りはじめた。彼女たちはそれを見て、やれやれと思ってしまう。アイリーンはそれは初めて見るが、饒舌なのは知っていたが、彼の隣にある、大きな塊は見たことがない。


「もちろんそれは、かっこいいからだ。かっこいいって、重要じゃないか。かっこいいからこそ、意味があり、かっこいいからこそ、大事なんだ。かっこいいって、それだけで意味をなしてしまう。かっこいいは、何年も受け継がれていく。便利よりもかっこいいだ。だから、俺はかっこいいと利便性を兼ね備えた武器を使いたい。M1911を作った理由、HK416に真似て作った理由も話しただろう。ハンドガン、アサルトライフル、ライフル、ショットガン、大体の個人兵装は作った。ならば次に作るべきなのは、個人では扱えないが、複数人でならば扱える、もしくは、個人で運用するには少しばかり使いづらい、というのがデメリットなのだが、まあ、高火力を出せる。それだけが重要だ。ロケットランチャーは個人火力としては強いが、要塞攻略戦には向いていない。それよりかは据え置き型の、長距離砲を持つべきだと考えている。これから攻城戦が増えるだろうから、それに備えた兵器を作るべきだと考えた。そこで、俺が考えたのは、どの兵器がかっこいいかだ。めっちゃクチャ考えた」

 

「花火を打ち上げながらも、君との行為中も考え続けた。まず最初に、カノン砲を作るべきかな、と思ったが、せっかく魔力弾を撃ち放つ技術を会得できた。ならば、戦車砲を同じように使う方が面白い。もしくは高射砲でも良い。つまり、初めからカノン砲とかに縛られる必要がない! それに気がついた瞬間、俺は、頭が冴え渡った。まあ、それを思いついたのは、〔ノルス〕で暴れていたとき、まるで神の啓示のように俺に降ってきた。

 とまあ、そういうわけで、思い切って作ってみたんだけど、どうかな?」


 彼は銀鉱山からおよそ数百メートル離れている小高い砂丘の上でぺちゃくちゃと解説していた。彼の隣には長い砲身と無骨な骨組みを備えた高射砲。いや、これが開発されたとき、確かに対空砲として作られた。しかし、それは空を向かず、地面を向き始め、そして、それは移動し始め、その威力を見初められたあげく、戦車にまで搭載された。やはり、第二次世界大戦中の兵器はロマンにあふれる。パンジャンドラムとかを作ってみようとも思ったが、まあ、あんな失敗兵器を作るのは無意味だと考えた。

 その兵器の名前はいろいろなゲームでも登場し、そして、その威力の高さから色々とナーフされてしまう。しかし、それでも知っている。その兵器はあまりにもかっこいい。高射砲として使うよりも戦車砲として使われ、あの重戦車に搭載される。虎の名前を冠した戦車。王の名すら関することとなったその戦車にも搭載された砲。


「8.8㎝砲」一般にはアハトアハトと言われている。あの砲。


 彼は意気揚々とそれを作り上げ、彼女たちの前へ誇らしげに見せた。

「お前様、もう、わしは慣れたのじゃがな、シルヴィーはまだ耐性があるわけじゃないし、なんなら、拾ってきたあれははじめてお前様の武器を見るのじゃぞ? 『ノイン』やら『ゲヴェアー』なんかを見せてからの方が良かったと思うのじゃが……」

「はは、で? 拾ったって、誰のことかな? 私はアイリーンという名前を持ってるんだけど?」

「おや? それは失礼したアイリーン殿、それで、いつ消えるのかの?」

「いやいや、こちらこそ失礼しましたユリアさん。あなたこそ、今ここで、お友達を踏んづけているんですからその中に混じったらどうですか?」

「はあ? この砂粒がわれと同類じゃというのか? 人間如きが、お前を消し炭にしてやろうか? それとも、旦那様からもらったこの銃でお前を撃ち抜いてやっても良いのじゃぞ?」

