第5話 先帝

 これは3か月ほど前のことらしい。


 その時の国王、タダル王は臨終の時を迎えていた。

王には2人の王子がいたのだが、その二人はかなり仲が悪く

どちらかを次の国王に、と決めた場合にもう一方が反乱を起こしそうだった。


 先帝は悩みに悩んだ末、どちらも身内で争うようでは国を治められない、

ということで二人の王子ではなく、神に判断をゆだねたのだ。


 そして今に至るらしい。


 ってそんなことで転送される俺の身にもなってよ、と言いたい。

まぁここの国の人々にとっては大変なことなんだろうけど。



 大臣からの説明が終わり、案内された自室で俯きながら考えていると。


 「陛下。」


 その場に透き通るような声が流れる。


 (ん、この声は美女の予感・・・。)


 俺は覚悟を決めて勢いよく顔を上げる。


 がっかり、失望・・・。


 そこにいたのは昔、美女であった可能性も否定はできないおばさんだった。


 「私、陛下のお世話係を務めさせていただくマリー・パールと申します。

どうぞよろしくお願いいたします。」


 「あ、ああ・・・。」


 ぽっかりと口を開けたままにする俺にパール宮女長は一言。


 「お察しかとは思いますが声の若さだけが取り柄でございますので。」


 だからなんだ、別に声を聞いて美女だなんて・・・


 嘘はいけない、確かに期待していた。

落胆したのは間違いない。


 「この後はヤーレン・サラスに任せてありますので。」

 「では、これにて。」


 そういって宮女長は去っていき、すれ違うように一人の女性が入ってきた。


 (どうせまたおばさんだろうな・・・。)


 「陛下。」


 出た、今度は凛々しい声。今度は騙されないぞ・・・


 「宮女のヤーレン・サラスと申します。どうぞよろしくお願いします。」


 「・・・!」


 目の前に現れたのは長くて艶のある黒髪に整った顔・・・

まさしく美少女だった。


 (も、文句のつけようがない・・・!)


 こう思い、言葉が出てこない俺だが、彼女の次の言葉に違う意味で

心臓を射抜かれた。


 「陛下は、あまりにも威厳がないですね。」


 グサッ!!出会っていきなりそれ言うかよ・・・確かに威厳はないけど、

ていうかなりたくて国王になった訳じゃない。


 「あ、私何かひどいこと言いました・・・?」

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