アルゴンヌの戦い
彼女とシルヴィーをつれて、洞窟の中を進んでいくが、シルヴィーの到達点を超えても一切ゴブリンと接触しなかった。ただ、そこにこれまで奴らがいたという事だけは分かった。
「なあ、これは、おかしいな」
「そんなの見れば分かるよ」
シルヴィーは悪態をついて答える。彼が抱いた違和感をおそらく理解していないのだろう。
「誰もいないことがおかしいんじゃない。誰かがいたことがおかしいんだ。ゴブリンの跡だけじゃない。他にも誰かいた。しかもそれは、人間とか、もしくは、魔人とみるべきだろう。さて、嫌な予感はするが、先に進もう」
彼はホルスターから『ノイン』を抜き取って、洞窟の中を進んでいく。あちこちに生活の跡が見える。
「これは、ただの残存兵の集まりにしてはあまりにも多すぎないか?」
シルヴィーがゴブリンに見つかった地点からさらに奥へと進んでいくが、等間隔で生活していたことがうかがえる。少し広いところに出ると、そこにはいろいろな物資が置いてあったかのようなものが見受けられる。物資集積所。ゴブリン自体は物資は必要ない。それは土で出来上がっているから、というのが一番の理由だ。だが、ゴブリンだけで全て戦力がまかなえる訳ではない。軽歩兵としての役割は強いものの、重歩兵やら魔法兵はゴブリンで賄えるものじゃない。ここにあったのは、おそらくそういった連中の物資。
「まあ、今は先に進もう。俺の推測が正しかったら、多分、ゲートがある。シルヴィー、アーレント、先に戻っててくれ。多分、〔アルゴンヌ〕が攻撃されている」
シルヴィーも彼女も目の色を変えた。洞窟の中に入っておよそ、数時間。ここまで誰とも出会わなかったところを考えるともう、攻撃の態勢が整っていると考えた方が妥当だった。そして、もう一つは、天然の要害とも言えるこの洞窟を総司令部として機能させず、全員出て行ったところを見ると、戦力の配置はすでに済んでおり、司令部はもっと別のところに移っているのだろう。つまり、彼らは出し抜かれたというわけでもあり、同時に〔アルゴンヌ〕は魔物の軍団に蹂躙されているかもしれない。そこで、彼は、二人を先に戻すことで、戦力の立て直しを図らせることとした。彼女一人でかなり持たせられる。
「お前様はどうするのじゃ?」
「多分、奴らが通ってきたゲートがあると思う。まあ、ゴブリンがいないとなると、ドラゴンらへんが守ってそうだな。君達に任せても大丈夫?」
「もちろんじゃ」
「任せて!」
「と、アーレント、俺が戻るまで、銃は使わないで。多分、見られてる」
「分かった。じゃあ、行くよ!」
そういって、二人は来た道を走って戻っていった。先に何が起こったかと言えば、彼が予想していたとおりに、街は大規模攻勢を受けていた。それは、この洞窟だけでは想像のつかない戦力での攻撃だった。
そんなことはつゆ知らず、彼は、ぐんぐんと前進していって、戦闘におあつらえ向きのだだっ広い空間を見つける。彼は、探知を使う必要もない敵が目の前にいる。
「ああ、ドラゴンか……。そりゃ、そうか。守らせるとしたら、ドラゴンかゴーレムだよな。何処の世界でも相場は同じってか。よし、やるか」
彼は『ノイン』を構えて撃ち込んでいくが、カツン、カツン、と明らかに弾かれる音がする。
「まあ、だよなー。あの装甲だと、『ゲヴェアー』でも、まあ、変わらないよなー。あとはスラッグだが、ひびが行く程度かな。『パンツァーファウスト』じゃなくて、RPGを作っておくべきだった……。ロマンよりも実を取るべきだった……。アハトアハトを設置する時間さえ確保できればまあ、良かったんだけど……。あれを使うしかないよな」
彼はぶつぶつとぼやきながら、火龍の攻撃を避け続け、翻弄していく。相手を怯ませたいと考えても、その隙がない以上攻撃に転じる余裕がない。だが、言い方を変えれば、避けられ、そして、思考するだけの余裕もある。思考によって組み立てた論理行動を体に刻み混んで無思考で攻撃する方に体をなじませる。
火龍は口から炎を吐き出してあたりを燃やすが、彼は、それを天井に張り付いて避けて、相手がこちらを見失っている内にマントの中から『M82』を取り出す。彼が日本にいた頃、良くゲームで見かけていた対物ライフルの論理構造を思い出しながら、創造していたが、全然上手くいってなかったため、出し渋っていたが、森の中を彷徨っている内に見通しがついたために組み立ててみたが、撃ち込むのは初めてだった。
