第四章 砂漠の砲火撃

「暑い……。熱い……。あつい……、あつい!!!!」

 彼女は殺気から何度も何度も熱いことを訴える。もし、元いた世界の吸血鬼ならばこの世の地獄のような環境なのだろう。とはいえ、ここの環境は人間ですら地獄だし、犬人種のシルヴィーは舌をたらーんと垂らして死にそうな顔をしている。悩んでいることを少しやめたのか、国境を越えた辺りからまた元気になっていたが、すぐにまた沈みはじめた。最初は普通の草原だったが、段々と草木が減り、気がつけば辺り一面の砂漠へと変化していた。だから、彼らは少しばかり誤算があった。近年この国は砂漠化が深刻化しているとは聞いていた。だが、地図とは全く違った。地図に載っていた、彼のいる地点ではまだ草原が広がっているはずだった。だからこそ、その手前の村で装備を整えるつもりだったが、その村に着く前に砂漠地帯へと入ってしまった。だからこそ、全員暑さで死にかけている。

「砂漠化って、俺の世界での出来事だと思ってたが、何処にでもあるものなんだな……」

「お前様、しゃべるでない、つばがもったいない」

 はいよ。

 彼は、喉が渇いたという事を考えないために、どうして、ここまで砂漠化が進んでいるのかを考えることにした。


 ノンシュタイン国は確かに、砂漠の中で発展していった国だった。国の中にある五つのオアシスとそれらを結ぶパイプラインをのおかげで、砂漠の中にいくつかの町が出来上がっていった。税システムも、このパイプラインに沿っており、オアシスを保有する五つの街へとその使用量という形で納めている。そして、オアシスを保有する街は、すべてノンシュタイン国の首都〔バラック〕の一括管理で、結局のところ、税収は全て国家の元に入る仕組みになっている。草原地帯では牧畜が盛んに行われており、それ以外では、農耕を中心としているが、基本は輸入に頼っている。それを行う地盤としてあるのが、銀鉱山であり、金も大量とまでは行かないが、それなりに手に入る。そこで、この国は、対外向けにそれらを輸出し、その見返りとして食料を買うという形態で動いている。

 この食料は基本的にバートランドから、ではなく、ノンシュタインの隣、海に面したヒュンメル共和国からである。その国は農産資源に富んでおり、食料の一大供給地点となっている。

 砂漠化が深刻化してきたのは、つい最近で、ここに来るまでにあった人の話によると、銀鉱山をこれまでの数倍稼働させているらしい。彼はその理由で納得は出来たが、それでも、やっぱり理解できないのが、この砂漠化はあまりにも急すぎると言うことだった。たった数ヶ月でここまで進むものじゃない。砂漠化っているのは、人類が何年もかけて積み上げてきた罪の結晶化である。

 

 今、彼らが向かっているのは首都であるバラックであり、地図が正しければ、〔バラック〕の北側、五つあるオアシスの内、一つの〔ノルス〕だが、その手前で整えるはずが、砂に飲まれていた。この調子だと、〔ノルス〕も怪しい。

 とかうだうだ考えていると、少し離れた位置から、ざっざっ、と足音が聞こえた。目の前の砂丘の奥に大量の足音が聞こえた。人かと思って、彼は、少し足を速め、その上から向こう側を観察するとそこには、目を疑いたくなる光景があった。それは、死の行軍だった。鎖でつながれた人たちが、ぞろぞろと砂漠を進んでいく。周りを取り囲むように魔物が奴隷を見張っている。魔物の連隊は先頭にノッドランドと言われるトカゲが二足歩行したような魔物に、その周りをゴブリンが囲っている。さらに上空には、鳥型の魔物、エアラッドが飛行していた。

「なるほどね、やっぱり魔物が関わっていたか……」

 彼はそのまま、どうするかを聞こうとしたが、彼女もシルヴィーも戦う気満々だった。熱さ故に一暴れしてストレスを発散したいのだろう。

「まあ、聞くまでもないか。さて、あの人達を助けよう。まあ、突撃しても良いんだけど、ちょっと試したい武器があるから、それで、戦闘の奴を撃った後、後は任せる。それでいいか?」

 彼女はこくりと頷き、シルヴィーは拳にメリケンサックを付ける。このメリケンサックは彼が作ったのだが、メリケンサック自体に魔法陣を刻印しており、シルヴィーが魔力を込めるだけで、特定の魔法が作動するようになっている。字は『シリウス』。

