間章 アイリーンの冒険

 王国への忠誠はあったが、どうしても、彼の死を受け入れられなかったというのもあったが、同時にあの洞窟の中で、あの魔人が語った事が頭から離れなかった。もし、あの魔人が言っていることが正しければ、そして、彼の運が良かったならば彼は生きているはずであり、そこから外に出る算段を付けているだろう、という打算の下、王国騎士団から離脱した。だが、洞窟の先へと進もうとは思わなかった。それよりも、アイリーンが自分で抱いた違和感を確かめるために、外地へと赴くことにした。冒険者として名前を変えて騎士団という肩書きの全てを捨てた上で、旅をすることで、一切の偏見をもたれることなく、動くことが出来た。

 そんなある日、王都から少し離れた宿屋で休んでいたとき、ふと冒険者が噂話をしていたのを聞いた。その内容は、ここらでは見たことのない、色が恐ろしく白く、真っ黒な服に身を包んだ二人組を見たという。その者達は月夜に紛れて、その街のマフィアを壊滅させた、と。

 アイリーンはその瞬間確信した。そんなことが出来るのは彼において他にいない、と。どうして、そう確信できたのかは分からなかった。だけども、ただ、そう確信できた。

 そのあと、アイリーンは全くの見当違いのところを旅をしていた。実際、〔アルゴンヌ〕に一度立ち寄ったのだが、その頃には彼らは絶賛迷子になっていたためにほとんど入れ違いになっていた。〔アルゴンヌ〕の一騒動を聞いたのは、アイリーンが旅立って、二日経った頃だった。聞くところによれば、圧倒的武力と、見たことのない武器を操って幾万の敵を蹂躙したそうだ。しかも、そこで聞けば、これまでの戦術とは一線を画すほどの斬新な戦術で敵を殲滅したらしい。

 その話を聞く前に、確かに、アイリーンは妙な違和感を感じていた。〔アルゴンヌ〕から近いところにある町に地方の兵士が召集されていた。何事かは分かっていなかったが、おそらく、遅すぎる援軍だったのだろう。


 その噂を聞いて、すぐに〔アルゴンヌ〕にもう一度戻ろうと考えたが、彼のことだから、次の目的のために動いている、そう確信した。そして、彼の考えをなぞろうと考えていき、彼が何をしようとしているのかを辿ることとした。おそらく、マフィアの壊滅は事の成り行きだったのだろう。しかし、〔アルゴンヌ〕へと向かったのは冒険者ギルドに登録するため、で、その過程で話に聞いた戦闘に巻き込まれたのだろう。なぜ、彼が登録する必要があったのか、それはすぐに分かった。バートランド王国含め、その他の諸国を行き交う上で冒険者はかなり融通が利く。傭兵という力を持ってはいるが、基本的に一カ国にとどまらず、冒険をする。これを円滑にするために、大陸に存在する全ての国で冒険者協定を結んでいる。ギルドは統一されていないが、それぞれに緩い連関を持っている。一つのギルドで受けられるサービスを何処でもうけられるため、彼は自分の冒険を有利に進めるために登録したのだろう。かくいう、アイリーンも同じ理由で登録した。ただ、彼もこれは考えているのだが、不気味なシステムで、各国は自前の兵士を持っているのにもかかわらず、魔物などの討伐は全て冒険者に回している。しかし、その冒険者を自国に引き入れようとはしない。ただ、一カ国を除いて。バートランド王国はあえて高難度のクエストを発注し、それをクリアしていったものから、士官クラスの候補生として、王都のカエサル戦術学校に入校させている。そこで提供されるサービスの質があまりにも高く、一部冒険者はそれを目当てにクエストを受けるが、死亡率も高いらしい。


 ここまで、考えていると、騎士団に最近、人員の拡充が激しくなったのも、なんとなく理解が出来た。先の大戦以降、本格的な実践を体験しているのは、アイリーンがいた騎士団を除いて他になく、冒険者達と何度も共闘して問題の解決に乗り出していた。だからこそ、その騎士団に人員が拡充されたのだろうが、そのおかげで、由緒正しい歴史と秩序を持っていた騎士団は少しずつ腐っていっているのが肌で感じていた。

 彼がもし、移動のために登録したのならば、次に向かうのは、隣国のノンシュタインだろう。あそこには、大陸最大級の図書館が存在する。情報を集めるのならば、そこが一番だ。彼が、〔アルゴンヌ〕の戦闘に参加していたこと、そして、頭がかなり切れることを綜合すると、あり得る話だった。


 アイリーンは次の目的地が決まったことを喜び、宿屋で一人、強烈な酒をあおって、寝ることにした。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る