カチッ、と弾が発射されない音がする。
「あれ? ……、あ、しまった。そうだった。コッキングするのをすっかり忘れてた……。よし、っ!」
ちょっとの油断から、敵の尻尾に弾き飛ばされてしまう。
壁の向こう、めり込んでしまった。おかげで、骨の半分近くを持って行かれた。そして、意識が飛ばされそうになったが、すぐに体が再生し、意識を呼び戻される。
「くそ、初歩的な。まだまだだなー。よし、身体強化を使うか」
彼は、最初に身につけた身体強化を自分に施して、火龍が攻撃をする速度より速くまず、両目に撃ち込む。撃ち込まれた弾は、目を貫通し、鋼鉄の鱗を貫ぬく。視界を失った火龍は暴れまくる。が、ただ暴れるだけであるならば、彼にとって何の問題もない。が、ドラゴン関係の敵で厄介なのは、まあ、彼が資料で読んだだけなのだが、魔力感知に優れており、それを読んで行動する。だから、目を潰したのは、視覚的情報を遮断するという意味では意味はあるが、それでも、ちょっと脅威が小さくなっただけだ。
貫通したことを確認すると、次は、4本の腕だか足だかに撃ち込んで転倒を誘う。転倒したことを確認してから、尻尾に数発撃ち込んでそのまま千切る。
「ドラゴンの尻尾は売れるからなー。さて、次は何処に撃とうー、あれ? あ、そうか、しまった。忘れてたー。ユリアに怒られるなー。さて、もう終わらせよう」
彼はそう言って、頭に撃ち込む。あまりの高威力に首がもぎれる。声を出すことなく、ただ、血が流れる音だけが洞窟の中を響き渡る。
彼は、死体を横目に、マントの中に『M82』を戻して『ノイン』で突き進む。また、一人で走り回るが他に敵と出会うことはなかった。そして、奥にあったのは、鏡だった。彼はその鏡に触れようとしたが、何か危険な予感がして手を引っ込めた。そして、『ノイン』を撃ち込もうとするが、これも、危険な予感がしたので、諦めた。そして、彼は、数秒間だけ考えた末、地雷を仕掛けることにした。しかも、出口に向けて幅四メートルごとに。一個一個仕掛けるのはもちろん面倒であるために複数個を同時に魔法で仕掛けていく。敵は魔法による罠を気にするが、物理的というか、未知の罠には一切反応できない。
相手の撤退を優先させ、撤退できた頃には地獄を見るように、そして、最後、出入り口のところには丁寧に時限式の爆弾を設置した。
「さ、嫌がらせはこれくらいにして、出入り口を塞いで、と。よし、行くか」
大きな爆発音を伴って洞窟の出入り口が崩れ去っていく。
「嫌がらせ完了。さて、敵の総大将を探して潰すか……」
彼は探知能力を使って、敵の位置を探る。そして、〔アルゴンヌ〕に向かっている敵兵力を見つけてかなり驚いた。師団数で計算した場合、軽く四個師団。総勢、8万だった。先の大戦の戦力のおよそ六分の一。もしかしたら、伏兵含めれば、一個軍団が控えているのかもしれない。そうなると、王都からの援軍を要請しなくてはならない。多分、もう出しているのだろうが、彼は確信していた。来ない、と。その理由はいくらかある。最大の理由は、これがおそらく仕組まれたことだからだ。
ここまでの大規模攻勢は極秘裏に進めるにしては規模が大きすぎる。いくらやったとしても、どこかで漏れる。おそらく、ちょくちょくゴブリン討伐のクエストを王都から申請され、受諾し、解決。それらは全てカバーストーリーとして残存軍討伐、と言う名目をもつ。この攻勢は彼が想像するもっともっと上の方が仕組んでいる。おそらく、魔族側も一枚岩ではないのだろう。王宮は、教会との関係の中で、これらが仕組まれているのだろう。
この冒険者ギルドが狙われたのはここの街が指揮するアルフレッド含め、この偽ウド自体が、一つのハブ機能を持っている。前に語ったように、王都が機能不全に陥ったとき〔アルゴンヌ〕はその役割を担う。言い方を変えれば、この〔アルゴンヌ〕が機能不全に陥ったとき、冒険者含め全ての戦力は王都に集中する。他に支部はあるが、それでも、王都の中心化は間逃れ得ない。先の大戦から踏まえて思いつくのは、戦力の拡大。冒険者を傭兵として、もしくは、正規兵として雇い入れるか。いずれにせよ、ろくなもんじゃない。