「脅してるの? これだから器量の小さい女は……。胸がでかくても、心は小さいのですね」


 シルヴィーはそのやりとりに無謀にも入り込んでいく。

「まあ、まあ、今は仲間なんですから、少しは仲良くしましょうよ。モトキに嫌われますよ?」

 この言葉だけで、二人の言い争いは止まる。彼は一切何もしていない。むしろ、どう止めるべきか一切分からなかった。

「なんか、シルヴィー上手になったな……」

「何が?」

「この二人の扱い」

「へへへ、でしょ?」

 そう言って、シルヴィーはあざとく尻尾をフリフリとする。こういうことをするときは、頭を撫でて、と言っている時だ。彼は仕方なく、シルヴィーの頭を撫でる。

 そして、その姿を見て、二人は凄いしかめっ面を見せる。してやられた、みたいな気分になっているのだろう。

「ねえ、私達が争うとシルヴィーが得をしてないか?」

 アイリーンは彼女の耳元でごそごそと呟く。彼女は少し不機嫌そうに答える。

「確かにな……。ラスボスはあっちか……」

「そこで、提案なんだけど、仲良くしない?」

「それは断る」

 断るんだ……。

「じゃが、ライバルでいるのは認める。お前とわしの格の違いを見せてあげる」

 はっはーん、宣戦布告ですか、と。彼はそれに気がついていながら、我関せずを決め込もうと思った。だが、いつかははっきりしなくてはならない、そう感じたが、それが今ではないことだけは分かった。


「ま、まあ、そんなことよりも、この武器どうだ?」

 彼は、アハトアハトをパンパンと叩いて少し誇らしげにする。

「どうって、言われても、見ても分からんのじゃ」

「僕も意味が分からない」

「私は一切分からない。それは何になるの?」

「うーん、これは実際に撃ってみないと分からないだろうからなー。まあ、最初は試しに撃ってみようか」

 彼は、アハトアハトの角度を地面と水平にして、銀鉱山のある方へと向けた。

「そして、これを放つ」

 彼は、少し自己改良をしたアハトアハト、ー彼の命名では『ロマン砲』などと言っているがあまりにもダサい名前が不評で、従来の愛称『アハトアハト』にしたーの引き金を引いた。すると、発射口のところに紫色の光が溜まっていき、そこからあまりにも太い魔法弾が放たれる。放たれた魔法弾はあまりにも大きく、そして、あまりにも速い速度で進んでいき、鉱山に当たった。その他間の進んだ道は黒く焦げており、その威力の高さを知る。当たった箇所から大きな煙が出てくる。


「どう?」

「「「どうじゃない!!!」」」

 彼はそこに人がいることを完全に失念していた。

「なあ、お前様、人命よりも更なる大義という心持ちは重要じゃよ。じゃがな、ここまで派手にやるとこの後の交渉が面倒になるのではないか?」

 ロマンの前に彼は頭が回りきらない。いつもは無駄に回る分、こういうときにどうしてか回らない。

「む、確かに……」

「それに山の形も変わってる……。本当に人が死んでるかも……」

 さすがの彼も反省した。だが、この攻撃のおかげで、敵は前面に出てきた。規模こそ少ないが、それなりの戦力は整っている。銀鉱山が敵の本陣ではないのだろう。予想としては、〔アルゴンヌ〕戦の時に見つけた鏡のようなポータルがあるのだろう。直接魔法鉱石を運び込んでいる。カバーするためには人に目をつけられてはいけない。


「ま、まあ、まずは、やってくる敵すべてを殲滅しようか。配置は、俺とユリアが援護する。というより、ただ見とくから、二人でつぶしてくれ。やり方は任せるさ」

 アイリーンはすごく複雑な気分だった。彼の隣にいたいが、しかし、彼の期待にもこたえたい。彼は、自分を信頼してくれているからこそ託してくれた。この葛藤は彼女も理解していたが、こんな時までそうしようとは思っていない。

「さ、始めよう。パーティの始まりです」

 彼は空に空砲を放った。

 その音を頼りに敵は集まり、それを見た二人は各々の武器を取って攻撃を始める。相手は大体100体。二人を相手取るには少なすぎる。失敗することはないだろう。が、彼は、この機会に、彼女に銃を一つ渡した。

「これは?」

「ああ、これは、こういう時に使える武器だよ。俺はどうしてもこっちを作ったんだけど、もう一つのほうも捨てがたくてさ。それで、作った。俺はこっちを使う。そして、これは、同時代に作られた武器。通称『モシンナガン』。これを君に渡すよ」

