第11話 古狐

 どうやら俺は国民から期待されているらしい。

この国で長く続く戦乱を収めてほしいと。


 そのためにもこの戦で負けてはならない。

負けた瞬間俺の命はなくなり、国民は失望するだろう。


 「陛下は心当たりがありませんか?」


 「え・・・。」


 ムリ―ナ将軍に黒幕の心当たりがないか聞かれたが、

なにせ俺はこの世界に来て日が浅い。


 「黒幕になりうる条件は二人の王子の間を取り持つぐらい

双方と仲がいい人物です。」


 将軍は言う。

あれほど険悪だった仲を取り持つぐらいだから双方と深い関係を持ち、

さらには双方に反乱の勝算を理解させるほどの実力者なのだと。


 「まさか、ヨナファルド・・・。」


 「陛下もそう思っておられたか。」


 そう、ヨナファルドなら俺が来る前に近づいていた可能性がある。

どちらかの王子が国王になったとき甘い汁を吸うため・・・。


 「ヨナファルドであれば権力があるので兵を動かすのも容易い。」


 「ということは仮に将軍が北部へ進軍した場合に王都を占領し・・・。」


 「王都に控える陛下の首を狙う。」


 これが本当であるならば、ヨナファルドという者はとんだ古狐だ。


 「では、俺がヨナファルドを呼び出して問い詰めればいいのかな?」


 俺の質問に将軍は一言。


 「問い詰められればいいのですが・・・。」


 これには二つの意味がある。

まず一つ、ヨナファルドは気を読むのに優れており、

危険を察知して逃亡してしまう可能性。

 そしてもう一つはうまく言い繕ってしまう可能性。


 「では逃げられないように城門を閉じてしまえばいいのでは?」


 俺の素朴な疑問に将軍は苦い顔をしてこう言う。


 「聞いた話では門番にもヨナファルドの息のかかった者がいるといいます。」


 「・・・・・・。」


 どこまで用意周到なんだ、あの古狐は。


 (あの時、古狐を権力の座から遠ざけるべきだった・・・!)


 と、後悔する俺だが、こんなことを思いつく。


 (ここはあえて王都から逃がした方がいいのでは・・・。)


 この発想が事態を大きく動かすのである。

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