第8話 寂しさの反動
その日は雨でした。
ただでさえ憂鬱になるその日、寒くてだれかのぬくもりが必要でした。
私も378もお互いを必要としていると、私はそう思っていました。
けど省吾と弥勒を裏切る後ろめたさがなかったわけではないのです。
もちろん弥勒がきてくれたら
省吾が手元にいたら
果たして私は裏切ることをしたのでしょうか?
今更自分の行動を正当化しようとは思っていません
ただこの時の私は寂しさでいっぱいだったのです。
だれでもいい・・・。
そう思っている節もありました。
その気持ちに378を巻き込んだのです。
しかし378はとてもやさしかった。
そんな私の寂しさや気持ちを察して私を抱いてくれたのです。
私は弥勒とは違う378の燃えるような熱い行為に夢中になっていました。
そして…
終わったあとに我にかえったのです。
しかし後悔はしていませんでした。
しばらくして…弥勒の母がやってきました。
省吾を抱いてきた弥勒の母はこう言い放ったのです。
『身体が回復しだい次は女の子を産んでもらいますからね。最優先で身体を直すように…弥勒にもそのつもりで体調を整えてもらいますから・・。』
実はこの時代の子作りは女性にとって過酷以外なにものでもないのです。
弥勒と私の身体の相性では男の子しか産まれないのですが、女の子を産むためには何をするかというと体外受精しかないのです。
もちろん弥勒は精子のみ提供するので私のもとに来ることはありません。
私は弥勒の母に言われる日に卵子を取り出され体外受精された卵子をまた入れられるということをされるわけです。
そこに気持ちなんてものや授かりものという概念はなくただ生産されるそんな冷たい行為にしか思えなかった私は次の日荷物をまとめて病院から抜け出しました。
378とは治療の一環で連絡先を交換していたのでしばらく378のもとで過ごすことにしたのです。
そしてあなたが産まれました。
『竜馬は私と378との子供です。』
368はそういうと大きなお腹を抱えながら立った。
ログハウスの中で368はお茶を一口飲むと窓口に向かって外を見た。
杏菜はストールをもってくると368の肩にかけてあげた。
『竜馬は竜馬なんだよ!犯罪者につけるようなナンバーで呼ばれるようなことはしていないのに産まれてきたことが罪みたいに言われるのはおかしいと思うの!叔母様も!涼子叔母様も368なんてナンバーで呼ばれるようなことは一切していないわ!この世界は酷いところなの!!だから叔母様に頼んで竜馬を助ける手助けをしました。』
杏菜はそういうと椅子に座りコーヒーを一口飲んでふぅとため息をついた。
『あの人たちのしていることは人としてどうなの?ってことばかりしている。だから組織を立ち上げて竜馬のような子供たちを救うために活動しているの!竜馬も活動に賛同してほしい!』
『俺は…。どうすればいい?いきなり目覚めて2021年からこの世界にきて実は産まれてはいけなかったとか犯罪者だとか言われてどうしたらいいんだ?』
368は大きなお腹を抱えながら俺に近づいてきてそっと耳打ちした。
『竜馬…あなたは杏菜と一緒に活動に参加して…。私はこのお腹の子供を産んだらすぐあなたたちのもとへ行くから向こうで待っていてほしいの』
その目は涙で潤んでいた。
『あいたかった…。あえて本当にうれしかったよ。』
368はそういうとログハウスを出ていった。
俺たちはコーヒーを無言で飲みながら帰っていく368の姿を窓から見送った。
そして飲み干すとコーヒーカップを洗ってうつ伏せにし、手をタオルでふきながら杏菜にこれからどうするのか聞いてみた。
杏菜は考えながらも立ち上げたばかりの組織のことを話してくれた。
アングラというその組織は覚醒者を守り覚醒者のために戦ってくれる組織だという。
『まだ小さい組織だけど大きくして無視できないようにすることが目的なの』
そういうと杏菜は、組織の人間を紹介するといってログハウスを出る準備をしだした。
荷物をまとめるとまた車に乗り込み移動を始めた。
『この車は捨てられていた車を修理して使っているの。今生産されている車は監視機能がついているので使えない…。だから注意して!今の車に乗るようなことはしないでね』
車種が2000年代の車なんだろう…なんか見たことのある車だとは思っていた。
ハイエース?
しばらく走っていると森の入り口に差し掛かっていた。
森の入り口付近で車を止めると降りるように促された。
『ここからは少し歩くから荷物をもってね』
『わかった』
近いのだろう…杏菜はまわりをきょろきょろ見ながら慎重に歩を進めていく。
『セキュリティールームに立ち寄るね。そこで竜馬の身体検査をするわ』
『身体検査って何ももってきてないよ』
『たまに身体にチップを埋め込まれていることがあるの』
『チップ?』
『彼らは数年前にできたアングラ組織を潰すために竜馬のような覚醒者の身体を利用して場所を特定しようとし始めているわ』
『俺の身体の中にそんなもんが…』
『だからそのチップを取り出しておかないと大変なことになるの』
ということは今でも監視されているとみていいのだろうか?