「分かった。じゃあ、少し近づくから、待っておれ」

 そういって、彼女とシルヴィーが砂丘を盾に敵の近くまで回り込んで行くのを横目に、彼は、新しい武器を取り出す。以前ドラゴンを倒すために対物ライフルを使ったのだが、重たい上に音が大きすぎる。強大な敵には向いているが、隠密性に欠けていた。そこで、彼は反省したはずなのにそれでもやはり自分が何でも作れると分かっているからこそ、ロマンを追い求めてしまった。


 彼は基本的に元いた世界の二次大戦期に使われていた武器を使用したいと考えていた。なぜなら、ロマンがあるからだ。それでも、アサルトライフルを現代の傑作中にしたのは、ただ単に、彼が親に内緒ではじめて買ったエアガンだったからだ。もちろん、十歳以上限定で、18禁ではない。思い入れがあり、それなりにその重の知識があったからこそ、作れた。本当はStg44を作りたかったが、利便性と拡張性、そして、思い出を優先した。ハンドガンをM1911の形状に似せたのは、採用されてから百年も改良を重ねながらそれでもなお、採用されているというこの点にかけて、ロマンを感じていた。だからこそ、これにした。あとは、ネームバリューの高さ。RPGを作らなかったのは、『パンツァーファウスト』のあの形状と絶妙に有名じゃない点が良かったからだ。RPGは有名すぎるし、面白味がない。パンツァーシュレックはでかすぎる。アサルトのアンダーバレルとしてグレネードランチャーも考えたが、それを作るくらいなら、リボルバー型のグレネードランチャーの方が良いと考えたため、諦めた。あと、細かい付け方が分からなかったのと、フォアグリップの方がなんかしっくりきた。

 すると、彼はあとは何を作ってなかったかと考えたとき、アサルトライフル、つまり突撃銃が普及する前、単発のコッキングを行う、連射の利かない銃、つまり、ライフルを作っていないことを思い出した。より正確には対物ライフルを作った時点で気がついていたが、製作に至らなかった理由はただ一つ、ロマンの観点で、どの武器を採用するかで迷っていた。候補は、Kar、M1891モシンナガン、リー・エンフィールド、だった。そして、ようやく決めた彼が作ったのは、Kar98Kだった。理由は、ロマンととあるゲームで現代戦なのに、登場したというロマン! そう、一にも二にもロマン。モシンナガンも迷った。北の大地の伝説スナイパーに憧れもしたが、どうしても二番煎じ感が否めなかったため、そこで、Karでこの世界の最高のスナイパーを目指そうと思った。

 Karはボルトアクション式だったが、彼の魔法弾を組み合わせれば、それを無視しようとも出来たが、コッキングすることのロマンを追い求めて、コッキングを優先した。もちろん、緊急時には連射も出来るが、ロマン優先。


 彼はスコープを乗せず、ただ、目視で距離を測る。これは、弓使いから得た能力で、この世界でもスナイプする用のスキルはあれど、たかがしれた距離である。彼らが見つけた奴隷一行は近くても100メートル、戦闘となると150メートルほどだった。彼は、何度も呼吸し、それをゆっくりと深呼吸へと変えていく。心臓の音を耳に入れ、自分の鼓動を肌で感じる。砂が崩れそうだが、あらかじめ固めておき、力を込めても大丈夫なようにする。ひたすら、狙うべき敵を見定め、狙いを絞る。そして、引き金を絞っていき、呼吸を止める。その瞬間、世界がゆっくりと進む。心臓の音の途切れるタイミングが分かる。ドクン、ドクン、ドクン、ドクン……。

 プシュッ

 サプレッサーを介して撃たれる弾丸は音を一切立てずにまっすぐ飛んでいく。彼はコッキングすることを忘れ、ただ、着弾するのを待つ。撃った後も、標的から目をそらさない。これは、全ての基本。撃った敵が死ぬのを確認する。これは、確認も重要だが、自分が何を、誰を撃ったかを知らなければならない。それは、引き金を引くものの役目だ。

 弾丸はすぐに、戦闘のノッドランドに着弾する。頭を撃たれたノッドランドは何が起こったかを理解することなく倒れた。そして、それを見たゴブリンとエアラッドは何秒も経ってようやく攻撃を受けたことを理解する。その間にも彼は、エアラッドを撃ち落としていく。コッキングするのが気持ちが良かった。コッキングレバーを上に上げ、引き、弾薬を排夾する。そして、マガジンクリップを差し込み、また、撃つ。上空の敵を一掃した後、彼女たちが突撃を敢行する。もっとも、最初に飛び込んだのはシルヴィーだった。


