第3話 お前は絶対幸せにはできない

プルル…

携帯がなっている

こんな朝早くになんだよ…。

それは園子そのこからの電話だった。


『はい…』

『竜ちゃん…りゅりゅが…また入院した…。』

!!!!


どうして?

気持ちを落ち着かせながら手早く着替えて病院へ向かう。


俺…また何か間違ってしまったのか…。


病室に駆け込むとそこに涼子りょうこが横たわっていた。


『竜ちゃん…。ごめんね…。心配かけたよね…。』

『いいから!ゆっくり休め!』


なにがあったんだいったい。

涼子りょうこはあちこちきずだらけであざもあちこちにできていた。あきらかに暴行された痕だ。


その場にいた警察官の話では、涼子りょうこはストーカー行為をうけていたらしい。なんでだよ!なんで言わないんだよ!

しかも記憶では小学生からだろ!

そんなに俺って婚約者として頼りないか!


ここ数日はエスカレートしていたらしい。

涼子りょうこは耐えきれなくてとうとう倒れてしまったというところだろうか・・。

今度こそまちがえたくないのに…。

なんでこんなにしかも涼子りょうこにかぎっていろいろあるんだ…。

俺は涼子りょうこから離れられなくなった。

何かあるんじゃないかと気が気じゃなくて!


もしかして…

そもそもの話、俺は涼子にとってお荷物みたいなものとしか思われていないのか?

それかもともと釣り合っていないとか‥‥。

そう思われる要素があるから狙われる?


大学のセミナーで考えごとをしていたら教授に

『何をそんなに考えているんだい?』と言われてしまった。

俺はちょっとため息をつくと


『どんなに努力をしても報われないときってあると思いますか?』と聞いてみた。

教授はうーんと考えたあと

『まぁ君が何を努力したかはともかくとして、報われるために君は努力をしたのかい?』と聞いてきた。

『いえ…最初は守るためでした。でもどんなにその人を守ろうといろんな努力を重ねても結局は守れないんです。』

先生はふうーとため息をつくと

『でもだからといって努力なしに人はその人を語れないこともあるもんだよ』と言ってくれたがよくわからなかった…。


『君は報われたいと思うほど努力をしたのかね?』


そう言われて俺ははっとした。

言われるほどしていない・・・。


そう考えるとなんて自分勝手で涼子のことを思っていると口で言っててもまったく何もしていない自分ということに気が付き恥ずかしくなった。


帰宅しようと病院を出ると雨が降っていた。


しとしとと降る冷たい雨に打たれて俺はしばらく考えながら歩いていた。

ふと雨が当たらなくなり気が付くと傘をさしてもらっていた。


『大丈夫ですか?』


おかっぱのその女性はセミナーの時間に見たことのある女性だった。

『あー宇月さんでしたっけ?傘ありがとうございます。』


おかっぱの女性はいえいえと照れながら微笑み

『ちょっと深刻そうな顔をして雨にうたれて歩いていたので心配になりました。』と俺に話しかけてきた。


『心配ないです。すみません…。』

『いえいえ…とんでもないです!特になにもなければ全然大丈夫ですよ!ただ傘はさして帰ったほうがいいかもしれませんね。今日は寒い雨なので風邪ひきますよ。』

宇月さんはそういうとにっこり微笑んで傘を貸してくれた。

『私はもう一本折り畳み傘を持っているので大丈夫です。』

『すみません…借りていきます。』

『どうぞどうぞ~』


自宅に帰ると母が心配そうな顔をして待っていた。

『涼子ちゃんどうだった?』

『今のところ心配ないらしい…。』

『そう…涼子ちゃん昔から体が弱かったしね…。とにかく早くよくなるといいわね。』

『明日も病院に行ってみてくるよ』

『そうね…そのほうがいいかもね。』


どうしたら涼子は幸せになれる…?

