名もなき二人の無双撃 03

 その次の日から町のあちこちで銃殺された死体があふれてきていた。中には拷問された死体もあったし、これは関係しているか一切分からないが、血を抜かれた死体もあった。憲兵はこの異常性から魔物を疑ったが、あまりにも計画的な殺戮であったし、そのターゲットが全てマフィアの関係者であったことから対抗組織との構想だとも考えられたが、憲兵は一切その足取りをつかむことは出来なかった。そしてそれは、マフィアも変わらなかった。攻撃を受けたことを夜明けに知り、緊急で仲間を動員するが、その仲間が集まるところを一人一人片付けられていった。


 マフィアはギリギリ体裁を保っていたが、それでも、戦力のおよそ半数がたった一晩で消された。残った人たちは本部へと集まったが、それが仇となった。彼らはそれを狙っていた。人が集まるところにほころびが生まれる。恐怖から逃げ出そうとする者も多くいた。彼らはその意志のない者を襲い、殺した。前にも後ろにも死を目前としたマフィアの残党は烏合の衆と化していた。そして、彼らはそこを襲撃した。


 地下水道の広範囲を抑えていたマフィアはそこを拠点に行動していたが、元来迷路とかしてたこの地下水路は彼らにとって好都合だった。一人また一人と殺していく。叫び声だけが反響し、皆が恐怖した。彼は探知できる範囲の敵を全員殺し、最も人が集まっているところに足を運んだ。そこはなかなかに大きな部屋だった。入るなり50人ほどが彼の存在に気がついた。全員剣を抜いて、戦闘の態勢をとるが、これまで蓄積された恐怖から恐慌状態に陥っている者もいた。

「いつものなら、お前達に生きるなり死ぬなりを選ばせるが、今日はしない。今日はお前達の討伐が目的だ。だが、死に方は選ばしてやる。抵抗して死ぬか、無抵抗のまま死ぬか。まあ、好きに選べ。どっちにしたって、頭を撃ち抜いてやる。これは、せめてもの慈悲だと思え。お前達のやってきたことは万死に値する!」


 彼はそう叫び終えるとコートからM1911に似た銃を取り出し、構える。

「敵はたった二人だ、殺せ!!」

 中央の奥にいる敵の大将は仲間に死ぬことを命令する。彼はただがむしゃらに突撃してくる的を確実に撃ち抜いていく。

 敵が近づく前に彼は後ろで魔法の反応を感じ取って、華麗によける。

「へー、マフィアの癖して魔法使いまでいるのか。そして、この魔法。なるほどね。お前達の構成要員は先の大戦の復員兵か。だから、力を持っているのか。ユリア、魔法の妨害頼める?」

「お前様の頼みなら、きかないわけには行かぬな。任せておけ」

 彼女は体から赤い光を出し、あたりにそれを展開した。


 男達はそれを見てすぐに気がつく。

「広域妨害魔法……。そんな超高度魔術を!?」

 彼女は誇らしげに笑う。

「お主らに初めから勝ち目はあらぬ。我が主様の前に跪くが良い! そして、命を乞え! 恨みを叫べ! そして、死ね!」

 広域妨害魔法『インターフェレンツ』知覚領域内における任意の対象以外の善魔法行為の全てが妨害される。つまり、彼女が使うことによって、彼女自身とそして彼が一切その制約を受けることなく攻撃することが出来る。本来、この魔法は複数人で行わなければならないほど高度かつ魔力消費量も大きい。しかし、彼女はそれを一人でやってのける。


「ユリア、少し元気が良いな。ま、こっちもだけど!」

 彼は、遠慮なく撃ち続ける。弾が切れる気配がない。男達からすれば未知の武器だが、どのような武器にも限界がある。しかし、彼の持つ銃は違う。自らの魔法をその銃に付与し、実弾ではなく、魔法弾を撃ち込んでいる。もちろん実弾も撃てるが、そちらには限度があるため、基本的には魔法弾である。彼はその銃を『ノイン』と呼んでいる。そして、それを二丁構えている。二丁拳銃を使って、永遠に攻撃し続ける。半分以上がたった数分で殺された。

「ひ、怯むな! こ、殺せ!」

 リーダーの男は勝ち目の戦闘になすすべなく味方が消えていく。

「少し、実験したい武器があるから、少し使わせてもらうよ」

 彼はまたどこからともなく銃を取り出す。次は突撃歩兵銃アサルトライフルとして有名な銃。造形はどこかH&KのHK416に似ているが、やはり所々違う。魔力弾を撃ち出すおかげで内部機構がかなり簡素になっている。『ゲヴェアー』と名付けられたその銃は『ノイン』とは比べものにならない連射力を誇った。しかし、その分魔力の枯渇量があまりにもひどいので、これは、弾倉を持ちいり、あらかじめストックされた魔力弾が発射されている。しかし、実弾を詰め込んでいるわけではないので、同じ大きさのマガジンでも内容量は軽く100倍を誇る。