 シルヴィーは説明したとおり、拳に魔力を込めた。見かけ上は一切変わっていないが、『シリウス』は硬度を増していく。つまり、シルヴィーの魔力量が高ければ高いほど、操作力が高いほど、それは堅さを増していき、彼が実験したところ、ほとんどのものを破壊することが出来た。彼の観察で分かったのは、シルヴィーは自分でも知らないうちに魔力操作ができており、魔力量は彼や彼女には及ばないものの、それでも、周りの人に比べれば何倍も持っている。

「おお、あのゴブリンが簡単に砕け散る~。気持ちいい!」

 シルヴィーは持前の身体能力の高さで、敵の攻撃をすいすいと避け、拳を振るっていく。彼女は面白おかしく、ショットガンで撃ち抜いていく。射撃の練習なのだろう。ケレー射撃をさせたら、かなりの腕前だろう。

 彼は、何か手伝おうかと思ったが、出る幕がなかった。二人のコンビネーションははっきり言って、敵わないと思った。彼と彼女の相性は抜群だが、シルヴィーと彼女の相性も良かった。二人とも楽しむ、と言う点で、合っているのだろう。


 襲撃してから五分後には殲滅していた。これを見ていた奴隷の一行は、この勝利に歓喜した。死にかけている人たちでもこの勝利に希望を見いだせたのだろう。彼は、魔物達が持っていた所持品を漁った。いくら魔物でも、何も食べないわけじゃないし、ましてや、飲まないわけじゃない。案の定、大量の水が発見できた。だが、これは、魔物だけにしては多かった。彼は、考えるのを後にして、助けた人たちにそれを分けていった。そのなかで周りよりも戦闘になれているように思われる男に話しかけられた。

「感謝する……」

「気にするな。ところで、あんたは、見たところ騎士のように思えるが、どうして、こうなってるんだ?」

 その男の筋肉の付き方が明らかに戦い慣れしている。常日頃から甲冑を着ていると思えたからだ。

「ほう、騎士と分かるか……。恥ずかしい話だ。一月前だ。〔ノルス〕のさらに北の方にある村に魔物の襲撃があった。その報告を受けた俺たちノンシュタイン騎士団は討伐へと向かったが、村はすでに滅びていた。いや、村があった土地が砂漠に覆われていた。そして、どこからともなく現れた部隊に襲撃を受けて、壊滅した。そこから、どういうわけか、砂漠の中をひたすら歩かされ、助けられた次第だ」

「なるほど、一月前か……」

 アルゴンヌ襲撃は半月前、時系列上の関係はないだろが、襲撃の裏はおそらく、アルゴンヌと同じ構図なのだろう。そうでなくても、そうするように動くのが後々に吉となるだろう。


「俺たちは先に〔ノルス〕に向かう。あんたはゆっくりと向かえば良い。俺の予感が当たっていれば、〔ノルス〕やそのほかの街も何かしらの影響を受けているかもしれない」

 男はすぐに納得した。諦めなのかもしれないが、彼に任せるのが一番と思ったからだ。

「ああ、任せても良いか? 私の名前はプロタゴラスだ」

「俺の名前はゴルギアスだ。彼女は……」

「わしはシア」

「僕はミアだよ」

 そういって、彼はプロタゴラスと握手を交わした。


 彼らはプロタゴラス達を置いて、先に進み始めた。

「それで、モトキさん、どうして、本名を名乗らないんですか?」

 シルヴィーもいい加減彼になれた。というよりも、初めの態度は普通にいやだったのだが、仲間にしてもらったことや、信頼してもらったこと、なによりも、彼女が無類の信頼を彼に寄せていることも相まって打ち解けた。

「シルヴィー、前にも言ったが、本名は相手を縛る事も出来る。そして、名前を偽れば、手配されたとしても、誤魔化せる。あと、仲間に化けるような奴がいたとき、見破りやすい。まあ、色々利点はあるから。これから慣れていってくれ」

「分かった。まあ、今回はまともな名前だね二人とも」

「確かに、前の名前はセンスがなかったの。せめてわしはハンナにすればよかった。そして、お前様は、なんじゃ? 今回のゴルギアスって。もう少し言い名前はなかったのか?」

「え……。だって、相手がプロタゴラスなら、こっちはゴルギアスでしょ……」

 彼の頭の中では二人のソフィストがよぎっていた。だから、それに合わせて名乗ったが、彼女たちには不服らしい。

「ま、まあ、兎にも角にも先に進もう。水も補給できたし、この調子なら今日の夜に着くだろう」

「じゃな」

「そうだね」

 そういって、三人は、歩き続けた。さっきよりも足取りは軽く、気分爽快だった。

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