どうしたら死んでしまうという最悪な結末を変えることができる…。


この世界にもう矢野はいない…。

だから慎重に動かないと今度こそやり直しがきかないかもしれない…。

そもそもなぜ今まではやり直しがきいていたのか?それすらもはだはな疑問ではあるが…。


次の日も俺は涼子のいる病院へお見舞いにいった。

見舞いのお花とお菓子を買い病室へ向かう。

いろんな看護婦さんから

『こんにちわ~』とあいさつをされ

『こんにちは』と返す


病室へ行くと涼子は眠っていた。

涼子のお母さんがお花を受け取り花瓶に差し替えてくるねといい席をたった。

腫れた顔はまだなまなましく

見ているだけで痛たましい気持ちになった。

左目に眼帯をつけて唇は赤く腫れ、どす黒い痣が昨日よりも浮き上がっていた。

『あれ?竜ちゃん…』

気が付くと涼子が起きて右目でじっとこちらを見ていた。

『よう…大丈夫か?』

『うん…昨日よりは薬が効いていて痛みはないよ』

『そっか…』

『竜ちゃんいつもありがとう…』


涼子ははぁとため息をつくとゆっくり起き上がって目の前の机に置かれたコップの水を一口ごくんと飲んだ。


『どのぐらい入院するんだ?』

『全治1か月だそうよ』

『そっか…。』

『でもね‥‥退院日がまだ決まってないの…人によって治りが違うらしくて…おおよその期間だからまた退院日決まったら教えるね』

『あんまり無理すんなよ。』

『うん』

『あ!おまえの好きな侍のプリン買ってきたから食欲あるようなら食べてくれ』

『ありがとう~竜ちゃん』


俺は『お大事に・・』というと病室を後にした。

その足で大学に授業を受けるため向かった。


セミナーの授業が始まる前に宇月さんに昨日の傘を返却してお礼を言った。

『助かりました。ありがとうございます。』

『いえいえ…お役に立ててよかったです。』


彼女はフフフと笑うと白いワンピースを翻して教室へ入っていった。

『お礼とか…』

『必要ないですよ~気にしないで』


そろそろ授業が始まるな…。

大きな机が教室の中央に置かれていてその周りに椅子がおかれている。

教授が何か配り説明をするために自席に座る。


『今日は2回目のセミナーなわけだが…全員いるかね?』

『教授まだ一人きていません』

『まぁ時間なのではじめようか…』

教授は配った紙の説明をし始めた。


『君たち1年生は卒業研究のためにいろんな分野を勉強することになります。その中で自分にあったテーマを見つけ研究するための準備をおこないます。2年生になりましたら、あらかた研究しつつあるテーマにそった研究内容をレポートにして提出してもらいみんなの前で発表します。そして3回生になるまでにどのセミナーに入るかを決めて面談をおこないます。』

みんなドキドキしながら教授の話を聞いている。

『いいですか!1セミナーに8人しか入れません…人気のあるセミナーはすぐに埋まっていきますので自分はどこのセミナーに向いているか?どこで研究したらいいアドバイスをくれる教授がいるかよく考えて行動してくださいね。』


そういうと配られた紙をみた。

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今後のセミナー活動行事

① 2回生セミナー中間発表会

   ・レポート提出

   ・セミナー教員シラバス配布

② 3回生セミナー配属決定

   ・シラバス資料に書かれた面談日に面談

   ・配属決定用紙の提出

③ 3回生セミナーでの卒論準備

   ・現在の4回生の卒業論文発表会の手伝い

   ・発表を聞いて質問(自分の時のために参考にする。)

④ 4回生卒業研究中間発表会

   ・タイトル提出

   ・レジュメ提出

   ・卒論研究発表途中経過発表会

⑤ 4回生卒業論文発表会

   ・タイトル提出(基本的に中間発表のタイトルを提出)

   ・レジュメの提出

   ・論文の提出

   ・発表教室にて予行練習

   ・当日発表

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とまぁこんな感じでスケジュールが書かれていた。

医大の時ってこんな感じではなかったな…。

どっちかっていうと研修ばっかりだったような気がする。

研修医時代は一番きつかったけど

まぁ勉強事態は嫌いじゃなかったし

まぁ医大の大変さに比べたらどうってことはないか…。


『楽ができると思ったらおおきな間違い…ちゃんと1年の時に基礎教科を学んで、いろんな経済誌を読みなさい。』

『教授!経済誌とか買うお金ありません!』

『うちの大学には図書館があります。そこで経済誌を扱っていますので借りて必ず読むように』


買う金ないとか…図書館いったらいくらでもあるのにあいつアホだなw

『BIG LIFE』とか『日本経済新聞』そして『日経パソコン』…いくらでもあるのになw

『センチュリー』とかも読んでおもしろかった…。

最新のビジネスの紹介やビジネスで成功した人の話があったり今後くるであろう法律の改変の話も掲載されている経済誌は俺が何をすればいいのかの選択肢を与えてくれる…しかし情報量が多いので迷うことがしばしばだが…。

それに日経パソコンでは今脅威となりつつあるランサムウェアウィルスの情報なども掲載していた。

そしてこのコロナ禍の中での新しく参入してきたビジネスのことなども触れていた。

昨年の1月から経済にダメージを与え続ける新型コロナウィルス…。

1年の研修医時代に一度コロナ患者を治療している現場を見たことがあるが、そのころエクモが数台しかなく亡くなる人が続出していた。

このころコロナの関係で4回の研修期間をずらして研修されられることが多かったため入ってすぐに研修をすることが稀にだがあった。

だからやり直しの時にはなんとかこのチャンスを…と思っていたけど考えてみたら、俺はコロナが発症したばかりの時は、高校生だったのでコロナの時にくるビジネスに着手できるような環境にいなかったためたくさんのビジネスチャンスを得ることができなかった。

