戦勝の代償

 今回の戦争は一日で終わった、と言うのが唯一の救いなのだろう。だが、彼らが依頼で外に出たのが、朝早かった。そして、昼を過ぎた頃に奇襲を受けたのだが、彼の疑問はそこにあった。あれだけの量の敵軍を彼らが見逃していたというのだ。そこが疑問で仕方がない。戦争というのは最初に軍事目標を定め、そして、それに対する戦術、つまり作戦が展開される。昼間に攻撃を行うためにはあの大軍は近くまで来なければならない。しかし、奇襲という作戦形態をとる以上あらかじめ伏兵を張っていた、と考えるのが妥当だが、彼監視網を抜ける理由にはならない。魔人などの魔界の連中が放つ魔法と人間が放つ魔法とでは、少しばかり性質が違う。確かに彼は魔界の魔法を警戒していた。だから、人間の魔法を見過ごした、と言う可能性はあり得なくもない。となると、やはり、帰結としては人間がこの攻勢に加担している。しかも、高位の魔法使いが。そこまで高位となると、王宮お抱えの魔法第一師団あたりが怪しい。隠蔽に長けた魔術師も多いだろう。

 

 昼過ぎ、真っ昼間の、食後という、攻撃を予見していない人たちからすれば、いつでも奇襲にはなるのだが、この時間帯に攻撃を行った。この攻撃によって、反撃を手早く行う事はいくらかできたのだが、やはり、奇襲という性質上、前線はすぐに構築で出来ずに多数の民間人は避難に遅れて虐殺されていった。彼女とシルヴィーが戻ってくることでその崩壊した戦線を立て直した。彼女の圧倒的な殲滅力と、その隙に民間人の非難を完了させ、逆攻勢に出ることが出来た。そして、彼が帰ってきた、というのが、彼がいない間の出来事だった。


 ゲリラ戦部隊が〔アルゴンヌ〕に帰還したとき、街では、犠牲者が運ばれ、記録係がその数を記録していく。何処を見渡しても入り口の付近は死体だらけだった。女性も子供も関係なく、そこにはただ死体だけが積まれていく。彼ははじめて戦場を見た。殺した数は多いが、殺された人を見るのは初めてだった。

「お前様。これが戦場じゃよ。理不尽に誰もが殺されていく。じゃがな、お前様、わしらの進む道はこの先にある。これからは、お前様も加害者になる。それは分かっておるのじゃろ?」

「もちろんだよ。もう、俺の手は汚れているのだから」

「分かっておるのなら良い」

「だけど、俺は理不尽に殺さない。もちろん、死ぬのはいつだって理不尽だ。だけど、俺も君も悪人しか喰らわない。殺しはその一環だよ。だが、おそらく、これからは俺のスキルを使って暗殺にも手を出さないといけないだろうな」

「はは、そうじゃな。お前様の世界じゃとどうせ、それに特化した武器もつくっておるのじゃろ?」

「はは、そうだよ。だけど、今はまだ見せないよ。これは、知らないからこそ強いのだからさ」

「無知故の恐怖。情報戦か。お前様はここよりも発展した世界からやってきた分、強いのう」

「はは、封印されていた人が何を言うのかなー。まあ、良いけど。ところでなんだけど」

 彼は何かとぼけるように彼女を見た。

「なんじゃ?」

「俺のこと、敵の前では旦那様って何度も連呼していたのにどうして、お前様なんだ?」

 彼女は今更何を言う、みたいな顔を彼に向ける。ていうか、言った。

「はあ、今更何を言うのじゃ。言わせるでない」

 彼の頭の上に? が出てくる。撃たれたら多分よろめくだろう。

「分からないのなら教えない。朴念仁」

「朴念仁って……。まあ、良いよ。名前は呼べないのはその通りだし」

 彼にとって少し辛いのは、人前では彼女の本名を呼べないことだった。まあ、彼女も同じように呼びたいのだが、どうにも自分が純粋だと言うことに気がついているらしい。


 彼はそのくらいに話を切り上げて、街の中を突き進み、アルフレッドの元に行く。

「おう、戻ってきたか。ご苦労だった。まず最初に感謝する」

 そういって、アルフレッドは深々と頭を下げる。彼は感謝を受け取って、話を進めさした。

「それで、話って?」

「ああ、俺が話す、というよりも、お前さんに聞きたかったんだ。今回の攻勢をどう思う?」

 彼はアルフレッドの話を聞くなり、彼と彼女の秘密に触れないように推測を話していった。先の大戦の傾向、そこからの帰結、そして、今回の洞窟探索と攻撃。彼の推測は論理的であり、合理的だった。だからこそ、説得力を持っていた。

「なるほど、お前さんの推測が正しいなら、今回の攻勢は政治的意図がふんだんに盛り込まれたものだと言うことだな。だが、そうなると、お前さん、俺たちは事実上、王都から追放された、ということになるな。なるほどね、お前さんの言うことは筋が通っている。だからこそ、怖い。今回、王都は計画に反して防衛戦に成功した。つまり、俺たちは何も知らないが、少なくとも、何も知らないが故に王都からの援助を受け取れる。今後の方針は決まりだな」

「ええ、もぎ取れる分だけもぎ取っていく。それに、アルフレッドさん」

 彼は改まってアルフレッドを見る。

「ここには、王都に変わる施設、システムがそろっています。言い換えれば、新たな国家としての機能を最早備えていると言ってもいい。今後、おそらくですが王都との軋轢が加速し、さらなる攻撃、陰謀などが続くでしょう。そこで、アルフレッドさんには人望を使って戦力とさらなる人員の補充を行って下さい。憶測でも構いません。今回の戦争で戦った人たちには全ての情報を開示して下さい。ただし、彼らには契約魔術で沈黙を契約させた上で、です。そして、アルフレッドさん。ここはおそらく、王都と戦争になります。魔物とではなく、人間と、です。俺たちは、もちろん、アルフレッドさんにつきます。しかし、それだけでは戦力は一切足りない。召喚された英雄たちはおそらく、力を付けはじめている。これからの戦争はさらに大規模に、凄惨さを増していきます。俺たちはその道を開けてしまった」

 アルフレッドはその話を聞いて腕を組みながら考えていた。だが、引き返せないことを理解していないわけがない。

「はあ、一冒険者から王都に次ぐ機能を持つ〔アルゴンヌ〕のギルドマスターになって、もう、これ以上はないって言うのに、今度は独立を指揮しろと。次から次へと……、だが! 面白い。面白いって言うのは、人生に良いスパイスを与えてくれる。良いだろう。俺たちはお前の言うことを信じて行動していく。俺たちはお前達の戦力を当てにする。それでもいいのか?」

 彼は、笑顔で、

「もちろん。ですが、一つ条件を付けても良いですか?」

 アルフレッドはその言葉に驚いた。何が来るか一切予想がつかないからだ。

「シルヴィーを旅に連れて行っても良いですか? 彼女は俺たちの戦力になります。これからも。だけど、今のままだと、これからの戦争は厳しくなるでしょう。だからこそ、俺と彼女がシルヴィーを鍛えます。シルヴィーには指揮官としての才能も、先頭の才能もあります」

 アルフレッドはぽかんとした顔で彼を見た。ギルドに登録するときにその条件を出していたのに、また同じ条件を出してくるのは合理性に欠けていたからだ。しかし、少し考えていくと、アルフレッドもすぐに納得した。だからこそ、アルフレッドは快くそれを承諾した。

「では、よろしく頼む」

「ええ、これからよろしく頼みます」

 二人は握手して、これからのことを決定した。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る