1章

1話

翌朝、昨日あんだけ寝たら快適な睡眠をとることができるわけもなく2時間しか眠れなかった。

 学校で寝ることになるかもな......。そんなことを思いながら今日も朝食を作る。

「おはよ~」

「おはよう和希、朝ご飯ならできてるぞ」

「は~い」

 そんなこんなで準備を済ませて、いつも通り学校へ向かった。

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 俺の通う篝坂かがりざか高校は総生徒数700人程度の大きくもなく小さくもない私立高校だ。これといった特徴はない。強いて言えば文化祭の規模が他校と比べて大きい。そのくらいだろう。

 教室に入りクラスメイトと簡単な挨拶をして席につく。周りが騒がしい。なにやら諸事情で遅くなってしまっていた編入生が来るらしい。

「なあ大樹、編入生が来るらしいぞ」

 と、俺はひとつ前の席の鈴木大樹すずきだいきに声をかける。

「どうでもいい......あと、気安く名前で呼ぶんじゃねぇ」

こんな態度ではあるが話しかければ無視せず返答してくれる。悪い奴じゃないのだ。

「女の子らしいぞ」

「どんな奴だろうと、オレはつるむ気なんざねぇ」

「ホモだもんな」

「何言ってんだテメェ⁉」

 いつもどおりの、面白い鈴木だ。少々中二病気味なのもこいつのいいところ。

 数名の視線を感じる。何か、腐った視線を。......気のせいだと思うことにした。

 そんなこんなで担任が教室に入ってきた。

「よーっす。出席確認......の、前に、先週伝えたように編入生がうちのクラスに来たぞー!いえーい!」

 担任は常にテンションが高い。

「編入生の鷹山さんだー!」

 鷹山......?教室に入ってきたのは、昨晩、山で出会った女__鷹山翔子だった。

 そういや引っ越してきたって言ってたな......。

 美少女の登場に教室がざわつく。かく言う俺も、

「大樹、編入生の鷹山さんは可愛いぞ」

 鈴木に話しかけた。

「さっきも言ったがどうでもいい......。あと、名前で呼ぶんじゃねぇ」

「もう少し肉がついてるほうが好みか」

 目がいい俺が見たところ鷹山のウエストは65くらいだろう。細い。

「は?」

 鈴木が俺のことを汚物を見るかのような目で見る。引かれた。

 鈴木の前でふざけるのは大概にしよう。


"閑話休題"


 鷹山は俺に気づいた様子はない。

 と思っていたら鷹山がこちらを見て僅かに目を見開いた。気づいたようだ。

 手をあげて軽く挨拶をする。

 鷹山のほうも軽く会釈をしようとしたように見えたが、

「静かにしろー」

 担任の言葉に遮られたようだ。間が悪い。

「んじゃあ、自己紹介を」

 担任が鷹山に促した。

「鷹山翔子、です。よろしくお願い、します」

 鷹山が自己紹介をした。昨晩のように漢字の解説はせず、ホワイトボードに自分の名前を書く。

 誰かが拍手をしたので俺もそれにつられて拍手をする。

「鷹山の席は真ん中の列の一番後ろだ」

 担任の言葉を理解するのに少し時間が掛かった。真ん中の列の一番後ろ......?

 俺の後ろだ。マジでか。

「よ、よろしく」

 机を担いで俺の近くまでやってきた。ん?......担いで?

 鷹山は、机と椅子を顔色一つ変えずに、俺の近くまで、来た。

「......」

 鈴木も呆けている。無理もない、自分より体格が小さい、しかも女の子が、机を担いで移動している。その光景を見て驚かない者のほうが少ないだろう。

「あ、ああ。よろしく......」

 こいつ、ちゃんと学校生活送れるかな......。

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