 そして、数秒後にはリーダーの男だけを残して全員殺した。

「お、お前! き、聞いたことがあるぞ。たしか、王都で召喚された英雄達の一人! でも、なんで、あいつらは、こんな田舎町に来るはずがねえ。だが、この強さは……」

 男の勘がかなり鋭いことに驚きだった。その鋭さを持ってしても、目の前の戦力を評価できないところが男の欠点だった。

「一人死んだ。そう、言いたいんだろ? 確かに俺は死んだ。だが、悪霊となって、ここに出てきた。お前に恨みなんかない。ただ、お前達を殺すことは、これから為されるべき正義に必要だから殺す。悪いな」

 そういって、引き金を引くが、男は寸前でよける。

 それを見た彼は感心した。

「なるほど、経験でよけたか。ま、戦死に対してこれは失礼に値するな」

 彼は、銃をマントの中に入れ、代わりにナイフを取り出した。

「そう、来なくっちゃ。かかって、来い! 俺様が相手してやる!」

 そういて、一瞬で彼の目の前に飛んでくる。少し油断していた彼は間一髪でよけ、一度距離をとる。

 そしてまた対峙する。次は彼の方から攻撃を始める。

 一気にまた距離を詰め、相手の剣を見てよける。そして、懐に潜り込んでナイフを振るが、それもよけられた。男は見かけ以上に俊敏で戦いづらい相手だった。


 ナイフと剣とではそのリーチ差からより懐に潜らなくてはならない。強化された肉体でも手練れ相手ではかなり厳しい。

「そのナイフで俺のとやりあえるのか?」

「まあ、どんなに切れる刀でも当たらなければ意味がないですからね。まあ、こっちのナイフも当たらなければただの調理器具ですからね。もう一度子tらから行きますよ!」

 彼はさらに早く男の近くに踏み込む。そして、拳を先に振り付け、男の剣を弾き飛ばした。そして、男の腹を切るが、かすっただけで、またよけられる。

「なるほど、先の大戦は激戦と聞いていましたが、生き残りというのは、戦闘力ではなく、その避けスキルで戦っていたって感じですね」

「ああ、俺の天職は見切り屋だからな。戦闘職なんだよ。かくいうお前は何者なんだ? 見たところ剣士じゃねえ。かといって弓兵でも、魔法兵でもない。お前が使っていた珍妙な武器。それは何だ?」

「これは、銃というこの世界にはない、武器ですよ。ここまで生き残った敬意を表して、僕が何者かを教えて差し上げましょう。僕の天職はガンスリンガー。銃の扱いに関しては誰よりも長けている。召喚された英雄の一人ですよ。まあ、それだけじゃないですが。でも、あなたは殺すのに惜しい人だ。でもね、僕は約束いたのですから。ねえ、バルトフェルトさん」


 男は自分が何者なのかを当てられてぎょっとした。

「てめえ、なんで俺の名前を知ってやがる。まさか……、くそ、あの女め」

「簡単な話ですよ。アリアさんに近づいた理由を考えたとき、おそらく、王都からやってきたのを知ったからでしょ? 金を持っていると考えた。誤算が多くあった。アリアさんを本当に愛してしまった。あなたは、悪党にあるまじき人間だ。だが、その戦闘スキルから一般生活も送れない。いくら見切りのスキルを極めたとしても意味はないですからね。最初はただ失踪しただけだった。でも、アリアさんを独占したいがために架空の借金を作り、縛り上げた。大方こういった流れなんでしょう。そこまで考えついた上で、僕には二つ、提案があります。ここまでやって何ですが、降伏して下さい。そして、自首して下さい。今なら、十数年後には出られるでしょう。も一つはこのまあ続けて、死ぬ。どっちが良いですか?」

「馬鹿にしてんのか? 誇りを捨て、外道にまで堕ちた戦士にまだ、生き恥を持てと? ふざけるんじゃねえ。どれだけ外道になっても、俺の芯にある戦士の心は折れちゃいねえ。俺は絶対に降伏しねえ、この戦いはな、俺だけの戦いじゃねえ。てめえに殺された仲間の敵なんだ」