ここから推測すると分かるのが、この攻勢は政治的な要素を多分に含まれた人間側の攻撃だな。つまり、監視者がどこかにいる。彼は、探知で、攻撃しているのではなく、気配を隠すことに従事している人を探す。彼はそういった人間だったからこそ、見つけるのが早い。一度、攻撃を受けているギルドの近くまで行き、跳弾と誘導弾を駆使して、撃ち抜いたあと、偶然見つけたスキルで遺体を原形が分からなくなるまで燃やした。人間を殺すことに少しばかり気が引けたが、ここで、自分の能力が見つかるのは避けたいがために監視兵全てを殺して回った。
市街地戦は地獄の様相だった。突然の攻撃により、最初の防衛は失敗、戦力の立て直しを図るために一時撤退し、街の半分を喪失する代わりに防御陣地を形成することが出来た。そのタイミングで彼女とシルヴィーが帰ってきたため、すぐに前線に投入し、それでようやく膠着状態へと持ち込むことが出来た。
「お待たせ、よくやってくれたね。さすがだ」
彼女たちが防衛している最前線へと彼は赴き、彼女と合流する。さらなる戦力が投入されたことを確認した軍勢は、これ以上の無謀な突撃をやめて、撤退していった。おそらく、本陣近くで立て直しを図っているのだろう。土で出来ているがために死体が残らない。どれだけの兵士を壊したのかは分からないが、攻勢開始から六時間。かなり削ったはずだ。
彼は彼女の頭を撫でる。シルヴィーはそれを見ていると、何かもじもじして尻尾をフリフリとしている。
「お前様、パーティはわしだけではないのじゃぞ」
「分かったよ。かみつかないでくれよ。シルヴィー、良くやったな。さすがだ」
彼はそういって、シルヴィーの頭を撫でる。本当に犬を愛でる気分になった。祠宇ヴィーは尻尾を勢いよくフリフリさせながら、恥ずかしそうな顔をして、
「街のためだから……。撫でられたいから頑張ったわけじゃないから……」
「はは、ありがとう」
一度敵が引いたことを確認したあと、アルフレッドを中心に防衛戦を繰り返していた冒険者達は亡くなった仲間の数を調べていく。それを見ているからこそ、彼はアルフレッドの元に行き、何があったのかを報告し、そのまま、攻撃案を提案する。
「ふむなるほど、洞窟の中には転移させるための魔法具があったのか。破壊できたのか?」
「いいえ、多分、破壊するのは不可能ですね。なので、嫌がらせのように罠を沢山張っておきました。そのため、撤退させるときは、追撃が可能でしょう」
「情報感謝する。ところで、先ほど、攻撃案があると言ったが、どういった攻撃だ?」
「ええ、ありますよ。そのためには、まず、動ける弓使いと剣使いを集めて下さい。この攻撃作戦は同時に防衛戦術になります」
「良いだろう。その作戦の指揮はお前に任せる」
「了解」
彼は後にして、一時間後、集められた冒険者達を前にして、作戦を伝えた。
「おお、面白そうじゃねえか。正面からぶつかり合うよりは面白いな。よっしゃ、俺は乗ったぜ!」「俺もだ!」「私も!」
すると、腰をツンツンと彼女がつつく、そして、彼の耳元で、
「ここは、何か演説があっても良いと思うのじゃ。こやつらを引き込めるのならば、やぶさかじゃなかろう。お前様の特技を見せてやるのじゃ」
特技って……。彼は少し恥ずかしくなったが、それでも、やってみる価値がある。
「皆、俺は、洞窟探索を行い、ドラゴンを倒しただけで、最初の撤退戦、防衛戦に参加することが出来なかった! 皆、俺たちはまだ負けていない! これは、勝つための戦い。死んでいった仲間達が先に死んだだけではないことを俺たちは伝えなくてはならない。今日、この戦に勝って、酒を飲み交わすとき、仲間を思おう。この攻撃は勝つためであり、仲間の死を無駄にしないために俺たちは勝たなければならない! いいか、俺が指揮を執る! 誰も死なせない! いいか、勝つぞ! アーレント、シルヴィー、皆、反撃開始だ」
全員で剣や弓を上に上げ、士気を高めた。
「「「「「「「「「おーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!」」」」」」」」
士気は最高潮に達した。
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