 彼は、迷った挙句に選んだKarだったが、やはり、もう一つも捨てがたく、結局作ってしまった。そして、それを彼女に渡した。

「おお! お前様が! お前様が! 全然きれいのかけらもないけど、何ならもっと誇れるようなものが欲しかったけど、それでも、お前様がプレゼントを待たしてくれた!! これは、明日は雨じゃの! 砂漠の中でどうしてか降る雨じゃな!」

「わかったよ……、今度買うからさって、危ない!」

 彼は彼女と話していたら目の前にナイフが飛んでくる。

「おい! 危ないじゃないか!」

「ふふ、戦闘中に敵がそっちにいたので、失礼」

 アイリーンがすごく怖い目で、敵を切りながら彼を見る。彼はごくりとつばを飲み込み、後ずさりするが、気を取り直して、

「ま、まあ、これは、最初に渡した銃と違って、一発一発をしっかり当てないといけない。まあ、見てて」


 彼は、モシンナガンにマガジンクリップを差し込んで、狙いをつけてじっくりと狙う。そして、引き金を絞っていき、息を止め、敵一体の頭を撃ち抜く。

「おお、なるほど、ここに来たばかりに撃っていたやつと同じようなやつじゃな」

「そうだよロマンって、大事だからね」

「その割にはロマン的な事は一切してくれないんじゃな」

 彼は、言葉に詰まってしまった。所々に嫌みを込められてしまうため言葉を失ってしまう。

「ま、まあ、やってみる?」

 彼女は無言で受け取って、彼と同じように狙いを定めた。そして、発砲するが当たらない。

「当たらない……。全然当たらないのじゃ!!」

 彼女はイラだって、さらに撃つが全て外れていく。そして、弾が尽きてしまう。

「ユリア、いらつけばいらつくほど当たらない。ひたすら心を無にして。自分自身が弾になって、自分を投影する。そして、ただ当てるだけ。それだけ」

 彼はもう一つマガジンを渡して、彼女はそれを入れる。そして、彼女は深呼吸して心を落ち着かせる。そして、ゆっくりと息を吐いて敵を捉える。ゆっくりと引き金を絞っていき、そして、想像する。自らを飛ばして、敵に当てる。

「おお! 当たったのじゃ! 綺麗に当たったのじゃ! 気持ちいい!」

 彼女は綺麗に敵の頭を撃ち抜き凄く喜んでいる。


「おい! 私の邪魔をしないでくれない!?」

「僕もいるんだけど!」

 二人の乱舞は見ているだけで美しい。確かに、水を差してしまった気がした。彼女も彼もゆっくりと待つことにした。

 まあ、そうはいうものの、100体程度、二人にかかれば、ものの数分で全て屠り、再び静けさが帰ってくる。

「終わったね」

「終わったな」

 二人はどこか暴れたりなさそうな顔をするが、仕方ないと思い諦めた。二人で彼の前に戻ってくると、あたかも褒めて欲しいかのように、というより、シルヴィーはいつものように尻尾をフリフリとして、アイリーンに限っては、凛としているように見えて、じつのところ、ちらちらと彼を見ている。

 彼は、二人の頭を撫でてやる。シルヴィーはそれで喜ぶが、アイリーンは子供扱いされているようで複雑な気分だった。

「私の方が、年上なんだけどな……」

 このような不満を漏らしてしまう。彼は、これはまずいと思って、おでこにキスをする。

 キスをされたアイリーンは顔を真っ赤にするが、唇じゃないことに少し腹立たしく思う。一方の彼女はというと、この光景を見て、少しまずい、と焦る気持ちが生まれていた。一番の理由が、彼は、人前でそういったことをするタイプの人間ではない。しかし、必要に駆られて、行うのは、それだけの意味がある(多分)。

 一方のシルヴィーはわくわくしながら三人を見ている。

「ま、まあ、中に入ろうか」

 彼はおもむろに『アハトアハト』をパーツごとに解体していってマントの中にしまった。そして、もう一度使いそうな武器の全てのチェックを済まして、鉱山の入り口へ向かった。

 

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