再会、そして提案

一日ぐっすり眠れば、気分は爽快になり、次に何を為すべきかがはっきりと分かった。銀鉱山へと向かって、敵を叩く。簡単なことだ。人々の解放は魔法鉱石の次だ。あそこで働かせられている人たちは自分が本当は何をカバーしているのかを知らない。鉱石を掘り出して、片付けるなら、鉱石の中だけだ。巻き込む形になってしまうかもしれないが、それも仕方ない。彼らはすでに巻き込まれている。生き残るためには、彼らは何だってするだろう。彼はそれに賭けた。

 昼過ぎに、彼らはゆっくりと街を出ることにした。〔ノルス〕から鉱山までは半日ほどで到着する。夜中からの攻撃をまた行うのだが、彼はとある武器を試したいがために夜中に攻撃を仕掛けたかった。

 街の中はどうにか元の形を取り始めていた。街をそのまま収容所へと変貌させていたから自分たちの家へと帰ってそこで眠りについて、そこから生活を再スタートできる。たった二週間で人間の尊厳を剥奪され、家畜へとなった。魔人が行うにしてはあまりにも惨い。それを考えた彼は手加減する気が失せた。

「おーい、あんたらー!」

 門から出ようとしたとき、後ろからプロタゴラスが顔を出した。彼らは気がついていたが無視していくつもりだった。しかし、思ったよりもしぶとく彼らに追いつく。

「薄情だなー。俺も連れてってくれよー」

 ヘラヘラとした笑いのなかで、真剣な眼差しを向ける。しかし、彼はプロタゴラスの体を見て、それが無理だと悟る。だが、口で言っても仕方ないと察した彼はプロタゴラスに拳を振るう。それを避けることも出来ずにただ受けてしまう。だが、彼はかなり力を弱めていたため、実際は押しただけだった。

「無理だな。立っているだけでやっとだろ。安心しろ。俺たちが全てを解決するさ。その変わりと言っちゃ何だが、王宮に着いたときは口利きしてくれよ」

 プロタゴラスはその言葉にうなずいて、

「分かった……。ノンシュタイン軍北方支部総隊長プロタゴラス、全てを任された」


 その言葉を聞いて安心した彼は外に出ようとするが、もう一人、これは、彼も気がつかなかった。

「ならば、私が行く」

 プロタゴラスのさらに後ろ、顔までしっかりとフードで隠した女性は、その場においては何の問題もなかったのだが、どうにもこのタイミングで現れると怪しく思えてしまう。だが、彼はその声に聞き覚えがあった。

「お前様、知っておるのか?」

「ああ、なんとなくだが、分かった。王国に忠誠を誓ったあんたが、どうしてここにいる?」

 目の前の女性は腰に掛けているレイピアを引き抜いて構える。レイピアの柄にはバートランド王国の紋章が彫られている。

 彼は、ナイフを構えた。敵ではないと分かっているが、殺気を向けられたからには対応するしかない。

「君には暗殺命令が出ているからな。殺させてもらう!」

 さっきと言ってることが矛盾してるな、と思いつつ、向かってくるからには彼も対応する。

 一振り目で分かる。相手にこちらを殺す意志がないことを。だけど、彼はそんな甘ったれたことをする気はなかった。

「アイリーンさん。俺は、あんたの甘ったれた殺意ではもう、なんともない。殺意って言うのはこう言うもんなんだよ!」

 ナイフでレイピアを弾いて、アイリーンは後ろへと下がる。そして、体が動かなくなる。目の前にいる彼が圧倒的な殺意を持って、自分を殺そうとする。その事実に体が動かなくなっているのか、目の前の男に勝てる見込みがないことを本能が悟ってしまっているのか、それは分からないが、いずれにせよアイリーンは一切動けなかった。この事実だけは変わらない。


「あなた、一体、何があったの……」

「まあ、話せば長くなりますね。それで、あなたは、ついてくるつもりですか?」

 アイリーンはレイピアを戻して心臓に手を当てる。

「もちろん。私は王国の騎士ではない。私はあなたの騎士でありたい。私はあの日君を助けられなかった……、ずっと……」

 彼はゆっくりと近づく。そして、アイリーンを抱きしめる。

「ああ、ありがとう。俺はそれだけで嬉しいさ。でも、俺には心に決めた女がいる」

 彼は、彼女の方に目を向ける。彼女は勝ち誇ったような顔を向けている。だけど、どこか悔しそうだった。シルヴィーはこれをどう対処して良い分からないでいたが、分かることと言えば、中立でいよう、ということだけだった。