「そうですか。残念です。それでは、あなたがまだ戦士であるなら、こちらも本気を出しましょう。そして、あなたの芯を折って差し上げます」


 彼はまた、さっきよりも何倍も速くバルトフェルトの懐に潜り込み、回し蹴りを食らわせる。もちろんそれは避けられる。しかし、彼は、さらに速く、そして苛烈に蹴りを続ける。バルトフェルトは反撃に出ようとするが、彼はその暇を与えない。分が悪くなり一度距離をとろうとするがそれすら許さない。

 バルトフェルトの目では最早彼の動きを捉えることは出来ていない。ただ、これまで習得してきたスキルだけで避けている。しかし段々と攻撃がかするようになっていく。

「さあ、ギアを上げていきますよ!」

 彼の蹴りはより一層苛烈になる。そして、そのまま、バルトフェルトの剣を折ってしまう。

「この程度何の!」

 バルトフェルトは力任せに彼をつかむ。羽交い締めの形となり、彼はそのまま固められる。しかし、彼はそのまま、彼の腕をつかみ、力尽くで引き剥がしていく。そして、そのまま投げ飛ばした。

「剣技でも、格闘でも勝てない。それでも、心では負けていない。なんて言いそうだから、僕はさらに徹底的にあなたを折ります」

 

 立ち上がったところをすぐに詰め、太ももをナイフで刺す。バルトフェルトは悲鳴を上げるが、彼は容赦なく、背中に回って蹴りを入れる。バルトフェルトは右から左へと蹴り飛ばされ、意識が何度も飛びかける。

「さて、時間の無駄ですし、そろそろ終わらせようか。最後にもう一度聞きます。死を望みますか?」

「抜かせ、殺せや!」

「分かりました」

 彼は痛みを感じる前に右腕を切り落とす。そして、その事実に気がついた頃には、バルトフェルトは地面に顔をくっつけて気絶していた。


「終わった?」

「うん。終わった。さ、速くここを……。あのな、ユリア、食べるのは何処でも出来るだろ? こんなむさ苦しいのを食べなくても……」

「でも、久々に質より量があるのじゃから、良いではないか。ほら、お前様も食べたらどうじゃ? 意外とおいしいぞ」

 彼女は無我夢中で死体にかぶりつく。彼もそれにつられて手当たり次第に食べ始める。

「お、意外においしいな。ただ、やっぱり脂っこいなー。もう少し、さっぱりしてもいい気がするけど、まあ、こんな生活してたら仕方ないよなー」

 腕をもぎ取ってその血をする。食事の風景はあまりにも凄惨を極める。しかし、彼も彼女もそうとは思えない。彼女の方はもう、何百年もそうしているからであり、彼もなれた。食事は生きるためには必要な行為だ。だから、彼らは死体を食らう。

「本当はの、何度も言うように生きた人間の方が新鮮で、さっぱりしておるのじゃ。一度でも、良いから駄目かのー?」

「契約したとき言ったよな? 食事のために罪のない人を殺さない。これは不文律だよ」

「お前様、罪人を食らうことの意味を分かっておるのか?」

 彼女は鋭い目つきで彼を睨む。

「ああ、もちろん。血肉は文字通り僕をつくリあげる。血は継承される。食べれば食べるほど、それが理解できたよ。でも、もう止まれない。僕が僕である限り飲まれないよ。飲まれたときは……」

「分かっておる。わしはなれておる。じゃがの、お前様は死なす訳にはいかない。何があってもじゃ」

「はは、ユリアの加護があればなかなか死ねないな。まあ、でも、僕もユリアを死なせない。僕とユリアは一心同体、だろ?」

 読んで字のごとく彼らは一心同体。それが、二人。


 一通り、食べたいだけ食べたあと、急ぎ足で現場を後にした。去り際に切った右腕から流れている血を焼いて止めてやった。

「生きて、償うと良い。アリアさんは待ってくれるさ」

 二人、腕組みしながら去って行く。誰もこれを行った者が何者なのかを知らない。名もなき二人の無双撃はこれから始まる。


 後日談、というか、彼らが去ったあと、現場に駆けつけた憲兵達はなれた人ですら吐き気を催すような現場だった。死体のおよそ半数以上が血を抜かれ、損壊が激しかった。まるで食べられたあとのように。その中で一人、腕を切られただけで気絶している男がいた。その男は保護されたが、後の調べでリーダーであることが分かった。リーダーであったことから投獄されたが、情状酌量の余地あり、と判断されたことから数年後仮釈放された。そのとき、赤髪のアリア、と名乗る女性が引き取り人となったらしい。

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