俺にできることは涼子を守るために自分がどうするべきかを考えて行動すること、それしかなかった…。

図書館に通いビジネス誌を借りて読み、そして書き出して…。

とにかく自分が興味のある分野についてとことん調べつくした。

ワクチンの会社とかケータリング会社とか…病院経営についても考えてみたが、リスクがあるため慎重にならざるを得ない分野ばかりだった。


大学から帰ると涼子の両親がきていた。

『竜ちゃんいつも涼子のことを気にしてくれてありがとうね』

『いえ…。それよりもどうしたんです?』

『涼子のことで話があってね』


リビングの椅子に座わるよう促され俺はカバンを横において座った。

『実は涼子に縁談の話がきていてね。』


固まった…。

時が完全に止まったと感じた

だけど残酷にもそれは続いていてぼうっと遠くでだれかが話をこちらにおかまいなくしてくるが内容が入ってこない…


『そこで竜君には悪いんだが、私たちはこの話を進めようかと思っている。』


俺は『冗談ですよね?』というと


涼子の両親は

『冗談ではなく本気だよ…。だから竜君には悪いけど涼子を諦めてもらえないだろうかと思って』

 『竜くんの涼子への気持ちは本当にわかる…けどねもう限界なの』


『結局のところ君にはそう考えている…。』


俺はそう話す涼子の両親をじっと見ながら聞いた。

『涼子はなんて言っているんです?』


両親は

『涼子には私たちのいうことに従ってもらうから言う必要などないと思っているよ。とにもかくにももう病院や家には来ないでほしい。』

そう言い切られてしまった。


悔しいことに俺はなにも言えなかった…。

自分の部屋に行き今日起こったことを考えていた。

俺はまたもこの世界の涼子とは幸せになれないんだろうか…。

眼がしらが熱くなり嗚咽がもれた。

死に別れよりもつらい選択じゃないか…。

俺はもう涼子の人生にかかわることを今後許してもらえない…。そう思うと情けなくて悲しくてもうどうでもいいやって気持ちになっていった。


冷蔵庫から冷えたビールを拝借し黙って自分の部屋で飲んだ。

嫌なことがあると以前でもビールを拝借し飲んでいた。

医者を目指していた時も

身体を鍛えて格闘技を習っていた時も

けど今回は大学に入ったばかりでまだ未成年なのだが飲んだ

今日あったことが頭の中をかけめぐり寝付けないというのもあったけど

やっぱり一番は涼子の両親に言われたことが自分なりにだいぶ応えていた。

その日から俺は涼子に会いにいくのをやめた。


それからは大学生活のほうが忙しくてとてもじゃないけど涼子や涼子の家族のことそして自分の周りの人間のことなど見る余裕は一切なかった。

大学在学中に企業をしてみたいし

とにかくなんでもやってみたいという欲求のほうが勝ってしまって他を見るゆとりが俺にはなかったというのもあった。

教授に声をかけられてとにかく自分のアイデアを出しどうしたら実現するかディスカッションを繰り返しおこない。

企業するための仲間を集めて毎日ミーティングをおこなった。

そしてなんとなくだがイメージが出来上がってきたので個人でやってみることにした。


それはこのコロナ禍でまともに学校に通えていない子供たちの新しい形の教育のための塾と銘打ってはじめられた。

素材はもちろんのこと

何をしたら一番勉強がわかりやすいのかとか、いろんな媒体からアンケートをもらい

なんとか形にしようともがいた。

そしてネットを介した新しいタイプの通信塾『web寺子屋』が完成し運営を始めた。

もちろん小学生から高校生まで教えるタイプの塾にしようと思ってシステムを作った。

最初の登録時にどこに通っていて進学先を選択すると今の授業プラス進学する学校のためにはどこを勉強すれば効率的かをデータベースで算出し学生一人一人のペースにあわせて授業をおこなっていくやり方だ。

これのいいところは授業に合わせて教材と食材を送ることになっていて日にちにあわせて学生は夜食も食べることになっている。

大学受験を目指す高校生向けで共働きの子供対象にやったらこれがあたった。

自分で夜食を温めなければならないめんどくささがあるがもうひとふんばり頑張りたい高校生にこの方法はよかったみたいだ。

暖かいうどんやおにぎりでもう少し頑張れる

そういう気持ちが授業の内容を早く吸収できるように見受けられた。


俺はリーダーとして通信塾『web寺子屋』を運営し全国展開するためにいろんなニュースに取り上げてもらったりし頑張った。


やっと軌道に乗り始めた時…。

ふっとまた涼子のことが頭の中によぎった。

あいつ…今何してるだろう‥‥。

涼子の親にもう会わないでくれと言われたあの日から半年…。

話が進んでいるんだろうか…。

心配だったがうちの両親は俺に遠慮して涼子の話をしなくなったし

なぜか園子からも連絡がとれなくなっていた。

心配だが仕方がない…俺にしてやれることはほっとくこと…。

そう思っていた。

そんな時だった。

プルルルル・・・・・。


『はい』

『竜ちゃん…。』

『涼子か?』

『うん…お願い今からあって…。』

『どうした?』

『いいから』


うむをいわさずそういうとスマフォの通話が切れた。

胸騒ぎをおこしつつも涼子の家の前まで行ってみることにした。

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