「それでも構わない。私があなたを振り向かせれば良いんでしょ? あと、この世の中には一夫多妻制なるものがあるらしいから、私がいても問題ないね」

 一夫多妻制って、どこの石油王だよ……。そう思ってもう一度彼女を見ると、首をぶんぶんと横に振っている。そして、アイリーンを見ると、これなら勝てる、などと思っているような顔をしている。彼は精根尽き果てるな、とすぐに感じ、寒気がした。

「はは、お前様、しっかりと言ってやれ。誰を愛しておるのかを!」

 殺気彼が出した殺意よりも濃厚な殺意が彼の元に降り注ぐ。

「も、もちろん、君だよ」

「君とは何じゃ。名前を呼ぶのじゃ」

「ここで呼ぶのは不味くない?」

 プロタゴラスは目をパチパチして何が起こっているかが分かっていない。シルヴィーもほとんど同じ状況である。そして、プロタゴラスは何かを悟ったように、ゆっくりと「じゃ、よろしく!」とだけ残して去って行った。シルヴィーはその姿がかなり羨ましく思えた。

「呼べ、呼ぶのじゃ」

「俺が愛しているのはユリアだよ」

 そう言うと、彼女は誇らしい顔をする。そして、アイリーンはぷくぅと頬を膨らませる。大人びた顔に凄く子供らしい姿が見える。

「だけど、私が入り込んではいけないと言うことにはならないでしょ? ユリアさん、私はね、この世界に彼が来たときから彼を愛しているの。なら、資格はあるでしょ?」

「はて、何の資格じゃ? 妻はわし一人で十分じゃ」

「彼は一人しか愛せないほど、度量の小さな男じゃないと思うけど?」

「少し意味が違うのではないか?」

「英雄たる者、多くの女性を愛せなくて何が英雄かな」

「はは、言うではないか。お前様、何か言ってやれ!」

「モトキもこいつに何か言って!」

 そう言うと二人して彼を見る。彼はバチが悪く、どうしようか考えあぐねていた。そこで、彼はこの中で最悪の手を使ってしまう。

「ま、まあ、二人仲良く」

「「優柔不断!」


 彼は怒られた。

 そこから、二人は凄くいがみ合いながら、鉱山へと向かった。彼は同行を許した。アイリーンの戦力は折り紙付きであり、彼は一人でも多い方が良いと思えたからだ。その結果、彼のパーティはあまりにも美女が集まることとなった。

 彼女ははじめて出来たライバルに嬉しく思った。だけど、同時に、彼が心写り市内という確証がない今、安心も出来なかった。どういうわけか、彼はありリーンを信頼している。それは、最初から分かった。あまり人を信じない彼がアイリーンを信じた、というのは、彼女にとって不安の材料でしかなかった。

 一方のアイリーンと言えば、彼が生きていたことが分かったこと、そしてそれがあまりにも嬉しかったこと。これは、アイリーンがこれまで頑張ったことが報われた瞬間だった。だけど、次の困難として、彼女がいる。なんなら、いつの間にか結婚もしていた。だからその驚きがこの街に来て、彼と再会したときに訪れた。

 アイリーンが街に着いたのは、彼が街を開放してすぐだった。一足遅かったと諦めていたが、親切な人がまだいることを教えてくれた。そこで、次に行く場所を考えた結果、彼が出て行く場所で待っていれば良い。そして、彼と再会することが出来た。彼は見た目から何まで全て変わっていた。しかし、街を救ったこと、そして、これから本当の意味で救いに行こうとしているところから、彼は彼のままなのだと確信することが出来た。絶対に勝てないと分かっている相手に対して、助けるために立ち向かう。そういったことが出来る。そういった人間が力を持てば、それは自ずと正義のために為される。彼がそういった人間なのは、分かっていた。だから、彼の行動が分かった。彼と再会して、再確認できたのは、彼は英雄である、ただそれだけだった。

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