【第2章】第16話 二人で一つの生き物。

「まだ外で普通のデートをする気になれないわね」

瑠色るいは、力斗の裸の胸に頬をすり寄せた。

「無理でしょう。お互いにからだが欲しくて堪らないんだから」

力斗は笑いながら、瑠色を抱き寄せる。

(ああ、この完璧な結合感はなんだろう!)

局部だけでなく、皮膚と皮膚、いや、全ての毛穴という毛穴がぴたりとはまっている。ただ寄り添い合っているだけで、得も言えず心地好いのだ。

(力斗の心が好き。軆も大好き)

できることなら1つに溶け合ってしまいたい。毎回別れ際になると、そう切実に望んだ。

 カラオケも映画館もドライブも旅行も、何も要らない。食事さえ要らなかった。

(力斗以外、要らない……)

瑠色は力斗にしがみついた。

 独身時代は、交際していた男に気の利いたデートスポットへ連れていって欲しいと当然のように思っていた。イベントやオシャレな場所、綺麗な風景等を一緒に愉しみたかった。SEXはそんなデートの一部に過ぎず、せいぜい1時間も肌を合わせれば充分だった。

 でも、力斗は違う。人目のある所へなぞ出掛けている暇はない。欲しいのは二人きりの時間だ。瑠色のデートの目的は、"力斗"なのだから。

 瑠色は、彼もそう思ってくれていることを知っていた。互いに、互いと逢うこと以外にしたいことはない。

 どんなに洒落しゃれた場所も、美味うまいレストランも気の利いた映画館も必要なかった。二人はただ、互いの心と軆に、熱く震えるような想いを流し込み合うために逢っている。

「私、貴方と映画館へ行ったとしても、くっつきたくてしょうがなくなっちゃうわ。きっと、スクリーンに背を向けて、貴方に股がっちゃう」

「映画館でSEXしちゃうの?」

力斗が呆れて笑った。

「外でデートしていたら、とても我慢できないもの」

「それじゃあやっぱり、しばらくはホテル以外でデートできませんね」

そう言うと、力斗は瑠色を向こうへ向かせ、後ろから強く抱き締めた。

 瑠色は、力斗に背後から抱かれるのが好きだ。好きな男の胸にしっかり包み込まれながら、耳やうなじ、肩に優しく口づけされると、しびれた。

「ああ、こうしていると、すごく自然だな」

と力斗は思わず洩らし、ため息を吐く。

「自然?」

「そう。こうしてくっ着いているのが通常な気がするよ。箸や手袋が、二つ揃って一つなように」

 二人は、この日何度目かの快楽の渦に呑み込まれていった。

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