第5話 未来って?

『また君か…。』

 少年はふぅとため息をつくとこちらに近づいてきて話し始めた。

『状況がわかるかい?369番』

 え?369番?って俺?

『そうだよ369番君のことだよ。』

 薄茶色の髪の少年はそういうとさらに近寄って耳打ちするようにささやいた。

『ようこそ5022年の世界へ』

『はぁ?』

『君の名前は369番だ。この世界では遺伝子の合う相手じゃない場合、犯罪率があがるという理由から、間違えてできた子供や、遺伝子が合わないのに愛しているからといってできた子供に対して睡眠療法をおこなっている。』


 俺はいきなりの説明に頭が真っ白になった…。

 どういうことだ?

 というか今俺は何をしているって?

『睡眠療法だよ。んで失敗したんだ、今回で3回目。やっぱり不適合潜性遺伝子体はだめだな…。』

 そういうと少年は長い棒のようなものを手にこちらに近づいてきた。

 俺は意味がわからず少年をぼーと見ていたが

『不適合潜性遺伝子ってなんだ?君はだれだ?』と尋ねた。

 少年はふむ…と興味深けにこちらを見ると

『君は今睡眠療法というものを実施している不適合潜性遺伝子体と呼ばれるものだ。』

 といきなり説明しだした。

『先ほども説明したけど、君たち不適合潜性遺伝子体は生まれるはずのなかった子供たちのことだ。けど君の場合、間違ったわけではなく愛というもので精神のつながった者同士から生まれた子供だったので睡眠療法を施すことになったんだ。』

 真っ白な部屋真っ白な服そしてどこからともなく水のせせらぎや小鳥のさえずりが聞こえるおかしな空間。

 ここは本当に未来?

 2021年じゃない?

 気分が悪くなってきた…。

『今君のいる時代は西暦5022年、夢治療で設定している時代から3001年たった時代に生きている。わかるかい?』

 いや…わからん…。

 正直ついていけてない…。

『混乱しているのは仕方がないが、君が繰り返しみている夢の内容だがある程度こちらで操作していたものだった。それはわかるかい?』

 いやわかんない…。


 少年はふぅ~とため息をつくと

『勝谷 竜馬と呼ばれる名前は仮想夢世界での君の名前であり本当の名前は369である。君は何度も間違いを繰り返してしまいシステムのバグがひどくなってしまったため強制排除された。ふたたびもとに戻ることはないし戻すつもりもない。君を一時拘束する。』

 そういうと身体の自由がきかなくなった。

 さきほどの長い棒みたいなもので何かしたらしかった。

 俺は拘束された状態で白い部屋の中から運びだされた。


 運ばれている間、何人もの人が俺をじろじろ見て

『おい不適合児か?また失敗したのかよ』

 と少年に声をかけていた。

『失敗だよ…。今から本部に行って369の処遇を決める裁定を行う予定だ』

『ああ…結局処分対象になるな』

 処分対象?

 なんだそれ?

 少年は不安そうな俺を見て

『これはいうつもりはなかったのだが、失敗した君はこれから裁定を行うことになっている。このことは君が生まれた時に決まっていたことであり、今までの睡眠療法については君がちゃんとこの世界でも生きていけるかどうかを見るためのものでもあった。』


 俺はごくんとつばを飲み込んで少年を見ていた…。

『君は睡眠療法の世界でも不適合と診断されてしまった…。あとは裁定のみを待つしかなくなってしまったのだ…。君は悪くない。恨むなら368と378を君をこの世界に生むことを決めた人を恨むんだ。』

 俺の人権って…。

『いいかいこの世界に人権はない。』

 びっくりした

 こいつ頭んなか読めるのか!

