大空へ轟く想い

 今日は大雨。気分が乗らない私は、旅人ギルドの支部の食堂でゆっくりとごはんを取っていた。この街の支部の食堂は少し狭いが、人が少ないため静かだ。私は窓際の席に座り、窓に落ちてくる大粒の雨を横目に見ながら、和の里が原産の米をスープと一緒に口に運ぶ。

 最近は旅路の途中で戦う相手が魔物だけではなく、反社会勢力や過激団体が多くなっている。その多くは他の旅人や商人を標的に悪事を働いているものだった。この間の知り合いの旅人の件と言い、ここの所裏の人間たちの動き活発化しているのかもしれない。のんびり旅をしたい自分にとってはこの上ない迷惑な話だ。


(何か良くないことでも起きそうだけど、自分から積極的に解決に行くのもなんか気分じゃないし、どうしたものか)

「そうかそうか! そりゃ大変だね。しかも今日はこんな大雨でお空の散歩も出来ないんじゃ、今日はベッドで一日寝てた方が有意義って感じ!」


 急に声をかけられ、少し驚く。声のした方を見ると、三角帽子をかぶり、肩ぐらいまである深緑色の髪を垂らせたフィアナがいた。その薄い水色の目を髪の間から私に向けている。彼女の言ったことからして、魔術で私の考えを覗いたようだ。


「あなたは確か、ノーサイト公国のベロカーラで魔力について熱弁していた……」

「あ、覚えてくれてたんだ! そう、フィアナ! あの時はもっと語りたかったよね!」

「え、いや、まあ、うーん?」

「なにその反応! ひどいな~せっかく魔力の素晴らしさを話したのに!」

「それで、今日は何の用? まさかまたご指名で演説でもする?」

「ううん、大丈夫! 今日はあなたに話したくて来ただけだから! あの時名前を聞くの忘れてたなってさ! 何て呼べばいい!?」

「……アルマリア。皆好きなように呼んでいるから呼び方はお任せするよ」

「了解!」


 フィアナは不敵な笑みを浮かべ、私の向かい側の席に座る。手に持っていたスタッフを窓の壁に立てかけ、ニコニコと笑顔で私の方を見ている。外の大雨の冷たさとは裏腹に、笑顔でほんのりと暖かな雰囲気を醸し出している。まあ、その中に感じるの不穏な熱意も感じるが。


「それで、話しってなにかな? 多分普通の世間話で済まないよね」

「そんな身構えなくていいから安心してよ! 私はね、あの時あなたに会って、奥底に眠る生粋の魔術師の雰囲気を感じ取ったんだよね! つまり魔法ラブってやつ!」

「ふうん。別にそこまでこだわりとかは持ってないけどね。強いて言うなら、空が好きってだけだよ」

「そうそれ! アルマから、空の匂いの魔力を感じるんだよね~。だから、もしかしたら、空属性の天性を持っているんじゃないかって思ってね!」

「空属性、ね。仮にそうだったとして、それがどうしたの?」

「どうしたのって、それはもう、珍しい空属性持ち何て、友達になるしかないでしょ! その尊い属性の力を世に広めたいじゃん! この世界でも少数で貴重な存在を、その素晴らしさをみんなに知ってほしいって思うじゃん!」

「それは熱心な事だね」

「それで、正解かな? どう?」

「教えない」

「なんで!」

「今はそんな気分じゃないから」

「ふーん。分かったよ~。気分が変わったら教えてよね!」


 フィアナは笑顔で反応する。しつこく言い寄ってくるわけではないのは好印象だが、前の熱弁と言い、なんだかこだわりの強そうな人だと思った。私はごはんを食べ終え、水で喉を潤す。


「まあ同じ魔術師同士、これから仲良くやっていこうよ! 困ったことがあったら協力するからさ!」

「その好意は素直に受け取っておくよ」


 知り合いが増えるのは旅人にとってはメリットしかない。フィアナみたいな活動している人たちも仲良くなっていれば面白い情報を持っていたりするものだ。それに人と関わるのは別に嫌いではない。人に合わせすぎることも苦手ではあるが。


「それじゃあ、友達になった記念に、ちょっとした情報を教えてあげる」

「それはありがたいね。一体どんな情報かな」

「最近さ、魔術を崇拝する組織が台頭してきてるんだよね。いくつかあるみたいだけど、総じて彼らは相当ヤバいんだってさ! 正義のためだとか、魔術のためだとか言って、人をぶちのめしり、盗んだりしてるみたい。アルマの潜在的魅力がそいつらに気づかれたらもしかしたら狙われるかもしれない!」

「ふーん。狙われるかは分からないけど、そういう組織って、普通に旅人にとっても脅威になりやすいし、気を付けるよ。でも、なんで魔術を崇拝してるんだろう?」

「まあ昔っからそういう魔法と魔術の間で派閥があるし、それの延長だろうね! 私はどちらも素晴らしいものだとは思うけど、魔術は非人道的な出来事とかに使われてたから、世間体としてはよく思われていないし」

「そういえば学校でそんな歴史習ったな。すっかり忘れてたよ。個人的にはそんな細かいこと気にしてないけど」

「世間はそうじゃないから難しいよね! その組織は魔術の復権を謳ってるみたいだけど、まあつまりはそういう組織には気を付けなって事!」


 魔術に妄信した過激組織。直接関わることはなさそうだが、自分の旅に影響がなければそれでいい。フィアナは話を聞いている限り、そこまで妄信しているわけではない様子。ただ、魔力そのものに何かしらのこだわりがあるようだ。自身の直感を信じるのなら、悪い人ではないのかもしれない。


「それじゃあ、私はそろそろ出るよ! また今度ごはん食べながら魔力の素晴らしさを語り合おう!」

「気が向いたらね」


 そうしてフィアナは席を立ち、食堂を去った。なんとも騒がしかったが、おかげで色々と情報を聞けて、繋がりを作れたのは良かったかもしれない。距離感は考えながらの方が良いかもしれないが。


(魔術、ね。別に何も考えたことはなかったけど、人によっては色々と思うところがあるのかもしれないのかな)


 魔術に対して自分なりに考えを巡らせながら、雨の街の散策のために外に出たのだった。

 

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