【第1章】第2話 出会い系サイト Ⅱ
💎前回までのあらすじ💎
【 結婚以来20年近く見慣れた、朝の出勤風景。
するとすぐに、瑠色の専用ページ『マイルーム』が立ち上がった。
次は、そのマイルームの自己紹介欄を完成させなければならないようだ。
入力画面に、ハンドルネームや居住地域、配偶者および子供の有無……等々、順々に入力していく。
入力を進めていくと、スリーサイズからセックスの好みのスタイルまで書かされるのには驚いた。
(バスト : Cカップ、ウェスト: 60cm、ヒップ……しばらく計っていないから判らないわ……)
ここ3年ほど、毎朝欠かさずストレッチと軽い筋トレをやっているせいか、最近は同性の知人、友人たちから時々、けっこうグラマーだとか、ウェストが引き締まっているとか、お尻がピンと上がっているとか言われるようになり喜んでいたところだが、ヒップのサイズまで分からないし、計るのも面倒なので空欄にしておいた。
(セックスの好みって……何があるのかしら?)
これも、どんな趣味嗜好があるのかまるで分からない瑠色は、“ノーマル”と書いておいた。
アブノーマルなプレイにどんなものがあるのか知らないが、瑠色はここ10年、ノーマルなセックスさえしていなかった。
インターネットやコンピュータ操作だけでなく、恋愛やセックスにだってすこぶる
瑠色はふと、自分を俯瞰して眺めているもう1人の自分の視点に気が付いた。
(こんなことを、あなたがするなんてね……)
まるで見知らぬ女が映る映像を観ているような感覚に陥った。我が事ながら、他人事だった。
⭐ ⭐ ⭐
夫の
それで瑠色は、こうしたサイトがインターネット上にあることを知ったのだが、結婚した以上夫一筋であるべきだと
不特定多数の飢えた男たちが集まるサイトで、どこの誰だか定かでないヤカラとセックスしてトラブルに発展した女たちを、瑠色はこれまで冷ややかに見てきた。
そもそも彼女は、中学に上がった頃から、男の話となると目の色を変えて競争心を
瑠色は優等生だったがオッチョコチョイなところがあり、それが可愛らしい外見とあいまって、少なからぬ男子生徒たちの関心を引いていた。
しかし、同性からは「ぶりっ子!」と
中学生の瑠色の目には、先生や男子の前では好ましく振る舞いながら、影で自分を
10代の初めに、女は男が絡むと
この傾向はずっと変わらず、出会い系サイトなんぞで男を
「自業自得よねぇ。そこまでして男が欲しいのかしら……」
と声をひそめる女性事務員達と一緒になって、瑠色もつい先日まで、冷笑していた。
中学の同級生たちの成れの果てを見ているようで小気味良く、復讐している気にさえなれた。
ところが、そんな自分がたった今、その
20年近く繰り返してきた朝のルーティンとは全く異なる事をしている今朝の自分を、どこか現実感のない他人事のように感じるのは、これまでの自分自身とあまりにギャップが大きいからだ。
加納健は、3年前に新たに入所してきた若手だ。
新人ながら裁判所からの信頼も早々に取り付け、ベテランでもなかなか振り分けてもらえない管財事件などを、わりあい頻繁に回してもらえるような優秀な弁護士である。
⭐ ⭐ ⭐
サイトのプロフィール登録画面を
『お相手に求める条件』とあり、性別にチェックを入れようとして思った。
(性別?そんなの男性に決まっているじゃない。いや、待って……男性は、恐いわ)
瑠色は“女性”の項目にチェックを入れた。レズビアンを募集するつもりだろうか。
彼女は幼い頃から、セックスに対して恐れを抱いてきた。一方で、大人になって結婚したら、好きな男の人と、映画や小説の中で描かれるような甘美な交わりができるに違いないと信じていた。
ところが、数少ない交際した男性たちとはみな、最後までできたことがなかった。
そして、夫となった
憲介の愛撫は、性急で乱暴だった。
見合いをした2ヶ月後に婚約し、初めて交わった時、瑠色が処女だと判ると、
「なんだ、処女かよ……」
と、憲介はいかにも面倒臭そうに顔をゆがめた。
瑠色はショックを受けた。
母親からは、まともな男性は、結婚相手に選ぶ女性には処女を求めるものだ、と教わってきたからだ。
憲介は明らかに面倒そうだったものの、初めて2人で入ったラブホテルのベッドの上で、瑠色の体を一通りいじり、早々に挿入しようとした。
ところが、ショックを隠せない瑠色の
憲介は、
「ほら、
と、大きい手で瑠色の両
しかし、瑠色は緊張するばかりで、ますます全身をこわばらせた。
身長は180㎝近くあり、当時は今より痩せていたとはいえ体重が75㎏を超えていた憲介は、小柄で
丸太のように太い腰が彼女の両
憲介が、瑠色の上で規則的な運動をしている間、彼女は重苦しさと痛みに耐えた。
(いつ終わるのかしら……) 一刻も早くこの苦役が終わって欲しいと願った。
憲介が、腹だけでなく、胸の上にものし掛かってくると、瑠色は「うっ……」と苦しさにあえいだ。
耐えかねた彼女は、それでも大分遠慮しながら、小さな声で頼んだ。
「ちょっと、苦し……もう少し……」
「え?」
憲介が、息を乱しながら問い返す。
「もう少し……優しくして……」
次の瞬間、彼は瑠色から体を離すと、ぷいと背を向けた。
「そういう事は言うもんじゃない。白けるだろ!」
「ごめんなさい」
瑠色は慌てて謝った。
このとき彼女は、30歳近くまでセックスを経験してこなかったことを後悔した。
母の教えは間違っていたのだ。
これではかえって、男性に負担をかけ、
「もう帰ろう。……そのうち慣れるよ」
憲介が、こわばった表情をしながらもそんな風に言ってくれたのは“優しさ”だと、瑠色は感謝した。
シーツには、血液が
(そう、きっと慣れるわ。だって、結婚生活は長いのだし、憲介さんは私を好いてくれていて、これまでずっと優しくしてくれたのだもの。
男性にしてみたら、2か月前にお見合いをして、
瑠色はこう考えると、憲介の後ろに付いてホテルを出ながら、彼とこれから始める結婚生活に対して、
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