『ある程度、君が何を考えているのかはわかるよ。』

『俺はね…君369の兄弟なんだ。ちゃんと名前もあてがわれていて勝谷 省吾しょうごっていうんだ。君の監視をするためにここに来たんだよ。なんとなく君と似てるだろ?でも君と違うのはね、君は愛で生まれた子供だけど僕は遺伝子の合う人同士で結ばれて生まれた子供なんだ…。わかるかい?』

 気分が悪い

 悪い冗談であってほしい…。

『君のお母さんはぼくを生んでくれたお母さんでもあるんだ‥‥。君のお母さん368はね…僕の父さん勝谷 弥勒みろくと一緒になって僕が生まれてきたんだ…。でもね僕を生んだ後カウンセラーの378の世話になった時に彼と心でつながりをもてたとか言ってね…。

 378は産後セラピストだった。僕を生んで心の均衡が保てなくなった母を治療したのが378、君のお父さんだった。僕の父は378との関係をそれは激怒し二人を離したけどすでに君がお腹にいて…。この世界ではね無理にお腹の子供を殺して母体を傷付けることが禁止されているんだ…。そうして君が生まれて君は睡眠療法に入るための施設に入ることになったというわけなのさ…。』

 長い廊下を歩いている間、少年はいろんな話をしてくれた。


 省吾と話しているとなんとなく睡眠療法の中にでてきたある人を思い出させた。

 なんだろう…初めてあった感じがしない。

 そうこうしているうちにとある扉の前に連れてこられた。

 大きな鉄の扉でどうやって入るのか皆目わからないのっぺりした扉だった。

 ドアノブもなかった。

 そこへ前に立つと鉄の扉があき中が見えた。

 中にはいくつかの透明な扉が仕切られておりその中の一つに入るよう促された。

『君はここに数日滞在することになる。様子を見に来るが逃げようとは考えないように!睡眠療法の世界では生きていけても、ここの世界では君は逃げても生きていくことはできないのはわかっているね。』


 そうだ…逃げたところで生きていくためのすべがわからない。未来の貨幣をもっているわけでも出て生活するための衣食住がどのようにすればいいのかわからないからだ。

 俺はおとなしくしておくことにした。

 催眠療法の内容を思い出しながらなぜあのような内容の催眠療法にいたったのかが皆目わからないかった。

 3度も失敗していると省吾は言っていた。

 ということは3度とも同じ状況だったということ?

 なぜ夢の中の設定がそうなってしまったのか…。

 どうしてそれでもなお不適合だと言われたのか

 俺には皆目わからないことだらけ…というよりもあまりにもこの世界の情報が不足している。

 生きていくためにはどうしたらいいのかわからないけど、生きていくための情報を集めていくしかないじゃないか!

 そう思うととりあえずこの部屋の中を調べてみることにした。

 ガラスで仕切られたその部屋の中は本当に何もなくてたぶんだけど床に表示されている数字が7や12や17になったら横の壁から自動的にトレーが出てきて食べ物を与えられるというものらしいかった。

 そして床に表示されている数字が6とか18になると着替えがやっぱり横の壁から出てきて隣に設置されているお風呂とかシャワー室があらわれる。

 まるで監獄のような部屋

 そこで四方八方から適温のお湯がシャワーのように飛び出し勢いよく洗われて温風が吹き出し一瞬にして全身が乾く。

 そんなことを繰り返していた。

 娯楽といえば本や映画などが壁に映し出されたものを見るという感じになるが映し出される映画や本は2021年ぐらいの懐かしい作品ばかりだった。

これは配慮だろうか?

