第4話 思いもよらないこと…

涼子の自宅に行く途中で涼子にあった。

俺たちは駅前にある喫茶店にいくことにした。

『竜くんひさしぶりだね』

涼子はどことなくやつれた感じがした。

『おう!元気してたか?』

涼子はふるふると横に首をふると

『最近会いにきてくれないからおかしいと思ってたんだよね…。なんでだろ?ってそしたらね…いきなり知らない人を連れてきて婚約者だって言われて紹介された…。』


『‥‥。』

『勝谷はもういいのかって…その人、勝谷くんを竜君を知ってた。』

俺は鼻の人差し指でぽりぽりかくとバツが悪そうに涼子を見た。

『実はな、お前の両親にもうお前に会うなって言われているんだ。俺じゃあお前を幸せにできるとは思えないんだってさ…。』

涼子は口のはしをぎゅっとかむとこちらをきっと見て

『私は竜ちゃんの婚約者だよ!今でもこれから先も竜ちゃんとの幸せしか見えていないの!だからそんなこと言わないで会いに来てほしい!』

眼がしらが熱くなった…。

俺は知っている。

俺は2回も涼子を死なせてしまった。

だからこの先も涼子を幸せにできるのかどうかわからない…。

正直幸せにできるという確証がないのだ!

もしかしたらまた死なせてしまうかもしれない…。

そう考えると涼子のお見合いの話が出ている今、俺とのつながりがなくなることで涼子が違う幸せの道を歩いていけるならそれはそれでいい…。

そう思ってしまう自分がいるのが正直な気持ちだった。


『今さ〜事業を立ち上げて運営をしている最中なんだけど…うまく行ったら涼子も手伝ってみない?』

涼子は目を見開いてこちらをじっとみた。

そしてふっと笑った。

『ありがとう竜ちゃん』

俺としては涼子がなにか夢中になれるものができて結婚という選択肢以外にもなにかできることがあればと思って親切心で話した。

今の涼子は見合い結婚しかないみたいな感じだったからだけど。

違う選択肢を涼子の親は潰そうとしていた。


さっそく妨害1が向こうからやってきた。

『なんだよこれ』

いきなりのメールと請求書

なにがなんだかわからなかった。

文部省からの通達で昨年から法改正があったのは知っていた。

しかも今回は「授業目的 公衆送信(遠隔授業) 補償金支払い」についてだった。


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     「授業目的 公衆送信(遠隔授業) 補償金支払い」について


                             2021年4月吉日


寺子屋web様


 令和3年度から、著作権法改正に伴い、遠隔授業において、各種著作物を添付して送信する際、補償金が発生することとなりましたので通知いたします。

貴社におかれましても全学生に対して、一人あたり年額792円(税込)『大学生の場合に限る。』かかりますのでお支払いのほどよろしくお願いします。

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誰かがたれこまない限りこんなメールは届かないはずだ。

ということは…涼子の親か?

うちで預かっている学生数はかなりいる。

大学生だけでも50人ほどだ

高校生もいる

かなりの金額を収めなくてはいけない。

なにか方法はないだろうか?

俺は爪を噛んで考えた。

どうしたって無理な金額だった。

こんなことでつまづくことなんてできない。

そうか・・・・遠隔でしかもweb通信でおこなっているからこんなことになる?

