大空へ伝わる大地の鼓動

 ノーサイト公国の丘陵はこの大陸ではとても有名だ。なだらかな小山が続き、自然豊かで空気もおいしい。どの分疲れやすいため、宿場町も多く点在している。この国は他国からの輸入物資を頼る傾向もあり、商業を営む人や運搬業を営む人たちからも注目されている。今朝も首都に向かう行商人や商人団、運送団体を見かけ、心の中で応援をした。

 今日は街から近く、比較的整備をされているこの丘の頂上で、そこから見える眺めに心を落ち着かせるつもりだった。だが、一番眺めの良い所には、すでに先客がいたようだ。どこかで見覚えのある人だった。


「やあ、いつかにあった空の魔術師さん」


 その言葉を聞いて、思い出す。いつかの旅の途中、大地が好きだと語った青年だ。


「そういうあなたは、いつかの旅の途中で出会った大地愛好家の人だね。こんにちは。お久しぶり」

「そんなまだ時間は立っていないと思うけど、お久しぶり。今日も散歩かい?」

「まあ、そんなとこ。君は、今日も大地を眺めている様子だね」

「もちろん。ここからの眺めは良いよね。この無限に連なる丘を見ていると、大地の力強さを感じるんだ」

「はいはい。分かってるよ」

「それならよかった」


 休憩用のベンチに座っている青年の隣に腰掛ける。木々の匂いは深呼吸を促され、ほっと溜息を自然につく。ここでお弁当でもあれば最高な一日になるのだろうが、今はそんなお腹は減っていない。


「ノーサイト公国もそんな治安がいい訳じゃない」

「急にどうしたの?」

「いやさっき、盗賊に襲われる運搬団を見てね。僕の地魔法でなんとか追い払ったけど、やはり、盗賊のようなならず者たちはこの国に潜んでるだって、実感したんだ」

「この国は初めてきた?」

「初めてではないけど、でも、今回の場面は初めて遭遇したね。他の国でもそうだったけど、物が集まる場所には盗賊も集まるんだって、改めて思っただけだよ」

「そうだね。でも、君はそういうのほっとかないタイプなんだ。ちょっと気弱な感じするけどさ」

「よく人の雰囲気を読み取れてる。実は前まではそうだったよ。でも、地魔法を学んで、この力を活かしたいって思ってね。攻守ともに安心感あるし、意外になんとかやれてるんだ」

「ふうん。まあいいんじゃない? でも、命は大事にね。なんのために生きてるのかを忘れたら、生きてるのが分からなくなるから」

「それは、経験談かな?」

「想像に任せるよ」

「分かった。ところで、君は地魔法は使えるかい?」

「一応は使えるけど、そんな使わないかな」

「ぜひ、地魔法はお勧めするよ。得に防御系とかに結構使えるし、安心感あるからさ」

「考えとくね。でも、こういうのはあれだけど、戦闘とかじゃ多分君より経験上だよ」

「そうだね。でも、それでもおすすめしたくてね」

「本当に大地が好きなんだ。改めて実感したよ」


 そんな何気ない会話でさえ、心地よく感じる今日は、何もなく平和に終わる。これも旅の醍醐味なのだ。人と話したい気分の時に話して、何も話したくないときには黙っている。何をするにしても自由で、自分で決められる。今は旅人ギルドが公式にチームの存在を全面に押し出してる中、私は一人、大空のような自由を以て、今日も旅をする。

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