 そうこうしているうちにある日、女の人がやってきた。

『こんにちわ!私、杏菜って言います!よろしくね』

『こんにちわ…えと杏菜さん?ここからいつぐらいに俺は出れますか?』

『ごめんなさい…私わからない』

『そしたらわかる人に聞いてきてもらえませんか?』

『それもできない…あなた名前は?』

『俺は竜馬です。』

『そう…竜馬私はある人に言われてここに来ただけなので本当にわからないの』

 おれは杏菜と呼ばれる女性と話をしていて何か違和感を覚えたが、ただ彼女の話が楽しくてだんだん今の自分の状況のことなんか忘れて彼女と話をした。

 杏菜はここの職員らしく白い看護婦のようなデザインのぴったりしたウェットスーツのようなものを着てきた。

『何か不自由にしていることとかある?』

『そうだな…杏菜は毎日ここへ訪ねてきてくれるの?』

『そうよ~いつでも呼んでほしいわ』

 年齢はいくつなのか不明だったが彼女といると楽しかった。

『私ね料理を今度挑戦してみようかと思うの』

『何作るんだい?』

『ロールパンとかどう?』

『難しそうだね。できたら俺にも食べさせてくれる?』

『もちろんいいわよ!絶対おいしく作って見せるよ!』

 ころころよく笑う杏菜を見ていたら涼子のことを思い出していた。

『どうしたの?竜馬元気ない?』

『なんでもないよ』

『うそ!なんでもなくないね!ちょっと寂しい眼をした』

 杏菜は俺の顔を心配そうにじっと覗き込んだ。

『杏菜が…睡眠療法をしていた夢に出てきた人に雰囲気が似ていて…ちょっと寂しくなっただけだよ』

 杏菜ははっと悲しそうな眼をすると

『竜馬…あの夢の世界に帰りたい?』と聞いてきた。

『あれは夢だったんだろ?帰れないよ…。』

 眼がしらが熱くなる…

 なんか寂しい…とてつもなく

 今までこんなことなかったのにやっぱり杏菜という存在がそうさせるのだろうか?

『竜馬…私また明日も来ていい?』

『絶対に来てほしい』

『じゃあその時にロールパン焼いてもってくるよ!』

『楽しみにしている』そういうと杏菜は部屋から退出していった。

 一気に一人になると寂しさが募ってきてなんともいえない気持ちになる。

 俺は今後どうなるのだろう、あれから省吾は一度も来ないし

 話に出てきた義理の父も出てくる気配はない。

 あたたかな食事をもらいお風呂にはいってさっぱりした後、眠りについた。

 この見る夢もまた夢なんだな…。

 そう思いながら俺は2021年の大学に行って友達と話たりして楽しんでいた夢を見るのだった。


 次の日…省吾が久しぶりに部屋にやってきた。

『元気そうだな』

 本当に俺とそっくりだな…そう思いながらじろじろ見ていると

『そっくりだけど種違いだぞ』と嫌味をいった。

『父さんには会えるの?』

『いや…会いにくるのは俺だけ』

『かあさんは?』

『お母さんは今病院だよ』

 どきっとした。

『どこか身体が悪いのか』

『君を無理に生んで身体を悪くしたんだ…。君のお父さんが…カウンセリングしていたと言ってただろ?本来は僕を生んだ時点で二人目を望めない身体だったんだ』

 それなのに俺を生んだのか…

『今母さんのお腹には3人目の女児がいる』

『え?身体が悪いのに3人目を生むのか?』

『決まりだよ…男児を生んだ後、女児を生むって決まっているんだ女児はもちろん僕とおなじ兄妹になる。』

『女性は生涯2人しか子供を産んではいけないことになっている。男児と女児一人ずつしか…なのに無理に君を生んだことで死亡リスクが上がってしまったんだ。』

 時間が止まったかのように感じるぐらい部屋の中が一瞬静まりかえった。

『君は悪くないんだけど、けどこの世界がこういうシステムになっている以上僕としては君という存在を許したくないんだ。』

 俺という存在を許したくない…その気持ちわかるようなわからないような…。とにかく複雑な気持ちでもやもやしていた。

 省吾の父親もそうなんだろうか?

 俺の父はどうしてそんなことをしてしまったんだろうか…。

 聞きたくても聞けない…。

『一度でいいから母に会わせてもらえないか?』

 省吾は首を横に振りながら

『僕でも会えないんだ…残念だけど』といった。

 悲しくて…もうこの世界にいたくない…そんな気持ちになっていた。

 省吾の帰った後、杏菜が元気よく部屋に入ってきた。


『竜馬見てロールパンもってきたよ!』


 俺を見た杏菜はもってきたロールパンを落とした。

 さぞ顔色も悪く絶望的な雰囲気をまとっていたのだろう…。


『竜馬!泣かないで!お願い!そんな悲しまないで!杏菜が傍にずっといてあげるから!』


 そういうと杏菜は絶望でぼーっとしながら静かに涙を流している俺をベットに押し倒し突然薄く柔らかな唇を俺の唇に合わせた。

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