そう考えると遠隔ではなくおくるだけの通信に切り替えてはどうだろうかと考えるようになった。

それでも念には念を入れて遠隔ではなく対面という形でやることにした。

そんな矢先である…

申し合わせたように

『このご時世なので対面ではなく遠隔で授業を行いたい。』

そういう先生が増えたのだ。

基本的には対面でやっていく方向で話を進めていきたいところだが

このように一人でも遠隔で授業をと言われるとなんとも言えないのである。

『体力に自身がないのであれば別にやめてもらってもいいのだが・・・。』

しかし新規に参入した塾は弱い

実績がまだないために今後の実績が生徒数を決めるといっても過言ではないのだ。

今生徒数が集まっているのは教員のレベルである。

東大や京大はもちろんいろんな大学を出た勉強のエキスパートをそろえているからというのもある。

しかも塾講師といっても正社員で雇用している。

教員免許をもったきちんとした人に来ていただいているのだ

その教員の質は落とせない。

何かいい手はないものか思案したあげく投資家に相談するしかなかったので

投資家の善財氏と会うことになった。


善財氏は今回の件についてよくわかっていたようだった。

打ち合わせ先のホテルに早めについて紅茶を飲みながらまっていたからである。

『善財さんお久しぶりです。』

『やぁ…元気だったかい?』

この善財氏は俺が今の寺子屋webを立ち上げる時にお世話になった人だった。

『寺子屋webのことでご相談があるんです。』

『聞いたよ…。教師だちがこぞって遠隔にしろと言ってきてるようだね。』

『遠隔にするにしてもきちんと授業がおこなわれているかどうかを確認するのにこちらも新しいシステムを導入しないといけない状況でして…。』

『システムの導入は簡単ではないね』

『費用もかかりますし、なにしろ今の料金プランでは新しいシステム導入までは資金が足りません。』

『だからといって新システムのために料金プランの値上げは他の大手の塾に生徒数をとられてしまうってことだね。君の塾の強みはなんだい?』

『自宅にいても授業がうけられるというのが強みでした。』

『それ以外には?』

『教師の授業の面白さです。生徒はその面白い授業を受けることで勉強ができるようになっていくのを肌身で体験するということです。』

『カリスマ教師かぁ…。いいねぇ…そういう特色をもっと広げていけばそこから突破口が見つかるかもしれないねぇ…。』


そうだ…いいところは強みでありこの塾の特色だ…。

教師一人一人の能力がよければ生徒も食いついてくる。

そう考えると俺なりの答えが見つかったような気がした。


『君はなんでも一つのことしか見ようとしない…けど全体で見て違う視点で見るのもいいかもしれないね。』


『ありがとうございます。持ち帰って検討したいと思います。』

俺ははたと何をおもったのか善財氏に

『それと新システムの導入も進めていきたいので、またその際はよろしくお願いします。』とだけ言っておいた。

善財氏は

『君には期待している…。頑張りたまえ』とエールをくれた。


帰り道…

夜の公園を横切って自宅に帰る道すがら涼子が待っていた。

『竜ちゃん…いま帰り?』

『待っていたのか?』

『うん…なんかごめんね…。』

涼子が謝っているのはたぶん事業のことだろう。

『気にしなくていいよ。いつかそういう壁はあるものさ…早くわかってよかったと思っているよ』というと。

『竜ちゃんは優しすぎるよ…。』

『そうかな?』

『うん!そうだよ!』

えへへと笑う涼子の顔はどことなく心配そうだった。

『まぁ大丈夫だよ!涼子は心配するな!それよりも夜でも寒い中外で待つのはだめだよ。身体が丈夫じゃないんだから…。今度からは連絡をくれたら涼子の来る時間にあわせて帰るようにするからね…』

『ありがとう竜ちゃん…。』


その日は有名な天体ショーがある日だった。

24年ぶりに行われるスーパームーン

以前あったのは1997年

たしか俺が生まれた年だった。

その時は終末思想な人たちが多く

赤い月はその象徴みたいな感じで当時敬われていたというのは母から聞いた。

俺は韓国街で買ってきたヤムチョムチキンを片手に書類とにらめっこしていた。

書類をにらんでいたわけは

最近の授業にかんする報告書の内容である。

よりによってスーパームーンの時にこんな問題を抱えなければならないなんて

とんだ天体ショーだよと心の中で唱えながらも、どうするべきか迷っていた。

遠隔授業だけではなくてこんなことにも頭を抱えなければならないなんて…。

俺はこの事業を成功させて涼子や涼子の両親に認められたい!

そしてもう一度涼子の婚約者として戻りたい。

そう考えながらも報告書の内容を見てため息をつかざるを得ない状況だった。

残念ながら天体ショーは天候の悪さのため見ることはできなかったが


その日…

変な夢を見た。

薄暗い部屋の中でもわっとした鉄のさびたような匂いがこもるその部屋で

『不適合潜性遺伝子体め…お前は本来生まれてくるべきではなかった…。』

という声が聞こえた。

初めて感じる恐怖だったと思う。

朝起きると全身が何かをかぶったように汗でぐっしょり濡れていた。

さすがに気持ちが悪いのでシャワーを浴びて着替えをすませると自宅を出た。

今日は1限目から講義がある

事業をしながらも大学だけはしっかり行って経済のことを勉強しないといけない

そう思いながら大学へ向かった。

教室について授業の用意をしながらもまだドキドキしていた。

あの夢はいったいなんだったんだろう・・・。

気になって気になって仕方がなかった。

その日の授業はさすがに上の空だったに違いない。

一個も頭に入ってこなかった。

教授は

『珍しいこともあるもんだな…まぁあまり根詰めるなよ』と言ってくれた。

部屋の中で違和感を覚えた。

その日の大学の講義をすべて済ませ自宅に戻ってきたのだが何か居こごちが悪い。

そんな時だった…

頭が激しくドクンドクンと刻むような痛みが走り

眩暈でいきなり、視界がぼやけるというか空間がねじ曲がっていくような感覚になり…。

気がつくと白い部屋の中で俺は立っていた。

目の前にはさらっとした薄茶色の髪の毛の少年?が立っていてこちらを見ていた。


『また君か…。』

少年はふぅとため息をつくとこちらに近づいてきて話し始めた。

『状況がわかるかい?369番』

え?369番?って俺?

『そうだよ369番君のことだよ。』

薄茶色の髪の少年はそういうとさらに近寄って耳打ちするようにささやいた。

『ようこそ5022年の世界へ』

!?

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