身震いした。
どおりで楽に出れたわけだ
『隔離施設といいながらも彼らはある一定の人間を自由に出入りさせているのはそういうことなの…。私も持っていたわ…でも取り出して今はそのチップは自宅のぬいぐるみの中に入っている。ばれたらまた隔離されるわね‥だから自宅では自由にしゃべれないけど外では自由に活動もしているわ』
そうこうしているうちに小さいガレージのような建物が見えてきた。
中にはいるとわりとガレージだと思っていた建物は中はきれいだった。
なんかの探知機みたいな機械を動かして頭から足の先まで調べていると右腕のあたりでブザー音が鳴った。
『ここね…。』
鳴ったところにペンで×をつけるとそこに注射をいきなりした。
『え?なに?』
『取り出すからじっとしてて』
そういうと手際よく×をつけた腕周りに紐をしばり出血をしないようにするといきなり切り開いた。
『うわぁ!』
腕が切り開かれて中から小さいチップを取り出すと手際よく出血と縫合を終えた。
『しばらくはぴりぴりすると思うけどすぐに落ち着くはず!痛み止め飲んで』
『ありがとう』
杏菜はにっこり笑うと
『このぐらいなんでもないわ…。』
そう言ってチップをもって隣の部屋へ行った。
しばらくしてチップを綺麗にしたものをもって戻ってきてさっきまであったそのチップを袋に入れて首からもたせてくれた。
『チップは破壊せずもっておくといいわ…。取り出したなんてばれたら今度は脳に埋め込まれるから注意して』
『わかった』
『この袋は組織の建物の中に入ると自動的に違う場所へ入ったように誤作動起こしてくれるものだから心配しないで…。位置の特定ができないようになっているから安心していいよ。』
『杏菜は大丈夫なのか?』
『え?』
『だって杏菜にもあるんだろ?』
『私は大丈夫よ!自宅にあるし』
『もし自宅にいないってわかったら?』
『それはないわ…。その時は家族を捨てるし』
『え?』
『うちは父もアングラに入っているの』
すごい家族だな…。
『たぶん入っていないのは母だけ…。その母も死んだけどね』
『ごめん…なんかいらんこと聞いたような気がする』
杏菜は首をふるふるふると
『大丈夫そんなこと気にしてないしね』と言ってくれた。
杏菜がお父さんとアングラに入ったきっかけは亡くなったお母さんだった。
杏菜が産まれてしばらくしてお母さんは男の子を産むため体外受精の手術を勧められた。
なんでもこの世界では一人目は自然受精だが二人目からは体外受精が決まっているらしい。
その時に事件が起きた。
杏菜のお父さんの精子が使われなかったのだ…。
だれだかわからない人の精子と掛け合わされた受精卵を入れられた杏菜のお母さんは心のバランスを崩し鬱病になってしまったという。
それを知ったのは出産間際…。大きなお腹の中にいる父親の違うこどもが産まれてくることを恐怖した杏菜のお母さんは大きなお腹を抱えて自殺した。
『私のお父さんはね…こんな世界間違っているって訴えたいんだと思うの!私も同じ!人のすることだから間違えは必ずあるといっても…お母さんにしたら怖かったと思うの…。だって産まれてきた子供は半分は自分の遺伝子だけど半分はだれの遺伝子がわからない…そんな実験的な子作りってある?』
『そもそもなんでそんな世界になったんだ?』
俺はなんかよくわからないがそうなった原因があるんじゃないかと思って聞いてみた。
『今の女性に強制的に男女1人ずつ産むように法改正されたのは今から2500年前ななんだけど、それまでは少子化が進んで子供が産まれない時代が何年か続いていたわ…。そんな少子化を止めるために法改正されて今の女性は1人2人つづ産むというシステムに代わっていったの…。番号システムもそうだし今の時代はね遺伝子の相性まで決められていて結婚する人はもう決まっていたりするの…。だけどそんなシステムでもうちの母のように間違いは起きる…。だからそんな法律は消さないといけない…。』
『そんなことできるのか?』
『できるできないじゃないの…これはやらないといけない』
しばらくして俺たちはそのガレージを出てさらに森の奥に入っていくことにした。
ガレージを出てしばらく歩いていると前からがささっと音がした。
『君たちの仲間は迎えにくることってある?』
『いえ・・・基本的にはないわ…』
じゃあこの草をかき分ける音は…
『伏せて!』
杏菜はそういうと茂みに隠れた
俺も同じように隠れて音の主をやり過ごそうとした。
追手か?それとも・・・・!!!
緊張して手に汗が…。
『杏菜?』
茂みをガサガサかき分けてやってくる人はそう言って近づいてきた。
『だれ?』
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